閑話1 メリルの、とある1日 前編
使用人の朝は早い。
主君より先に起き、色々な準備や手入れをするからだ。
……だが、エルメント家は、違う。
使用人達は、主君であるエルメント辺境伯の剣の素振りの音を聞きながら目覚める。
「ふぁ〜。もう朝なのです。早いです。」
そんなことを、呟きながら起床するのは、レオン付きメイドのメリルだ。
メリルは、朝に弱い。その為、朝になると本来の口調に戻ってしまうのだ。
「今日も仕事です。頑張るです〜! ムニャムニャ……Zzz」
ち、遅刻です!
2度寝してしまいました!
セバス様に怒られてしまいます……
早く服を着替えて、出仕するです!
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「メリル、遅刻だ。」
間に合いませんでした……
「セバス様、遅れましたことを、お詫び申し上げます。」
「はぁ…とりあえず、早く並びなさい。」
『ご当主様、おはようございます』
朝の仕事その一、アルフレッド様へのご挨拶。使用人一同揃っての挨拶です。普通の貴族家なら、この場合、御主人様は寝間着姿なのですが……
「うん。皆おはよう。」
アルフレッド様は、剣術用の服です。それもそのはず。エルメント邸に仕える使用人の起床の合図は、ご当主様自らの剣の素振りの音なのですから。
初めてエルメント家に仕えた時は、驚きました。仕える物が、仕えられる物より遅く起きて良いのかと。しかし、先輩曰く、
「いいのよ〜。エルメント家は、代々これが普通なの。エルメント家に仕えるということは、いざという時は最前線に立って戦うということ。少しでも多く体力を温存しておかないといけないのに、深夜まで働いている私達を少しでも多く休ませる為に、という理由でこの制度はできたのだから。」
これを聞いた私は、エルメント家の皆さんはなんて優しいのかと感動したのを覚えています。
さて、朝の仕事その一が終わると、朝の仕事そのニです。屋敷中の掃除。掃除の手際の良さや、綺麗さで、使用人の格が決まります。
本来であれば、私もメイドの一人として朝の掃除をするのですが……私には、それ以上に重要な仕事が有りますので、朝の掃除は行いません。
代わりに……
「失礼致します。レオン様、起床の時間でございます。」
レオン様のお世話をします。
レオンを起こして、レオン様のお顔を洗う水を魔法で出し、レオン様の体調をチェックし、レオン様の洋服を選び、レオン様の着替えを手伝い、レオン様の御髪を整え、朝食の準備が整うまでレオン様のお相手をし、レオン様を朝食の席にご案内し……レオン様のお世話は、やる事が多くて、とても大変です。
しかし、レオン様のお世話係になれて、本当に良かったと思っています。
レオン様は、とてもお優しいのです。貴族の一人息子であれば、普通は傲慢になりますのに、使用人一人一人にお気遣いくださる、優しい御方なのです。
私には、リフチーノ侯爵家にお仕えする友人がいます。リフチーノ家も、エルメント家と同じく一人息子がいらっしゃいますが、とても我儘で、暴力・暴言は日常茶飯事なのだそうです。
仕える人物によって、こんなに環境が変わるのかと衝撃を受けたのを覚えています。
次の投稿は9月15日です。
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