25,洗礼を受けよう!
「レオン、今日は【洗礼式】だ。2刻後に出発するから、準備しなさい。」
「はい。父さん。」
今日は【洗礼式】だ。
創造神様から【固有スキル】をもらう日。
今年、5歳の誕生日を迎えた全ての人が、各地の教会でスキルを頂く。
俺に掛けられた制約の一つ。
『洗礼式で良いスキルを貰えない』
が、発動される日だ。
俺がこの制約の存在を知ってから、一番恐れている日。
前世のように、両親を失望させてしまわないか。
心配で、心配で、心配で、心配で。
……俺は眠れなかった。
俺の洗礼式が行われるのは、創造神様と武神サルファンを祀る教会だ。
アルフレッド父さんは、5歳のときに、ここで洗礼を受けた。
エルメント邸からは、馬車で半刻。
刻といえば、この世界の時間の基準は、○の△刻というらしい。
前世でいう、0時から6時までを『星』と言い、6時から12時、12時から18時、18時から24時までを順に『日』『空』『月』と言う。
一刻は2時間で、星の1刻だと、2時頃。空の2と半刻で、17時となるらしい。
……最初は混乱した。
「レオン、行くぞ。」
「はい。」
どうしてラズリが、創造神様から頂く【固有スキル】に口出し出来るのかが不思議だが、俺が5歳になったからには教会に行かなければならない。
覚悟を決めるしかないのだ。
『行ってらっしゃいませ。アルフレッド様、アリアーヌ様、レオン様。』
見送りの声が聞こえる。
こうして俺は、不安を抱えながら教会に行くことになった。
「エルメント辺境伯様の、ご到着!」
いよいよ、洗礼を受ける。
「エルメント辺境伯家に、神のご加護があらんことを。」
出て来たのは、神に正式に仕える人のみが着用できる服を着た、白ひげのお爺さんだった。
失礼だが、容姿からして結構なお年なのに、仕草一つ一つに丁寧さが溢れていて、顔さえ見なければ、全然ご高齢には見えない。
「本日は、レオン様の【洗礼】でしたね。こちらへどうぞ。もう準備は整っております。この時間帯は、エルメント辺境伯家以外の洗礼は行いませんので、緊張なさることは有りませんよ、レオン様。」
「は、はい……。」
俺は、どんなスキルを貰えるのだろう?
「では、手を前で組み、膝を地につき、創造神様にお祈りください。」
「はい。」
「我々をお創りくださった、慈悲深き創造神様。この度、レオン・フォン・エルメントが5歳になり、御身にお仕えできる日がまいりました。どうか、この者に加護をお与えください…ラーミラル・アル・フィールル・ナロン……」
……この者に、加護を与えよう……
……もし、汝が望むなら……
……もし、汝が願うのなら……
……私は加護を与えよう……
……汝に与えし加護は…【努力】……
……励みなさい、何処までも……
……励みなさい、いつまでも……
……もし、汝が望むなら……
……もし、汝が願うのなら……
……私は、汝の声に応えよう……
「創造神様、感謝致します。」
「感謝致します。」
最後の言葉は、どういう意味だろう?
「これにて、洗礼式は終わりです。何のスキルを頂けたかは、教会から出てからご確認ください。」
「え?」
神様? が、言ってたよね?
「何か…?」
「創造神様?が、教えてくれたよ。」
声がしたもん。
「……レオン様、ご冗談を。神の声が聞こえるのは、教皇様だけですよ。」
「え、でも…」
「レオン、洗礼式も終わったことだし、帰るぞ。」
皆は、あの声が、聞こえなかったの?
「エルメント辺境伯家に、神のご加護があらんことを。」
「え、え…?」
混乱する俺を乗せた馬車は、何事もなかったかのように、教会を走り去るのだった。
次の投稿は、9月7日です。
書き忘れていましたが、エルメント邸の襲撃の謎については、ちゃんと説明がありますから、ご心配なく!




