92,エルヴァン君を鑑定しましょう
エルメント家のシティハウスからギルドまでは、馬車で約20分ぐらいだ。
その20分の間にも、やることは沢山ある。
一、薬草君に名前をつける。
ニ、エルヴァンを鑑定する。
三、依頼を受けてくれた冒険者達への挨拶の言葉を考える。
主に、この3つだ。
一とニは、薬草君とエルヴァンとの約束なので、ちゃっちゃと終わらせてしまいたい。
三は意外と重要で、挨拶の言葉によっては、俺の印象がガラッと変わってしまう。上から目線で言えば、傲慢な貴族家の坊っちゃん。しかし、あまりへりくだっても、依頼主として、そして、クロシアム王国の貴族としての立ち位置が低くなってしまう。
上から目線過ぎず、かつへりくだり過ぎない、丁度良いバランスの挨拶を考えなければならい。
……あー、だるい。
まあ、取り敢えず、先にエルヴァンの鑑定をしますか。
「エルヴァン〜、さっき言ったと思うけど、君を鑑定するから、抵抗しないでね」
隣の席で、物珍しそうに馬車の窓からクロリエンの街並みを見ているエルヴァンに声を掛ける。
「抵抗するな、って言われてもねぇ。無自覚にしちゃうかも。ほら俺、スキル【守護者】をGETしちゃうぐらいだし。外からの攻撃に敏感なんだよね……まあ、そういう環境で育ってきたからね……」
「ん? 『そういう環境』って?」
気配を探る訓練でも受けてたのかな?
にしては…………『怯え』の感情が見えるのは、気のせいかな?
「え、ああ、ほら、獣人族は森の中に集落を造って住んでるから、魔物とかが良く集落を襲いに来るんだよ。だから、常に気を張っていないといけなくてね」
早口で言う、エルヴァン。
常に魔物に襲われる危険の中で過ごしていたのなら、外からの攻撃に敏感になるのも当たり前だし、多少の『怯え』の感情が現れることも不思議ではないか……
でも、なんか引っ掛かるんだよね。
もし、エルヴァンが言っていることが本当なら、わざわざ早口で言う必要は無いし……
わざと早口で言って、俺を混乱させるようにしているのか?
はぁ、人の心は今も昔も、わからないな。
「そうか? まあ、良いや。(どうせ、鑑定したら『説明』の欄に何か書いてあるでしょ)」
「(はぁ。なんとか誤魔化せたな。レオンに無駄に心配を掛けたくないし、今はもう、彼奴等とは縁を切ったのだから、考えるのは辞めにしよう。あとは【鑑定】さえ、乗り切れば…………あれ、【鑑定】って、何が表示されるんだ? レオンの話し的に、多分、ステータスだよな。『ステータスオープン』だったら、自分にとって都合が悪い部分は隠せるけど、鑑定って、抵抗しなければ、全部ステータスを強制的に見られるんじゃ……不味いぞ。ステータスには、『説明』の欄がある。説明の欄には、俺が今さっき誤魔化した内容も書いてあるはずだぞ! ヤバイヤバイ。どうする? 今からでもレオンに上手に理由を付けて断らないと……)レオン、やっぱり【鑑定】の件なんだけど、俺、抵抗しちゃうかもしれないから『ステータスオープン』じゃダメかな?」
ん? いきなりどうしたんだ?
顔色も悪くなって来ているし……?
「安心しろ! 王都内に魔物は出ないぞ!」
何か、トラウマでもあるのかな?
「(咄嗟についた嘘が、仇になった……非常に不味い。しかも、この、全く悪意の無いレオンの笑顔が、眩しすぎる。直視できない……)」
「じゃあ、いっくよ〜」
「あ、おい、ちょっと、待っ」
「【鑑定】!!」
『ステータス』
【名前】エルヴァン
【種族】獣人族[狼犬]
【性別】男性
【年齢】十歳
【固有スキル】割れ物注意
【加護】武神サルファンの加護
【称号】獣人族の元跡取り、獣人族の落ちこぼれ、SKILL GETTER、レオン至上主義、強靭な肉体の持ち主
【レベル】80
【総合能力】C⁻
【体力】3000/3000
【魔力】800/800
【剣術】D⁻
【槍術】E
【棒術】E
【格闘術】E
【知能】B
【速度】C
【腕力】A
【精神力】A⁺
【物理耐性】S⁺⁺
【魔法耐性】S⁺⁺
【毒耐性】S⁺⁺
【魔法】 F⁻⁻
【闇属性】F⁻⁻
【火属性】F⁻⁻
【水属性】F⁻⁻
【風属性】F⁻⁻
【土属性】F⁻⁻
【光属性】F⁻⁻
生活魔法 闇、火、水、風、土、光、無
闇魔法 無し
火魔法 無し
水魔法 無し
風魔法 無し
土魔法 無し
光魔法 無し
無魔法 身体能力強化・弱、ステータス(C)
【スキル】S⁺
絶対不可侵領域 S⁺
血の契約 S
守護者 S⁺
人型擬態
【説明】
獣人族の族長家の元跡取り。現在は獣人族の里から追放されている。獣人族の現族長とその正妻の間に生まれたが、正妻がエルヴァンを産んでからすぐに病気で亡くなったことと、獣人族の特徴である、身体能力の高さが無かったため、義母である、族長の寵愛を受けている愛妾を筆頭に、里の住人から虐げられていた。道を歩けば、周囲から「獣人族の落ちこぼれ」と言われ、石を投げられたため、物理耐性と精神力が大幅に上昇した。魔法耐性は、生まれつき、毒耐性は、族長の愛妾に多数回食事に毒を入れられていたため、自然に身に付いた。
里での扱いが原因で、基本的に自己肯定感が低い。
約一ヶ月前、自らの意志で獣人族との縁を切り、一人で旅に出た。
「……取り敢えず、お前の義母と、お前に石を投げた奴等を締めてくる」
何の罪もないエルヴァンを虐げた?
巫山戯るなよ。
こんなに、良いやつなのに。
エルヴァンは、石を投げられて、どんな思いをしたのだろうか。
食事に毒を入れられて、どんな思いをしたのだろうか。
痛かっただろう。
苦しかっただろう。
目には目を歯には歯を
許さない。
部外者の俺が口出しをして良い事じゃないけど、許せない。
獣人族の特徴が無かった?
だから何なんだよ。
俺だって、両親みたいな素晴らしい才能は持っていない。
でも、今、しっかりと、生きていけている。
エルメント家の一員として。
そして、『レオン』として。
エルヴァンはエルヴァンなんだよ。
他の何者でもない。
勝手に『獣人族の特徴』とかいう、自分の考えを、人に押し付けるな。
「おいおい、落ち着けって。もう、彼奴等とは、縁を切ったんだから」
……どうして、君はそんなにも穏やかでいれるんだ。
俺だったら、絶対に怒りで目の前が真っ赤に染まっているだろうに。
「俺に獣人族の特徴がないことは事実だし、跡取りがいなかった夫婦の愛妾の息子という、本来存在してはいけない存在として生まれてしまったことが、既に罪なんだよ。だから、レオンが怒ることじゃ」
「違う!! エルヴァンが存在していることが罪ならば、お前に助けられた俺も、罪人だ! お前が存在していなければ、俺はあのゴブリンに襲われた日に死んでいたかもしれない。薬草君の件のときは、確実に死んでいた。お前がいなかったら、俺も今、存在していないんだよ! ……それでも、もし仮に自分の存在を罪だと思うのならば、その罪を、俺にも償わせてくれよ。お前に救われた今、お前と俺は、親友であり、仲間であり、そして相棒だ。お前の罪は、俺の罪になる。どうやって償えばいいのかは、わからない。でも、償う方法を模索しながら、これからも一緒に冒険をしようぜ!」
エルヴァンの言葉を聞いて、エルヴァンは間違っていると思った。でも、何をどう伝えたらいいのか、わからなくて。必死に言葉を繋いで。中身も主張もぐじゃぐじゃだったかもしれない。
でも、少なくとも、俺にはエルヴァンが必要で、俺にとって、エルヴァンは太陽みたいな存在で。
だから、だから……
「……レオン……ありがとう」
君にはずっと、俺の隣で笑っていてほしいんだ。
鏡やクッキーが割れたら不幸の予兆らしいので、御注意ください←エルヴァン君のステータスのヒント




