表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/42

六月の話 ~からかさおばけの歌~ その1

「あーあ、雨、雨、雨ばっかり。梅雨って大きらい。雨ばっかりで、お出かけできないんだもん」


 巣穴の中で、ポン子は大きなため息をつきました。木がかさのかわりになってくれているので、巣穴にまで雨は流れこまないのですが、じめじめした空気はいやなものです。


「久しぶりに町に出て、カラオケでも行きたいな。いっぱい歌ったら、じめじめした気分も吹き飛ぶのに。かさがあったら、雨の中でも出かけることができるんだけど」


 くるりん葉で変化したら、よほどのことがない限り、元のすがたには戻りません。でも、雨だけは別でした。冷たい雨に当たると、なぜか変化がとけてしまうのです。


「お風呂に入ったり、プールに行ったりしても、変化はとけないのに。どうして雨に当たっただけでとけるのかしら。おかげで雨の日は巣穴でじっとしてるしかないわ」


 ポン子はうらめしげに、巣穴の外を見あげました。と、バシャ、バシャと、なにかがはねる音が聞こえてきます。不思議に思って、ポン子は巣穴から顔を出しました。


「あっ、かさ」


 そこにいたのは、小さく赤い、子ども用のかさでした。ただ、普通のかさとは違って、持ち手のところが足になって、小さな手が二本、にょきっと生えていたのです。ぎょろっとした一つ目が、ポン子をじっと見ています。


「こんにちは、ぼく、からかさおばけです」


 からかさおばけはよろよろしながらも、ぴょんっと飛んでポン子のそばに着地しました。


「ふうっ、いやぁ、ようやくつくも神になれたってのに、歩くのは難しいですね」


 つくも神とは、妖怪の一種で、道具にたましいが宿ったものです。いろいろな道具が百年経つと、変化する力を得るのでした。


「へぇー、あんた、つくも神なんだ。すごいわね、百年間も生きてきたなんて」


 からかさおばけは首をふりました。


「いいえ。ぼくは百年なんて生きてませんよ」

「えっ、でも、つくも神って、百年経たないとなれないんじゃないの?」


 からかさおばけは、はにかむようにからだをかたむけました。


「だって、この町は特別ですから。出雲町は、出雲のお山のすぐそばだから、妖気がすごく強いんです。だからぼくのような普通のかさでも、すぐにつくも神になれるんです」


 からかさおばけは、よろけそうになりながら、ポン子にたずねました。


「ところで、町に行きたいんですよね」

「えっ、うん。でも、雨降ってるから行けないのよ。雨にぬれたら、せっかくの変化がとけちゃうもん」


 つまらなさそうにいうポン子に、からかさおばけがいいました。


「ぼくを使ってください。ぼくをさせば、町に行けますよ」

「えっ、いいの?」


 ポン子の声がはずみます。からかさおばけはうなずき、一本足でくるくるっと飛びあがりました。そのとたん、からかさおばけは真っ赤な子ども用のかさに変化したのです。


「ありがとう、やったわ、久しぶりに町にいける。カラオケ、カラオケー♪」

「でも、そのかわりお願いがあるんです」


 からかさおばけの言葉に、ポン子は歌うように答えました。


「いいわよ、なんでもいって。カラオケー♪」

「……人を探してほしいんです」





「だから、おいらが呼ばれたってぇことか」


 ぼさぼさ頭の男の子に変化したサトルが、納得したようにうなずきました。からかさおばけのかさに、ポン子とサトルはひっついて入っています。


「あんたの銀の十手をつかったら、人探しなんて簡単じゃない。ね、お願い、友達でしょ」


 上目づかいでサトルを見て、ポン子が甘い声で頼みます。


「もちろんでぃ、おいら、ポン子ちゃんのためならなんだってするぜぃ」


 サトルが胸をどんっとたたきます。雨にぬれそうになるサトルに、ポン子はあわててかさを寄せます。


「ちょっと、気をつけてよ。雨にぬれたら、変化がとけちゃうじゃない」

「ああ、わりぃ、おいら、うれしくってつい」


 サトルがへへっと笑うのをみて、ポン子はわざとらしいため息をつきました。


「それで、もう一回聞くけど、探してるのは、千尋ちゃんって女の子なのよね」


 からかさおばけはポン子に、人間の女の子を探してほしいとお願いしていたのです。


「でも、あんたも災難だったわね。かさどろぼうに盗まれて、大好きな持ち主と離れ離れにされちゃうなんて」

「ええ、盗まれたあとも、出雲のお山の前にあるバス停で捨てられちゃって、そのまま長い時間がたって、気がついたらからかさおばけになっていたんです」

「ひどい話ね。でも、あんたがからかさおばけになるまで、百年ってわけじゃなくても、けっこう経ってるんでしょ。その千尋ちゃんは、もう大人になってるんじゃないの?」


 ポン子の言葉に、からかさおばけは自信なさげに答えます。


「わからないです。いったいどれくらいの時間が経ったのか。でも、たとえ大人になっていても、ぼくは千尋ちゃんに会いたいんです」

「なぁに、おいらにまかせとけってんだ。一本だたらのオヤジさん特製の、銀の十手を使えば、おいらの力は何倍にもならぁ」


 サトルはベルトに下げていた銀の十手をにぎりしめ、目をつぶって集中します。


「からかさおばけの心の中にある千尋ちゃんの記憶を、銀の十手にこめれば」


 銀の十手から、目がくらむほどの光が放たれました。ポン子は思わず目をおおいます。光は一瞬でやみましたが、まだ目がちかちかするのか、ポン子は何度もまばたきします。


「よし、わかったぜ、あっちだ!」

「ちょっと待って、だからぬれたら変化がとけるってば!」


 かけだそうとするサトルの手をぎゅっとつかんで、ポン子はあきれ顔でいいました。


「何度いえばわかるのよ。まったく、さ、それじゃあ行きましょう。案内して」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ