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五月の話 ~妖怪さとりと映画館~ その1

「ない、ない、ない! くるりん葉がないよ! あんなにたくさんあったのに!」


 出雲のお山に、ポン子の悲鳴がこだましました。


「なんで二枚しかないの? ああ、どうしよう、せっかく今日から封切の『皿やしき』を見に行こうと思ってたのに。これじゃあしばらくは、くるりん葉作りでいそがしいじゃないの。もう、くるりん葉を作るのって、すっごく時間かかるのに」


 くるりん葉を作るためには、まず材料集めをしなくてはなりません。少しも虫食いされていない、人間に変化したポン子の手のひらと同じくらい大きな、しかもまんまるい葉っぱを見つけなければならないのです。そしてその葉っぱを、川の水で丸一日きれいに洗います。さらにそのあと、月夜の晩に、一晩中、その葉っぱを頭に乗せてくるくる踊らなくてはならないのでした。ポン子はふわふわのしっぽを、あっちへふりふり、こっちへふりふりしながら、巣穴の中を探しまわります。


「どこどこどこ、どこだ? もう、どうしてないの? これは、違う。こないだ人間の町で買ったクッキーだ。これも、違う。クルルちゃんからもらったきゅうりだわ。これは、人間の文字を勉強するための絵本だし。いたっ、なにこれ、なんだかちくちくする毛が落ちてるわ」


 しっぽにするどい痛みが走り、ポン子は顔をしかめました。すると、巣穴の入口から、男の子の声がしたのです。


「くるりん葉がなくなって困ってるんでぃ?」


 ポン子が顔をあげると、そこにはサルのように毛むくじゃらで、長い手足をした男の子が立っていました。毛の一本一本が、針のようにちくちくしていてとても痛そうです。ポン子はキッと男の子をにらみつけました。


「サトルの、エッチ! 女の子の巣穴のぞかないでよ!」


 ポン子はすごい勢いで、毛むくじゃらの男の子に飛びかかりました。しかし、男の子はひらりとかわして、すずしい顔をしています。


「おいらに飛びかかろうたって、そうはいかねぇ。ポン子ちゃんがどこをけろうとするか、おいらには手に取るようにわかるってんだ」


 毛むくじゃらの男の子、『妖怪さとり一族』のサトルは、手に持っている銀色のぼうを、くるり、くるりとまわしました。手元近くに、フックのようなものがついています。


「ふん、なにカッコつけてんのよ。変なぼう持って。しかも、まわすの下手だし」

「こいつぁ、十手っていって、おいらたち岡っ引の、たましいのようなもんでぃ、べらんめぇ」

「岡っ引ってなによ?」


 目をぱちくりさせるポン子に、サトルはしたり顔で説明しはじめました。


「へへっ、岡っ引ってのは、人間たちの正義の味方のことだぜ。もともとおいらたち妖怪さとり一族は、昔は他のやつらの心を読んで、悪さばかりする妖怪だったんでぇ。それで、人間の世界で一番えらかったショウグンってやつが、おいらたちを捕まえるように、岡っ引に命令したんだよ。それでおいらのご先祖様は捕まっちまったってわけさ」

「じゃあやっぱりあんたたち、悪いやつらってことじゃない」


 毛を逆立てるポン子に、サトルはあわてて首をふります。


「違うんでぇ、まだ話に続きがあるってんだ。それでご先祖様を捕まえた岡っ引ってやつらが、ろうやに入れられるのがいやだったら、自分たちの手伝いをしろっていいやがったのさ。それでおいらたち妖怪さとり一族は、岡っ引に協力して、悪い人間や妖怪を捕まえる仕事をするようになったてぇ話さ。ちなみにこのしゃべりかたも、その岡っ引たちのしゃべりかたがおいらたちにうつっちまったんでぇ」


「それでそんな変なしゃべりかたをしているのね。でも、悪くったって、妖怪はあたしたちの仲間じゃない。それなのにつかまえるなんて、あたしはいやだわ」


 ポン子がぷいっと顔をそむけます。サトルはあせったように声をうわずらせました。


「待ってくれってんだ、違うんでぇ、おいらたちは妖怪は妖怪でも、他の妖怪たちに悪さするような、本当に悪い妖怪しか捕まえないぜ。だから」


 必死にいいすがるサトルを、ポン子はうさんくさそうに見つめました。


「でもねぇ、そういわれても、あたし、あんたのこと苦手だわ。人の心を読めるなんて、そんな不気味なやつとは仲良くしたくないもん」


 サトルはフッと、ポン子から目をそらしました。一瞬だったので、ポン子は気がつきませんでした。


「へへっ、大丈夫でぇ。もうおいら、ポン子ちゃんの心を読んだりしてねぇからよ」


 しかし、ポン子はまだじっと、サトルを見つめています。


 ――じゃあさっきは、あたしの心読んでたってことじゃないの――


「んで、さっきの話だけど、ポン子ちゃんのくるりん葉がどこにあるかしらべりゃあいいんだろぃ?」


 鼻をこすって、サトルがにやっと笑います。


「まあ、それはそうだけど、でも、ホントにあんたにそんなことできるの?」

「あたぼうでぃ! おいらにかかれば、そんなの朝飯前ってやつでさぁ」


 サトルは自信満々に、胸をドンッとたたきます。ポン子はうっとうしそうにいいました。


「わかったわ。あんたにまかせるから、早いとこくるりん葉を探してちょうだい」

「へへっ、お安いごようでさぁ」


 サトルはにやにやしながら、持っていた銀の十手をかかげました。


「なにしてるの?」

「おいらの力を、この十手にこめてるんでぇ。この十手は、一本だたらのオヤジさんに作ってもらった、特注品なんでぇ」


 一本だたらは、お山でいろいろな道具を作る、鍛冶屋さんなのでした。妖力をこめた道具を作ることができるので、いろいろな妖怪が頼りにしているのです。


「こいつはおいらの力を、お山全体に広げることができる優れものだってんだ。だから、こうしておいらが力をこめれば、くるりん葉だって見つかるってんだ」

「でも、どうしてそれでくるりん葉が見つかるのよ? あんたの力って、心を読む力じゃない。くるりん葉に心があるわけでもないし」


 じとっとした目で、ポン子がサトルを見つめました。


「べ、別にそんなことはどうでもいいってんだ。とにかくおいらに任せるんでぃ」


 早口でそういってから、サトルはぎゅっと銀の十手をにぎりました。すると、銀の十手から、目がくらむほどの光がはなたれたのです。ポン子は思わず目をおおいます。光は一瞬で消えましたが、まだ目がちかちかするのか、ポン子は何度もまばたきしました。


「なるほど、わかったぜぃ。くるりん葉は人間たちの町にあるはずでぃ。だから、このくるりん葉で、おいらとポン子ちゃんが人間の町に行けば、きっと見つけられるってんだ」


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