表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/42

三月の話 ~ポン子と陰陽師~ その6

 浴場の奥から、呂樹の声がこだましました。それとともに紫色のお湯が、まるでタコの足のようにぬるぬるとうごめきながら、一本だたらに襲いかかったのです。一本だたらも黒の十手からへびを呼び出し、紫色のお湯に対抗します。しかし、お湯がへびにふれた瞬間、へびがフッと消えてしまったのです。


「しまった、封魔の呪符か!」


 一本だたらのさけびとともに、紫色のお湯が一本だたらにまきつきます。すると、お湯は消えて、中から何枚もの封魔の呪符が現れたのです。


「そんなっ、一本だたらのおじさん!」


 一本だたらはぐったりと動けなくなり、どてんとその場に倒れこんでしまいました。それとともに、紫色のお湯が何本も襲いかかってきたのです。


「ポン子ちゃん、ふせて!」


 リンコ先生がさけんで、お湯に向かって封魔薬を何本も投げつけました。お湯が消えて、封魔の呪符が次々に燃えあがります。


「リンコ先生!」

「ほう、おれの呪符を打ち消すほど、強い力を持った化けぎつねまでいるとはな。本当に出雲のお山の妖怪たちには驚かされる。だが、これならどうかな?」


 浴場の奥が、強い紫色の光で輝きます。みがまえるポン子たちの目の前に、紫色のオオカミが三体現れたのです。頭のところに、封魔の呪符が透けて見えます。


「さあ、出雲のお山の妖怪たちを捕らえるんだ!」


 オオカミたちが、いっせいに牙をむいて飛びかかってきました。リンコ先生が目にもとまらぬ速さで、注射器をオオカミたちに投げつけます。三体のうち一体が、注射器につらぬかれて消えていきました。しかし、残りの二体がリンコ先生に狙いをつけます。注射器をかまえますが、それより早くオオカミが飛びついたのです。


「リンコ、危ない!」


 むつみさんが身を投げ出し、リンコ先生をオオカミから守ります。オオカミにかみつかれ、むつみさんも封魔の呪符に封印されてしまいました。


「むつみっ! この、許さないわよ!」


 最後の一匹が、牙を食いこませようとリンコ先生に接近します。リンコ先生は素早く身をひるがえし、オオカミをかわしながら注射器を投げつけました。注射器は見事命中し、最後のオオカミも消えてしまいます。


「さあ、これであんたのしもべは全部いなくなったわよ。おとなしく降参しなさい、呂樹!」


 リンコ先生がどなり声をあげます。しかし、呂樹はやけに落ち着いた声で問いかけてきました。


「そいつらでおれのしもべが全てだと、おれがいついったんだ?」

「なんだって? ……まさか!」


 リンコ先生がハッと注射器をかまえましたが、遅すぎました。紫色のお湯が、リンコ先生の足元から襲いかかってきたのです。


「リンコ先生!」


 リンコ先生はその場にどたんっと倒れてしまいました。封魔の呪符がからだにはりついています。


「よくもリンコ先生を!」


 ポン子ははじかれたように浴場へと入りました。クルルにサトル、ミイコにきららもあとからやってきます。


「呂樹! それにコン兄ちゃんも!」


 お風呂の中には、真っ白な着物を着た呂樹とコン兄ちゃんが立っていました。着物はお湯でずぶぬれになっています。呂樹は苦々しげにいいました。


「またお前か。もう少しでうまくいくというのに、じゃまをしおって」


 呂樹はゴソゴソと着物のすそをまさぐりましたが、やがて顔をしかめました。


「ちっ、弾切れか。まあいい。封魔の呪符がなくとも、お前たち子供の妖怪など、簡単にとらえることができる」


 ポン子が手をふりあげてどなりました。


「強がりはやめなさいよ! あんたの手下はみんなつかまったわ。そのなんとかの呪符もないんだったら、あんたに勝ち目はないじゃない。もうあきらめて、コン兄ちゃんを返して!」


 呂樹は鼻で笑いました。


「ばかめ、お前たちごときに遅れをとるほど、このおれはまぬけではないぞ! すぐにお前たちもとらえて、おれの操り人形にしてやろう。お前の大事なコン兄ちゃんと同じようにな」


 呂樹があごをしゃくると、コン兄ちゃんがふらふらと手を前に突き出しました。そのまま呂樹とコン兄ちゃんは、同時に両手を合わせたのです。そのとたん、お風呂のお湯が、まるで生き物のように持ちあがり、巨大な波となってポン子たちに襲いかかってきたのです。


「きゃあっ!」


 あっという間に、ポン子たちはお風呂のお湯に飲みこまれてしまいました。お湯はどんどんあふれていって、ついには浴場がプールのようにお湯でいっぱいになってしまったのです。あっぷあっぷするポン子たちに、呂樹が笑いながらいいました。


「この銭湯のお湯こそが、この町で一番妖気を持っているのだ。このお湯から出る湯気に術をほどこせば、出雲町くらい簡単に結界につつむことができる。お前たち妖怪どもの妖気も食らえば、日本全体をおおう結界も張ることができるだろう。ワッハッハ!」


 ――やっぱり、このお湯が呂樹の術のもとになってるのね――


 ポン子は必死で泳ぎながら、同じようにお湯に飲みこまれたクルルを探しました。カッパだけあって、クルルはお湯の中を上手に泳いでいます。クルルの手をつかんで、ポン子は水面に顔を出しました。


「ぷはっ! クルルちゃん、大丈夫?」


 顔をたてにふるクルルに、ポン子はごにょごにょとなにか耳打ちしました。クルルが目をまるくします。


「そんなことしたら」

「お願い、もうそれしかないの! さ、早く行って!」


 クルルは迷っているようでしたが、ポン子に背中を押されて、お湯の中へもぐっていきました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ