表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/42

二月の話 ~てんぐのサルタヒコ~ その2

 出雲のお山は、お祭り騒ぎのように、たくさんの妖怪たちであふれていました。みんな、一本だたらの鍛冶場のほうから逃げてきているようです。鍛冶場に行く途中の森も、木々がざわめき、まるでおびえているようでした。


「いったいなにが起きてるの?」


 逃げていく妖怪を捕まえて、ポン子がたずねます。


「やばいって、真っ白な着物の男が、妖怪たちに変なお札はってるんだ。はられたやつらはみんな、動けなくなっちまうみたいなんだ。もうお山はおしまいだ!」


 その妖怪は、叫びながら逃げていきました。ポン子は青い顔でコン兄ちゃんを見ました。


「どうしよう、コン兄ちゃん」

「あわてるな、呂樹がかけた術なら、たぶんおれがとけるはずだ。とにかく今は、呂樹を止めることが先決だ。行くぞ」


 コン兄ちゃんが走り出したので、あわててポン子も続きます。


「ポン子ちゃん、どこ行くの!」


 ふりかえると、クルルが心配そうにポン子を見ていました。サトル、きらら、ミイコも一緒です。


「そっちに行ったらだめでぃ! ポン子ちゃんも捕まっちまうぞ」


 サトルが大声でいいました。ポン子も負けじと、大声でいいかえします。


「あいつはあたしとコン兄ちゃんが止めるわ。だからみんなは早く逃げて」

「止めるって、どうやって?」


 きららが落ち着いた声で聞きかえしました。


「どうやってって……」


 ポン子は言葉につまってしまいました。


「ポン子ちゃんとコン兄ちゃんだけで、あんなすごい術を使う人、止められると思う?」

「それは、わかんないけど、でも、とにかくやらないと、出雲のお山が、あたしたちのふるさとがめちゃくちゃにされちゃうのよ」


 きららはすずしげな顔で答えました。


「そうじゃなくて、ほら、わたし雪女だから、あいつらを止めるのに役立つわよってことよ」


 ぽかんとしているポン子に、ミイコもにやりと笑いました。


「にゃあも妖術が使えるにゃ。それに、運動神経はポン子ちゃんには負けないにゃよ」

「おいらだって、相手の心が読めるんだから、ぜってぇ役に立つと思うぜ」


 まん丸の目をさらにまるくするポン子に、クルルがくちばしを鳴らしました。


「ポン子ちゃんだけに戦わせるなんて、そんなことできないよ。ポン子ちゃんだけじゃなくて、あたしたちにとっても、出雲のお山は大事なふるさとなんだから」


 とまどうポン子の肩を、コン兄ちゃんがたたきました。


「コン兄ちゃん」

「いいじゃないか、仲間は多いほうが心強いからな。だが、かなり危険だぞ。みんな、それでも行くのか?」


 コン兄ちゃんの重々しい声に、みんないっせいにうなずきました。


「よし、それじゃあついてきな。はぐれないように気をつけるんだぞ」

「気をつけるのはお前のほうじゃないのか?」


 低く、無感情な声が、森の中にひびきました。コン兄ちゃんが素早く森の中を見わたします。


「呂樹、どこだ、どこにいる!」


 コン兄ちゃんがどなります。はらはらと雪が降ってきました。二月の冷たい空気が、今さらながら身をつつみます。


「コン兄ちゃん、うしろ!」


 突然ポン子が悲鳴をあげました。コン兄ちゃんがふりかえるよりも早く、呂樹がコン兄ちゃんの背中にお札をはりつけたのです。コン兄ちゃんはうずくまり、苦しそうにうめき声をあげました。


「コン兄ちゃん!」

「にげ、ろ……」


 呂樹はさらに、何枚ものお札を取り出し、コン兄ちゃんにはりつけていきました。お札がはられるたびに、コン兄ちゃんはからだをびくつかせていましたが、ついに動かなくなってしまいました。


「くくく、これでじゃま者はいなくなった。あとは出雲のお山の妖怪たちをまとめてとらえれば、おれの計画は完成する」

「コン兄ちゃんになにをしたの!」


 まるで初めてその存在に気がついたかのように、呂樹は無遠慮にポン子をじろじろとねめつけました。その視線の冷たさに、ポン子の背すじがぞくぞくします。


「お前は確か、化けだぬきだな。サルタヒコのうちわの元になった葉っぱの作り手か。なるほど確かに、強い妖力を感じるぞ」


 近づこうとする呂樹に、きららが吹雪をあびせかけました。サトルとミイコが、ポン子の前に立ちふさがります。


「ポン子ちゃんに近づくんじゃねぇ!」

「そうにゃ、あっちいけにゃ」


 呂樹はお札を前につきだしました。とたんに呂樹の目の前に、青い光の壁が現れたのです。きららの吹雪は、その壁に当たって防がれました。


「なるほどなるほど、子どもだが強い妖力を持った妖怪たちだ。お前たちも捕らえて、おれのあやつり人形にしてやりたいが、まずは出雲町を支配するほうが先だからな。お前たちの相手はサルタヒコたちに任せよう」


 バサバサッと羽の音が聞こえてきました。上のほうから、赤ら顔に長い鼻の大男が、翼をはためかせて降りてきたのです。てんぐのサルタヒコでした。がっしりした両うでには、一本だたらとむつみさんをかかえています。


「一本だたらのおじさん、それにむつみさんまで!」

「この二人はすでに、おれの呪符によってあやつられている。お前の声も届きはしない」


 呂樹が高笑いするのを、ポン子はキッとにらみつけました。


「サルタヒコよ、あとは任せたぞ」

「ああ。先に行け。すぐに追いつこうぞ」


 呂樹はコン兄ちゃんをかついで、光の中に消えていきました。追いかけようとするポン子たちの前に、サルタヒコが立ちふさがります。


「むだなことはするな。おとなしく我らに従うのだ」

「そんなの絶対にいやよ! コン兄ちゃんを返して!」


 ポン子の叫びを聞いて、サルタヒコはほえるように笑いました。


「ならば力ずくでも、我らに従ってもらおう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ