表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/42

四月の話 ~カッパのシャンプー~ その3

 浴場に入ってきたのは、こしまで届く、長い髪のお姉さんでした。つり目でスッとした顔つきの美人さんです。お姉さんはクルルに目をやると、にこっと笑いかけました。


「あら、今日は一番風呂じゃなかったのね。かわいらしい先客さんがいたみたい」


 ポン子がお姉さんに気がつき、手をふりました。


「あっ、リンコ先生、久しぶり」

「ポン子ちゃんもいたのね。あっ、じゃあこの子、ポン子ちゃんのお友だち?」

「うん。クルルちゃんっていうの。そうだ、ちょうどよかった。リンコ先生、クルルちゃんにシャンプーしてあげてくれる? クルルちゃん、シャンプーに興味あるんだって」


 それだけいうと、ポン子は再び「うぇーい」と声をあげます。しかし、クルルは気が気ではありません。お皿がばれないように、あわてて頭に手を当てました。しかし、リンコ先生は気にしない様子で、クルルを手まねきしました。


「ポン子ちゃん、どうしよう」

「心配しないでも、大丈夫だよー、はー、ごくらくごくらく♪」


 まじめに聞いてくれないポン子を、クルルはうらめしそうに見ます。すると、リンコ先生がそばにきて、クルルの手を取りました。


「ほら、おいで。わたしがシャンプーしてあげるわ」


 リンコ先生はクルルを引っぱって、鏡の前にあるいすにすわらせました。おっかなびっくりで固まっているクルルをよそに、リンコ先生は細長いつつのような容器に手をのばしました。


「ほら、これがシャンプーよ」


 リンコ先生がシャンプーの容器を押して、どろっとした液体を手のひらの上に出しました。それを手であわだてながら、クルルにささやきました。


「さ、それじゃあ目をつぶってごらんなさい」


 いわれたとおりに目をつぶると、リンコ先生の指が、わしゃわしゃとクルルの髪をマッサージしていきます。甘くやさしいお花の香りが、あたり一面にただよいます。


 ――あぁ、お花のいいにおいがするわ。なんのお花かしら? かいだことないけど――


 クルルの疑問に答えるように、リンコ先生が教えてくれました。


「いいにおいでしょう。これ、ラベンダーって花の香りなのよ」

「ラベンダーっていうんだ。初めて聞く名前だわ。でも、すごいいいにおい。ありがとう」


 ふにゃっと力が抜けるクルルに、リンコ先生がいいました。


「さ、それじゃあしあげよ。目をつぶったままでいてね」


 ザバッと頭に、温かなお湯がかけられました。ラベンダーの香りが、からだじゅうに広がります。


「はぁ……。いいにおいだわ。これがシャンプーなんだ」


 甘い香りにつつまれたまま、クルルはしばらくぼーっと鏡を見ていました。鏡にはリンコ先生のうしろすがたが映っていましたが、クルルは目をぱちくりさせました。


 ――あれ、今のって、もしかしてきつねの……耳――


 リンコ先生はポン子にあいさつして、お風呂の中に入ってしまいました。もう耳は見えないので、もしかしたら錯覚だったのかもしれません。クルルはハッと、シャンプーの容器を手に取りました。


 ――そうだ、この液体を、あたしのお皿に入れれば――


 クルルはシャンプーを自分のお皿に入れました。すると、さっきよりももっと強いラベンダーの甘いにおいが、からだいっぱいに広がったのです。それはまるで、お花のベッドに全身で飛びこんだような気分です。うっとりしているクルルに、ポン子がお風呂からあがってしゃべりかけてきました。


「ごめんごめん、のぼせちゃってたわ。それで、どうだった? シャンプー気持ちよかった?」

「うん、これ、すごいよ。もう、全身お花につつまれたみたいだったわ、ポン子ちゃん、ありがとう」

「喜んでもらってよかったわ。あー、それにしても、いいお湯だった」


 ポン子はぐーっとのびをして、お風呂場から出ていきます。クルルもあわててあとを追いました。お風呂から出ても、ラベンダーの香りはクルルを優しくつつんだままでした。


 ――でも、リンコ先生のあの耳、あれってやっぱり――


 そんなことを考えていると、番頭のクズハお姉さんが、ひょいっと奥から顔を出しました。


「ふふ、温まったかしら? ポン子ちゃん、いつものあれはいらないの?」

「あっ、そうだ。クズハお姉さん、お願い。クルルちゃんのぶんもね」


 クズハお姉さんはふふっと笑って、再び奥へ入っていきました。戻ってきたときには、ビンに入った飲み物を二つ手に持っていました。


「はい、コーヒー牛乳。お風呂のあとはこれが一番だよ」


 ポン子はクズハお姉さんからビンを受け取り、クルルにわたしました。


「これ、人間の飲み物なの?」


 小声で聞くクルルに、ポン子はうなずきました。


「ほら、こうやって飲むのが一番おいしいんだよ」


 ポン子はこしに手を当てて、コーヒー牛乳を一気に飲み干しました。口をあんぐり開けるクルルに、ポン子がへへっと笑います。


「ほら、クルルちゃんも飲んでみてよ」


 ポン子にうながされて、クルルはおそるおそるコーヒー牛乳に口をつけました。


「……おいしい!」


 クルルの目が丸くなりました。クズハお姉さんがうれしそうに目を細めます。


「うれしいわ。やっぱりお風呂のあとはコーヒー牛乳よね」


 そういって奥へ戻るクズハお姉さんを見て、クルルはまた目をぱちくりさせました。


 ――えっ、クズハお姉さんも、あれ、きつねの――





「今日のクルルちゃん、なんだかとってもいいにおいがするね」


 ポン子と町に行った次の日、カッパ友達たちが、クルルのまわりに集まってきました。


「ホントにいいにおい、ねえ、どんな香水をつけたの?」

「あのね、化けだぬきのポン子ちゃんと一緒に、シャンプーをね――」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ