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十月の話 ~肩こりのろくろ首~ その1

「コンコン、コンバンワ。どうも、コンです。ようチューブの時間がやってまいりました。さて、わたくしは今、さびれた神社へとやってきています。この神社には、夜な夜な白装束の女が、うしこく参りにくるといううわさがあります。今日はそれを確かめに……」


 ポン子はコン兄ちゃんからもらった、スマホの電源を切りました。


「あーあ、もう電池がなくなってるよ。また充電しにリンコ先生の病院に行かなくっちゃ」


 スマホを置いて、くるりっとちゅうがえりすると、ポン子はもとのたぬきのすがたに戻りました。たぬきのすがただとうまくスマホを操作できないので、ユーチューブを使うときはいつも、人間のすがたに変化しているのです。


「出雲のお山じゃ、充電するところなんてないから、節電しないと。何度もリンコ先生のところで充電させてもらうの、悪いしね。でも、ユーチューブとか見るとけっこう電池使うんだよね」


 幸い出雲のお山にも、電波は届いているようで、ユーチューブの動画もスムーズに見ることができました。


「それにしてもめんどくさいなあ。巣穴にいるときも充電できたらいいのに。あっ!」


 なにかひらめいたのでしょうか、ポン子は再び、くるっとちゅうがえりしました。そのとたん、人間の女の子のすがたに戻ったのです。たぬきの耳が、髪の毛の中でぴくぴくっと動きます。


「そうだ、一本だたらのおじさんに充電器を改造してもらおう。おじさんいろんな道具を作れるんだから、充電器の改造もできるよね」


 ポン子はスマホを手に持ち、急いで巣穴をあとにしました。





 お山の中腹にある、一本だたらの鍛冶場は、今日も熱気にあふれていました。


「一本だたらのおじさん、こんにちは。おじさんにお願いがあってきたの」

「あら、ポン子ちゃん、いらっしゃい。ああ、肩が、首が、痛いわぁ」


 一本だたらのかわりに、女の人の顔が現れました。現れたというよりは、にゅにゅっとのびてきたというべきでしょうか。


「あっ、ろくろ首のむつみさん、いったいどうしたんですか?」


 むつみさんは一本だたらの奥さんなのです。むつみさんは、細い目をさらに細めて、長い首をよじってうめきました。


「ほら、最近寒いでしょ。あたしたちろくろ首は、首を長くのばすから、こう寒いと肩も首もこってこって、イタタ、」


 むつみさんは顔をしかめながら、鍛冶場の奥へ引っこんでいきました。


「まったく、医者に行けと、わしがいくらいっても聞かんのじゃ」


 鍛冶場の奥から、今度は一本だたらがやってきました。手にはかなづちを持っています。


「行きませんよ! あんな女のやってる医者なんて、絶対行きませんからね。イタタ」


 むつみさんのどなり声が聞こえてきて、一本だたらは顔をしかめました。


「お医者さんって、もしかしてリンコ先生?」

「そうじゃ。じゃが、なぜか知らんが、むつみはリンコ先生と仲が悪いらしくてな」


 声をひそめていう一本だたらに、ポン子は首をかしげました。


「なんでかしら? リンコ先生、とってもいい先生なのに」


 またもやうめき声が聞こえてきました。ポン子はしばらく考えていましたが、やがて、一本だたらに小声でささやきました。


「リンコ先生のところじゃないけど、肩こりがよくなる場所、知ってるわ」





「イタタ、あー、イタタ。人間のすがたになっても、やっぱり肩こりは治らないのね」


 むつみさんが肩を押さえながら、苦しそうにいいました。むつみさんのかっこうは、ろくろ首のときとほとんど変わらず、ゆったりとした着物すがたです。もちろん首は人間と同じで、伸びたりしません。


「大丈夫よ、ほら、もうすぐだから」


 ポン子が元気づけるようにいいます。二人は大通りのわき道へ入っていきました。おんぼろの建物が見えます。出雲の湯です。


「ここの出雲の湯は、肩こりによくきくんだよ。リン……ううん、なんでもない」


 ポン子はあわてて口をふさぎました。むつみさんはなにも気づかず、肩を手でもみほぐしています。


 ――危なかった。リンコ先生もよく入りにくるっていったら、きっとむつみさん帰っちゃうもんね。危ない危ない――


 出雲の湯には他のお客さんはだれもいませんでした。脱衣所に入ると、奥のほうから、めがねをかけたクズハお姉さんがひょいっと顔を出しました。


「あら、ポン子ちゃん。それにそちらは?」

「あっ、ろく……えーっと、知り合いのむつみさんです」


 ポン子は急いで話題を変えました。


「ねえ、クズハお姉さん、ここのお湯って、肩こりにもよく効くんだよね」


 クズハお姉さんはめがねを指で直しながら、こくっとしました。


「ええ、肩こりや首のこりにはとってもいいのよ。しっかり肩までつかって、じっくり温めるといいわ」


 説明してくれるクズハお姉さんを、むつみさんがじっと見つめています。ポン子が不思議そうに、むつみさんの着物のそでを引っぱりました。


「どうしたの、むつみさん」

「え、ああ、ごめんね。ただ、あなた、クズハさんっていったわね」

「ええ」


 クズハお姉さんがはにかんで、首をななめにかたむけました。むつみさんは考えこむように、天井を見あげました。


「いいえ、きっとあたしの勘違いだろうしね。あなたによく似た人を知っていたからさ。ごめんなさいね」


 軽く頭をさげるむつみさんに、クズハお姉さんは首をふりました。


「そんな、気にしないでください。それじゃあごゆっくり」


 クズハお姉さんはポン子からお金をもらうと、そのまま奥に戻りました。ポン子とむつみさんは服を脱いで、さっそく浴場へ入りました。


「やった、一番風呂だわ」


 ポン子はさっそく、お湯をからだにかけて、お風呂につかりました。むつみさんも同じようにお湯をからだにかけて、そろりそろりとお湯の中へ入っていきます。


「あぁ、あったかいわねぇ。ここ数日で急に寒くなったから、温かさが身にしみるわ」


 むつみさんが、細い目をさらに細めます。


「こういう寒いときに、ゆっくりお風呂につかれば、肩こりだって治っちゃうよ」


 ポン子が得意そうにいいます。むつみさんが肩を手でもみほぐすのを見て、ポン子がむつみさんの背中にまわりました。


「あたしがやったげる」


 むつみさんの肩を、ポン子がゆっくりともんであげました。むつみさんがはぁっと気持ちよさそうにため息をつきます。そのとき、出入り口の扉が開く音が聞こえました。


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