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七月の話 ~一つ目小僧のコンタクト~ その1

「……遅いなあ」


 巣穴の中で、ポン子がしっぽをぽんぽんとたたきました。巣穴の外からは、ジジジとせみの声が聞こえてくるばかりです。うんざりしたように、ポン子は巣穴の外をにらみつけました。


「あー、暑いわねぇ。毛皮がぬげれば、こんなに暑くないんだけど」


 自分のからだをおおっている毛皮を、ポン子はうらめしげに見つめました。冬はとっても暖かいのですが、夏はけっこう暑くて、息苦しくなります。特にポン子は化けだぬき。人間に変化したときの、すずしげな感覚を知っているのです。それを思い出して、ポン子の耳がぴくぴくっと動きました。


「あっ、そうだわ、いっそのこと人間に変化しようかしら。そうしたら、ちょっとはすずしいかも」


 ポン子がくるりん葉を頭に乗せようとしたときです。巣穴の外から、男の子の声が聞こえました。


「化けだぬきのポン子さんは、ここですかー」

「やっと来たわね、待ちくたびれたわ」


 ポン子はすたたたっと、急いで巣穴から出てきました。そこにいたのは、坊主頭の背の低い男の子でした。着物を着て、手には真っ黒なかさを持っています。そしてその顔の真ん中には、大きな目玉が一つだけです。男の子はなぜか、巣穴のほうではなくて、近くに生えている木に向かいあっています。まるで木とおしゃべりしているように見えて、ポン子はいぶかしげにたずねました。


「あんた、なにやってんの?」


 ポン子の声が聞こえたので、男の子はほっとしたように笑いました。大きくくりくりっとした目玉が、ポン子ではなく巣穴の奥を見つめました。


「あっ、あなたがポン子さんですね。おいら、一本だたらの親方の弟子で、一つ目小僧のジロリっていいます。親方から、かさを預かってきてます」


 一つ目小僧のジロリは、ぺこりと巣穴の奥のほうへおじぎしました。ポン子は巣穴の中じゃなくて外にいるのにです。ポン子はため息まじりに聞きました。


「ちょっと、どこ見てるのよ。あたしはこっち。それは木でしょ」

「あっ、いけね。すいません。おいら、ド近眼で、全然目が見えないんですよ」

「ド近眼っていうか……。ちゃんとあたしのすがたが見えてるの?」


 あきれたようにポン子がいって、ジロリの目の前に移動しました。ジロリの大きな目が、ようやくポン子をとらえました。


「まったく。まあいいわ。ちゃんと約束の品物を持ってきてくれたんでしょ」


 ポン子にいわれて、ジロリはこくりとうなずきました。


「へい、これが頼まれてた雨がさです。ポン子さんがお願いしてた通り、さしてたらもちろん、持ってるだけでも変化がとけない優れものです」


 ジロリの持つ真っ黒なかさを見て、ポン子はちょっぴり不満げにつぶやきました。


「それはうれしいけど、もうちょっとかわいらしい色にはできなかったの? こないだのからかさおばけなんか、真っ赤でかわいいかさだったのに」

「むちゃいわないでくださいよ。これはぬれ羽ガラスの羽を使って作ってるんですから、黒いのは当たり前です。ぬれ羽ガラスたちから羽をもらってくるの、大変だったんですよ」


 今度はジロリが口をとがらせます。よくよく見てみると、ジロリはあちこちに切り傷がついています。ぬれ羽ガラスにつつかれたのでしょうか。


「そうだったの……。ごくろうさま、ありがとうね。これであたしも、雨の中でも町に遊びに行けるわ。それで、お礼はなにがいいの?」


 一本だたらは妖力をこめた道具を作る代わりに、不思議なお礼を求めるのです。ジロリは、困ったような笑いをうかべて、答えました。


「実は、ポン子さんの持ってる、くるりん葉をもらってくるようにっていわれまして」

「くるりん葉を? まだたくさんあるし、別にいいけど。でも、一本だたらのおじさん、いったいなにに変化したいんだろう?」

「あ、いや、変化するためじゃなくって、なにか新しい道具を作るために必要だっていってました」


 ジロリが一つ目をきょろきょろさせます。


「一体なにをつくるのかしら。まあいいわ。一枚でいいの?」

「はい」


 ポン子はさっき頭に乗せたくるりん葉を、ジロリにわたしました。


「まいどありがとうございます。それじゃ、おいらはこれで」


 ジロリはぺこっとおじぎをして、巣穴から出ようとしました。


「ひゃっ!」


 巣穴の出口で、ジロリがドテンッと転んだのです。木の根につまずいたのでしょうか。


「ドジねぇ。ちゃんと足元見て歩きなさいよ」

「すいません、おいらド近眼だから、よくこけるんですよ。えっと、くるりん葉はどこいったかな」


 どうやら転んだときに、くるりん葉を落としてしまったようです。ジロリはあたりを探しまわっています。


「あったあった。じゃあ、おいらはこれで」

「ちょっと待って! それくるりん葉じゃないわ、別の葉っぱよ。くるりん葉はこれよ」


 ポン子があわてて、ジロリの足元に落ちたくるりん葉をくわえました。


「ほら、よく見てよ。その葉っぱ、ぎざぎざしてるでしょ。くるりん葉はもっとまんまるい葉っぱよ」

「えっ? うーん、おいらには、ちっとも違いがわかりませんよ」


 ジロリはくるりん葉と、ぎざぎざした葉っぱをじぃーっと見つめます。まわしたり、手ざわりを確認したりして、ようやくなるほどとつぶやきました。


「ああ、よく見ると違いますね。でも、おいらド近眼だから、近くで見ないと全然わかんないですよ」


 ポン子ははぁっとため息をつきました。


「あんたにまかせてたら、くるりん葉失くしちゃいそうね。もういいわ。一本だたらのおじさんのところには、あたしが持っていくから」


 ポン子にいわれて、ジロリはうつむき、しゅんとしています。その様子を見て、ポン子は少しかわいそうに思いました。


「……一本だたらのおじさんにはお礼したけど、お使いしてくれたあんたには、お礼してなかったわね」

「そんな おいらはお礼なんていいですよ」


 ジロリが首をふります。ポン子は巣穴の奥に戻り、くるりん葉を二枚くわえてきました。


「それじゃ、町に行きましょ」

「町に? なにしに行くんですか?」


 ポン子はにやっと笑いました。


「コンタクトを買いに行くのよ」


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