9話 とある探索騎士
私は神というものを小さな頃から、親に、司祭に読み聞かせられ、それを信じて来ていた。
だが、その神を信じることを揺らぐ出来事があった。それは異世界からの来訪者があまりにも戦事や、争い事を知らぬ若人であったからだ。
この国の危機を救う存在が神に呼ばれた。その事実はこの国に住むもの全てが喜び祝うものだ。だが箱を開けてみればなんだ、何も知らぬ若者。
スキルは持っているが扱えることを知らぬ。彼らは何も知らないでいて、はっきりと言って期待外れであった。
私達が望んだのは物語の英雄のような、悪鬼や怪物を切り伏せ、そして未来を切り開く存在だ。
このことから私は神を恨んでしまった。
迷宮は今なお世界に出現している。私の国で発見できる限りで5。隣国では7や3、4などバラバラである。
過去の英雄が攻略したものもあれば、死した迷宮さえある。だが、それはこの世界の探索者であったからだ。
神がこの世界を救うために使徒として召喚した存在であれば、迷宮を殺せる。
私達国の重鎮はそう考えていたのに、どうしても彼らは若すぎた上に知らな過ぎたことにより、何度もその事が頭に浮かんでしまう。
だが、その考えは覆されることとなった。それはいい意味でのことであった。
1週間という短い期間であったが指導を行うこととなった。
基礎を教えるとそのことを吸収し応用していく。はっきり言って天才としか言いようがなかった。長年身に付けた技術をあっさりと身につけていくもんだから、はっきり言って怖いと思ってしまうが、逆にそれが頼もしいとも言える。
だが技術を身に付けてもそれが経験となった訳では無い。実戦形式で戦えばそれが顕著に現れてくるため、それが心配だ。
そして、命を奪うことに慣れていない。いや、このことは1人は別だ。何か覚悟を決めたように死にものぐるいで鍛錬をしてる、狂戦士は違う。それ以外は子供だと言える。
「狂戦士か」
狂った戦士と書いて狂戦士。まるで戦わなければ生きられないような存在。
ただの戦闘狂であればこんなにも気にはしないのだが、どうしても気にしてしまう。
彼は覚悟をした目をしていた。つまり覚悟するような何かがある。もしかしたら彼には未来を予知するような技能が・・・いや、そんな訳は無いとすぐに否定する。
ただ、仲間のために戦おうとしているのだろうと、考えが行き着いた。彼は再生という技能を持っているため、その技能を活かして誰も傷付けたくないのだろう。見ていてこちらが心配になる程に傷付いても諦めない。
仲間を大切にするやつは今後の生死に関わる。彼にはこのまま変わらずにいて欲しいと思ってしまう。
失ってからではいくら後悔しても、戻らないからな。