5話 秀樹
秀樹の部屋に着いた。内装や間取りなどは統一されているらしく、部屋を間違えた場合には気付かないかもしれない。
ナターリに有り難うと伝え下げる。
「どうした和成」
この世界のこと、スキルのことなどを基点に話を始める。そして、召喚されたときに混乱が無かったことも話す。
「そうだよな、突然異世界に来たらパニックになったりする筈なのに、、、なんで気付かなかった」
秀樹は少し頭に手をやり狼狽える。ラノベだったらなんて気にせず話したが、秀樹の反応から自分も疑問に思い始める。
「僕も、なんで、あれ?」
これまでの行動を振り返る。召喚の時から今に至るまで、普段の自分ならと置き換えて考えると不自然だった。
「自分よりも酷い状態の人を見ると逆に落ち着く、そんな、それよりも前から冷静だった」
「おい、大丈夫か?」
秀樹に肩を叩かれて、正気に戻る。
「あ、うん、大丈夫」
自主的に動くのも面倒くさく、毎日が灰色で憂鬱だったのに。何故自分から、何故、何故と出てくる。だけど、いつものペースを戻す為にわざと憂鬱だと思う。
「憂鬱だ」
「やっぱ大丈夫じゃないだろ」
突っ込まれたが、それで少しいつものペースに戻れた気がする。
「今度こそ大丈夫、うん」
「じゃあ、精神干渉について話すか。和成も、違和感に気付いたみたいだし、このことは重要だろうな」
「そうだね、、」
確かにこのことについて考えるのは、優先順位が高い事だと思う。精神干渉なんて、日本だと娯楽的な物で催眠術があったけど、このことはそんな理解の及ぶ程簡単なことではないと思う。
「精神的に干渉を受けるとしたらやっぱりスキルが原因かな?」
「そうだろうな、突然スキルが生えるなんて甘い話じゃないだろう」
この世界に順応するために精神干渉が起きたのかもしれない。それがスキルなのか、それとは別なのか、今のところ判断が付かない。
記憶を植え付けられた辺り、スキルの可能性が高いけど分からない。
「ところで秀樹が手に入れたスキルはどんな感じだった?やっぱりタンク系?」
ゲームでの役職を思い出し、そう聞く。論点が変わってしまうが、いつもの事だ。僕の中で何となく纏まったら次へと進める。
たまに秀樹に止めろと言われるが、終わったことを考えるのは無駄だと思うから止めない。
「いや、どちらかというと召喚系だな」
へえ、召喚系と相槌をした後、自分のスキルをどう話すか考える。流石に秀樹が嘘をついていないだろうから、僕も正直に話すべきだろうが、悩んでしまう。
等々どうしても気になってしまう。
「秀樹は将棋が強いし、そっちに引っ張られたのかもな」
とりあえず無難なことを言ってやり過ごす。
「ああ、そうかもしれないな。そういえば和成はどうだ、どんなスキルだったんだ?」
「僕は狂戦士だったよ」
予め決めていたことを、といっても馬車の中でも吐いた嘘をそのまま言う。他のスキルみたいに戦闘技術は無いけど不老不死だ、持久力はあるだろう、試したことがないから分からないけど。それに不老不死だったら痛みを感じないだろうから無謀に、いや蛮勇な行動をしても怪しまれないだろうと思って僕はそう言った。
「狂戦士か、和成こそタンクになると思っていたのに予想が外れたな」
「タンクね、秀樹はどうしてそう思った?」
僕はゲームだとバランス型の、それもソロで活動するような事が好きだったから、タンクなんて役職が出るとは思わなかった。
「警察官を志望くらいだらから、正義感とか、誰かを守りたいと思っていたんじゃないかなって」
「警察を志望したのは小さい頃の憧れからだよ。格好いいなって思ってたって秀樹にも言ったじゃん」
「そうだったな」
「そうだよ」
なんだかぎこちない。もしかして何か秀樹は隠しているのか。もしかしたら秀樹も闇を抱えてるからそれに関することか。
なんだろな。
「ところでさ、やっぱりみんなと話し合った方が良いよね」
秀樹は顎に手をやり、少し考えた後口を開いた。
「そうだな、少し皆と話し合った方が良いかもな。スマホに依存していた奴とかが騒ぎ立てなかったのも気になるし、迷宮を攻略することも話し合った方が協力しやすいしな」
「うん、だけど集まれる場所ってあるかな?」
「そこはメイドに聞いてみるしかないな」
「侍女じゃないのか」
「あ・・・まあメイドだろ」
「メイドだけど。そういえば自然にこの国の言葉が使えるけどさ、やっぱり日本語で話しちゃうよな」
盗聴されているなんて話がラノベであったから何となくだ。だが話によっては言霊が相手に伝わるなんてあるから、秘密の話をしていても意味が無いかもしれないが、気分の問題だ。
「じゃあ、皆を集めて、よろしく」
親指を立てて秀樹に全部任せる。
「え、俺かよ」
「じゃ」
笑顔で手を振って部屋に戻る。いつも嫌な役を押しつけてしまうが、奴が死にそうになったら庇ってやろう。