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1話 召喚

 高校三年生の公務員受験をして僕の精神はゴリゴリと削られていた。


 後は1次試験の合格発表を待つだけなのだが、それがまた憂鬱だ。胃が痛くなっているし、面接がまだ残っているから、ストレスしか感じない。


 もう学校に行くことすらも憂鬱。

 面接練習なんて更に憂鬱。志望動機を言うが、これがまた先生が細かいのなんの。はっきり言ってそこまで細かくする必要があるのかと疑いたくなる。

 そして、敬語とか今の時代いらないよななんて考え始めてしまうほど、憂鬱だった。


 そう憂鬱なままの通学だ。この秋の冷たい風が今の僕の心を表しているようだなんて、ポエムのように思いながら自転車を漕いだ。


 学校に着いたら自転車を駐輪場に停めて、しっかりと鍵を掛けた上で教室へと向かう。

 ああ、この教室に入る瞬間が非常に憂鬱だ。そう言えばこれまで何回憂鬱を言っているんだろう、憂鬱憂鬱。

 そんなふうに心の中で憂鬱のカウントを増やしながら扉を潜った。


 教室に入ると何人かが既に席に着いていた。まあ、スマホを弄って遊んでるのもいるけど。


 席に着いた後、学校なんて無くなればいいのに。いっそのこと爆発してくれてもいい。なんて不穏な事を考えながら自分もスマホを見てHRまでの時間を過ごす。

 先生に聞かれたらアホなこと言ってんなと、一言で片付けられてしまうような事だなんて思ったが、学生なんて毎日そう思ってると心の中を誤魔化した。


 HRまで読書の時間がとても長く感じる。

 この時間は本を読んで過ごしても良かったのだが、なんたって三年生。つまり受験生だ。勉強しろと先生がマシンガンの如く言うため、勉強しなくてはならない。まったく憂鬱である。


 朝の読書時間の間、先生達はミーティングを始めているのだろう。だからこそ、この時間だけは先生がどの教室からも居なくなる。

 そんな先生の居ないときにそれは起こった。


 文字が教室中を飛び交う。その文字は見たことのない作りで、アメリカ語、いやここで惚けるのは止めとこう・・・うん。

 英語や韓国語などなど、そういった形式ではない文字がみんなを覆い始める。体に張り付いてはそこが黒く染まり、虚無が生まれる。虚無が生まれるということは表現がおかしいと思ったが、ただ光も存在しないような黒い存在としか表せないため、そのままごり押しながら心の中で実況を進める。


 みんなは騒ぎ始める。誰かは先生が閉めていった扉を開けようとして、閉めていった先生へ呪詛をのような言葉を吐いていた。閉めなければこんな事にはならなかった、そんな風に考えているのかもしれない。


 異世界召喚だとか言い出す奴が居るが、それかもしれない。


異世界召喚か、だけど陣を使わないタイプか珍しい。触手で持って行かれるタイプなら知っていたが文字タイプとは・・・。


 そんなふうに冷静に考えながらも、言葉で体の感覚が失われていくのを感じた。

自分がこんなに冷静だったことに少し驚きながらも、自分よりも状態の酷い人を見たからだと勝手に納得する。


 もし体が全身無くなってしまったら、それは異世界に行ったということなのかもしれない。

 いや、ただの文字だけの存在になってしまうかもしれない。パソコンのように0と1で表されるだけの存在。

 だが、そんな怖いことは考えたくなく感じてきて、異世界に行くんだろうと決めつける。


 やがて、脳内実況は終わることとなる。それは最後に残った頭が文字が虚無へと変わったことを示していた。文字は最後の一人を虚無へ染め上げ終わったあと、ボロボロと形を崩していき、空気へと混ざり合い消え去った。


 彼等が居なくなった後には、彼等が学んでいた教科書類や筆記用具などが残り、彼等が確かに存在していたことを証明していた。

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