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二十



「奴ら、3対1でかかってきやがる…闘い慣れてんだ。トキはエンの兵を助けようとして…」


そう言うキリトも軽い切り傷が無数にあったが、今はトキの方が重症だった。何とか急所を外してはいたが、右の胸を2箇所も刺され貫通している。

呼吸が苦しそうにヒューヒューと鳴いていた。

肺に穴が空いている…。

テンキも駆け付けたが、トキを見た途端に彼は首を横に振るとその場を離れていった。

他に診るべき怪我人は無数に居たのだ。


「ト…トキ…」


私の問い掛けにトキの瞳が僅かに開いた。


「俺に任せて!俺がトキを___」


するとトキは左手を上げて私の口に人差し指を当てた。


「…どうして…このままじゃトキが…」


トキは苦しみながらも首を横に振る。


「…俺達は…お前を…ま、護る…」

「…トキ…トキ!、駄目だよ…だって…」


ドクドクと流れる鮮血を布で抑えるも直ぐに赤に染まって行く。私はトキの耳元に口を近づけた。


「辞めろ、ミズキ。エンの兵も見てる…」


肩に手を置き静止させようとするキリトを振り切り、既に呼吸が途切れ途切れになっているトキに小さな声で唄を届けた。

キリトもそれ以上止めはしない。彼もトキを失う事を惜しく思っているに違いなかった。

他の兵に聴こえない程の微かな歌声はトキの出血を止め、その表情を少しだけ穏やかにしていった。

遅過ぎた…。トキの呼吸が止まる。


「トキ…嘘だよ…まだ待って…もっと大きな声で歌うから!」


私が口を開け声を上げようとするとキリトが後ろから口を抑える。


「辞めろミズキ!……もう…遅い…」


キリトの拘束を暴れながら解き叫んだ。


「やだ!まだ間に合う!トキ、聴いてよ!」


トキに縋り付いて涙を流しながら無茶苦茶に歌い出した私を引き剥がしキリトが怒号を響かせる。


「止せミズキ!!トキを見ろ!!」


その声にハッとして私はトキへとゆっくり視線を送る。


「穏やかな顔をしている…お前が苦しみから救ったんだ…」

「やだよ…トキ…行かないで……トキ…」


揺さぶるが彼がその金色の瞳を開ける事はなく、台の上からダラリと左手が落ちた。


「トキ!トキ!!」


救えなかった。力を持ちながら大切な仲間を救う事すら出来なかった。トキの亡骸に縋り付いて狂ったように泣いた。

すると戦場に雨が落ち始める。私はそんな事お構いなしに泣き続けた。

雨は次第に強さを増し豪雨となって視界を奪う程になっていた事に私が気付く事は無かった。

キリトが何かを感じて突然後ろから私を強く抱き締めた。


「落ち着け、ミズキ……力を使うな…」


私は訳が解らずにキリトに縋り付いて嗚咽を漏らしている。


「キリト…トキが…トキ、が……」


キリトは私を抱き締めながら背をポンポン叩く。

どれ位そうしていたのだろうか。知らず私は意識を手放した。


力を使った代償とトキを失った喪失感を抱えながら目を冷ました私は、戦場に張られた陣の内の1つのテントに寝かされていた。

小さなテントの中にはキリトが静かに座っている。


「水…飲むか?」


静かに問うキリトに私は首を振った。


「キリト…戦闘は…」

「お前のお陰で一時休戦だ」

「…?」

「突然の豪雨でな…双方共に引き上げざるを得ない状況になった…あれは、お前だろう」

「…解らない…」

「あんなに天気が良かったのに、川が出来ちまう程の豪雨が突然降るなんてねぇ…しかも今は乾季だ。お前の力以外考えられねぇってのが俺達の見解だ。恐らくアギにもお前が戦場に来ている事がバレただろう…」


キリトは小さく息を吐いた。


「ミズキ、もう力を使うな…エンにも噂が出始めている」

「…でも…どうやってるのか…俺も…」

「引き金は恐らく感情だ」

「感情…」


するとトキの最後が思い出されてまた涙が溢れ出して来る。


「…落ち着け…トキの死を無駄にするな…」


私は口に手を当てて懸命に涙を抑えようとするが、もうあの滑らかな毛並みを撫でる事も、落ち着いた声を聞く事も無いのだと思えば、また嗚咽が漏れる。


「…感情を抑えるなんざ…無理な話か…」


そっと差し出された手を握り締めれば声を殺して泣く。

夜の闇にまた激しい雨が降り出したようだった。


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