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十九

遅筆で申し訳ありません。

お待ち頂いた方々、誠に有り難うございます。



遂に戦争が始まってしまった。

エン国の西、国境にあるブレンの街がアギにより侵略され、導きである私を求めていよいよ戦端の火蓋が切って落とされたのだった。

しかし、戦争の本当の残酷さを知らない私には、まだ甘い思いがあったのかも知れない。

その時が来るまで、自身の力やそれに伴う己や周囲の犠牲について考えてもみなかった。


アギ侵攻の報から15日後。吠狼隊に戦場への派遣要請が届いた。

トウの街に駐屯する正規軍3000の中に遊撃隊として配置される事となる。

翌日、タケヤ、キリト、ケイキの3人に呼ばれた私は、キツタ以来の緊張の中に居た。何故かコウもその場に居る。

タケヤが重々しく口を開く。


「ミズキ、明日俺達はトウを出発する」


息を呑み頷いた。


「…酷だろうが…お前にも来てもらう」


暫し考えて更に頷く。


「俺達全員に招集がかかっている。お前1人を置いていく訳には行かねぇんだ。…すまん…」


私は首を振った。


「俺が役に立つ事があれば、何でもするよ」


すると徐にキリトが口を挟んだ。


「お前は力を使う事は辞めておけ」

「…どうして」

「…エン国にお前の存在を知られる訳にはいかねぇ。アギには知れちまったが、友軍に迄狙われたらたまったもんじゃねぇからな」


確かにキリトの言う通りだった。

私の存在そのものがアギの目的であり、その他の国々の目的なのだ。

其れはエンも同様で、其の事実が知れた途端に私を護ろうとする吠狼隊は全ての国から狙われる事となってしまう。

そうなれば…。

私は息を呑んで頷いた。


「医療班として、またお前の護衛役としてコウの班を付ける。共に行動しろ」


コウはその為にこの場に居たのだ。目が合い、ニッと笑って頷いてくれたので、私も軽く首を動かし微笑んだ。


「分かった」

「出発は明朝。2人で協力して準備を進めて欲しい」


ケイキの言葉に私とコウは早速婆様が細々と集めた医療道具や薬品を持てる限りで纏める。

コウの班は隊員が4人。ダイ、サンガとタオ。そしてアツキの補充として後から入隊したチャンだ。

ダイは私を華屋に連れ出した内の1人で、キツタでは腕を負傷したが今は全快している。

4人共に二十歳そこそこだが、普段の鍛錬のお陰か皆頼もしい程に鍛えられていた。

それぞれに荷物を分担して、私は比較的軽い布類を担当し、プラスα自分の物を少々。

と言っても、戦場に持って行ける物など限られていて、着替えは一枚きりだ。

後は藁と布で出来た靴を2足。

何でも戦場で1番消耗するのは武器と靴だと言う。

なので、皆工夫して重ねた布と藁で丈夫な靴を自ら作るのだった。

10班の内、前衛は元気で隊の士気を上げることが出来るヨキとライタ、ハルマの班が。

中衛はキリトが指揮し、クタニとトキ、ソウヤの班とタケヤ、ケイキ。

後衛としてコウは医療班として私と、カトリは賄いと物資護衛班。ライナは情報伝達班で殿をハンが務めた。

こうして布陣は決定し、揃いの真っ赤な腕章を巻き付けて、トウの中心にある役所へと乗り込んで行くのだった。

役所では未だ行進の布陣でバタついていたが、吠狼隊が整然と到着するとその視線を一気に集める。

タケヤが現場指揮をしている男に声をかけた。


「吠狼隊、只今到着致しました」

「…早いな。吠狼隊は前衛のセレク殿に指示を仰いでくれ」

「セレク殿ですね。承知しました。吠狼隊、前進!」

『おお!!』


血気盛んな若者達は戦いに赴くというのに、何処か遠足にでも行く小学生の様にその目を輝かせていた。

対して正規軍の士気は低いように思える。

それもその筈で、日々の鍛錬に加えて常に街中にて戦いの中に身を置いており、キツタの一件から宿所への襲撃迄、若者といえど修羅場には慣れた者達ばかりだ。

正規軍はといえば、ここ100年近く戦争等は無く、鍛錬を重ねてはいても実戦経験の無い者ばかりでその差は歴然だった。

私はあの査察団の団長の姿が見えない事に安堵し、皆に続いて前衛部隊へと合流した。

集合は朝であるにも関わらず、部隊が国境の街ブレンへと出発を始めたのは昼過ぎであった。

幾ら3000人気とはいえ、流石に時間がかかり過ぎなのではと素人の私でも思う。

流石にコウが愚痴り始めた。


「チッ!こんな速度じゃアギに迎撃と進軍の時を与えちまうだけだ…」


兵は疾速を尊ぶ…。確か古文か歴史の授業で習った事があったな等と考えながら、亀の歩みの部隊は各地で兵を補充しつつ、最終的に8000人強の大部隊となって国境の街ブレンの手前、ウレタ近郊へ来た時には、既にアギは迎撃の布陣を組み一触即発の状態であった。

ブレンの敗残兵とウレタ近郊から集まった兵、トウからの大部隊を合わせてエンの兵力は15000。対してアギは10000。

数だけでいえばエンの方が植えだったが、ブレンで一度敗北を味わった者や初陣の多く居るエンの士気は低く慌てふためいている。

此方の布陣を待たずにどんどんと近付いて来るアギの軍に、エンは怒号が飛び交う正に蜂の巣を叩いた勢いだった。

エンの総大将は第三王位継承者であるクスリクトという王子が務めているらしいが、後衛に居る王子からの伝令が前衛のセレクに迄届かないという体たらくだ。

そうこうしている内にアギの部隊は前後の分断を図るべくエンの側面に到達しようとしていた。

ブレンの敗残兵とウレタ近郊の兵、トウからの前衛部隊を合わせても4500くらいだろうか。

分断されれば各個撃破されてしまう。

後衛との連携が上手くいけばアギを挟撃できるとはいえ、今のエンの統率力ではそれも難しい。

そしてなし崩し的に戦闘に巻き込まれる形となってしまう。

吠狼隊は其れでも落ち着いたキリトの指示で何とか体制を保っている。

キリトは唯一1つの退路を確保する事に成功し、物資と医療班はそのか細い退路で陣を張ることが出来、包囲される事は免れた。

戦闘開始から時を置かずしてエンの兵が負傷して運び込まれて来れば、陣はあっという間に修羅場と化す。

私はタケヤ達との約束を守り、ひたすら応急処置に徹した。


「傷は塞がるから、気をしっかり持って!」


兵士達は手や脚があれば良い方で、切断されて運ばれて来る者も多く居た。

私の唄でも手脚を生やすことは出来ないだろうが、失血死を防ぐ事は出来た筈だ。

自分の力を奮えない事に後ろめたさを感じながらの治療だった。

伝令班のライナの活躍により、細い退路は次第に厚みを増していき、中衛が合流出来るとエンの医療班も到着する。

軍医はテンキという先生で、口髭がワイルドな40絡みの男だった。


「ご苦労だった。君達は吠狼隊の者か?」

「はい。俺は医療班班長コウと言います。素人ばかりですが多少はお力になれるかと」


テンキは現場を見回し。


「否、大したものだ。たった6人でここ迄良くやってくれた。応急処置も的確のようだか君が?」

「いえ、指揮はミズキという若者です」


コウは忙しく立ち回る私を指さした。


「…あんな若者が…。吠狼隊は精鋭揃いと聞いていたが…」


そう聞いたコウは嬉しそうに微笑んだ。

中堅隊の到着により膠着状態と化した戦場で、吠狼隊の面々もちらほらと運ばれて来ていた時だった。

キリトが血相を変えて救護所に飛び込んで来る。


「ミズキ!トキがヤラれた!!急いで診てくれ!」


その言葉に、私は手に持っていた医療道具を取り落とす程に動揺した。

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