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十五



[キリト目線]


その夜、緊急幹部会を開いた。ミズキは部屋で休ませている。


「すまん」


あらかたの報告を終えた後、俺は皆に頭を下げた。


「ま、まぁキリト、あんな場面だ。誰でも判断に迷うだろう。応援を呼びに行く間に情報を持ってかれる可能性もあったんだからな」

「待機して、出てきた奴を始末する事も出来た。…俺の判断ミスだ」


ケイキさんはタケヤさん程甘くなかった。


「確かに、今回はキリトらしからぬミスだね。そもそも、1人で先行したのが間違いだった」


返す言葉もなかった。

恐らく、ミズキが攫われたと聞いた時から、冷静ではなかったのだろう。

すると、廃屋を調べていたライナが帰って来た。カイに送ってからすっかり諜報活動が板についていた。


「奴等アギの人間だ。持っていた小刀の柄がアギのそれだった」

「…最近、軍事力を高めてきていると言うな…。吠狼隊はキツタの件で名が知れ渡った。…少しでも情報が欲しかったのだろう」


いよいよ各国が本気で動き始めたこの時期、何処に何処の密偵が潜り込んでるかも解らない状況で、ミズキを1人で行動させすぎた事もまずかった。

タケヤさんが腕組みをする。


「…ミズキの存在はアギに知れたと見ていいだろう…。問題は、これからどうするかだ。…いずれ、エン国にも知られるだろうな…」

「エン国王に差し出すの?」


クタニが冷たい声をあげる。


「俺、それには賛成出来ないな」

「…い、否…」


クタニとはガキの頃からの長い付き合いだ。こんな冷えた目をした奴を見たことがない。

タケヤさんも驚いているようだったが、ケイキさんが口を割る。


「クタニ。事はあまり単純じゃないよ。俺達はもう傭兵じゃなくて、この国に仕えてる身だ。導きを匿ってて渡さなかったと知れたら、吠狼隊は解散、タケヤさんや俺達も捕らえられるだろう。…隊の存続を考えれば、冷たいようだけどミズキは手放した方がいい。そして、それは国王に情報が届く前がいいね」


広間がざわめく。元々、国の中枢に這い上がる為の駒として導きを利用するつもりであの湖に赴いたのだ。

以前の俺だったら間違いなくケイキさんの意見に賛同していただろう。だが、今は…。

ケイキさんの言は正論だが、此処に居る多くの者が戸惑いの色を浮かべている。

当然の事だろう。

導きが何も知らない娘だとは誰も知らなかった。アイツと接して、その心根が強く優しくたおやかな事を知れば、誰でも好感を抱く。

クタニに言われるまでもない。

ミズキは芯の強い女だ。己の運命を疑いつつも逃げる事は無かった。

自分がどうなるかも解らねぇ状況でも、他を気遣える優しい女だ。そんなのはとっくに知ってた。

そのミズキを、吠狼隊の為に犠牲にしてもいいのか。


「単純だよケイキさん。俺はね、幼気な娘を売って保身に走るような隊が、国に名を残せるとは思えない」

「クタニ、感情論で語るなよ。これは国の存亡にも匹敵する問題だ。導きとはそれ程の影響力を持っているんだよ。…婆様が言ってた、自然と事が動くとは、今の事じゃないかな」


ヨキが口を挟んだ。


「なぁケイキさん。…隊を護ってミズキも護る、そんな案はないか?」


ハルマも同意した。


「例えばさぁ、ミズキをどっかに隠すとか?」

「…隠してどうするんだ…。いいか皆、ミズキは導きなんだよ。厳しい事を言うようだけど、あの子は生きている限り権力者に狙われ続けるだろう。一生隠し続ける気か?」


しんと静まり返る広間。

ケイキさんは現実主義者だが冷酷な人間ではない。吠狼隊の為に悪役を買って出てくれてる事を皆も解っている。

黙って傍観していたタケヤさんが重く口を開く。


「ケイキ、お前の言いたい事は解るよ。吠狼隊を想う気持ちもな。…むざむざ隊を解散させるつもりはねぇよ。…だかな、クタニの言う通りだ」


タケヤさんは澄んだ目をしていた。


「ミズキはもう俺達の仲間だ。仲間を売らなきゃ手に入らねぇなら、そんな名誉はいらねぇ」


俺は何処か安堵していた。ケイキさんも案外穏やかに「やれやれ」と呟いている。

タケヤさんの意は想定内だったのだろう。


「ミズキは俺達が連れて来た。その責任は取らなきゃな」


一同は顔を引き締めて頷く。俺はそこで漸く声を出す事が出来た。


「…ミズキは吠狼隊で護る。そういう事でいいんだな」


それぞれの顔を確認すると、ヨキが明るく口を開いた。


「今更だぜキリトさん。俺達ゃあとっくにそのつもりだ」

「だぁな!それに、国を相手に喧嘩ってのも面白そうじゃねぇか!」


ハンの物騒な発言にケイキさんが再び釘を刺す。


「ハン、まだ国と袂を分かつと決まった訳じゃないよ。…取り敢えず、ミズキの件は皆の意見が一致してるみたいだから俺はもう何も言わない。けど、他の隊員にいつ伝えるか、万が一エン国を出ることになった場合の50人から成る大所帯の食い扶持の確保、脱落者も出るかな?吠狼隊を受け入れる国があるか…問題は山積だよ…」


ケイキさんは人差し指をこめかみに押し付けた。


「…隊のこれからは俺も考える。ケイキさん1人で背負い込むな。…今夜だけで結論が出る筈もねぇ。エン国がどう動くかも、情勢がどうなるかもまだ解っちゃいねぇんだ。今は静観するって事でどうだ」

「キリト…そうだね。今下手に動いては逆に目をつけられかねない。ただ、アギは動いて来るだろうから、俺達も腰を軽くしておかないと」


俺は頷いてタケヤさんを見る。


「タケヤさん、覚悟が必要だぞ。ミズキを…導きを護るって事が吠狼隊を、俺達の夢を壊すかもしれねぇ。それでも―――」

「キリト、否、皆も聞いて欲しい。吠狼隊は無くならねぇよ。確かに剣1本で国一番の集団を作るのが目的だった。だがな、吠狼隊は変わらねぇんだ。剣に生きて剣に死ぬ、それだけだ。エン国ではなく導きを護る。エン国ではなく世界に名を馳せる。目的がちっとばかしデカくなっただけだ。…それに、女1人を護りきったと知れれば、この上ない名誉じゃねぇか」


少年の様な笑顔は昔から変わらない。敵わないと思った。

当初の目的に縛られて視野が狭くなっていた自分が情けなくなる。

この人は何時でも揺るがない。タケヤさんが居れば、俺達は吠狼隊でいられると思った。


会議も終わり、ミズキの様子を見に行くことにした。

しかし、部屋に入る事が出来なかった。クタニの声が中から聞こえてきたからだ。

何時もなら普通に入っていただろう。でも出来なかった。

決してクタニに気を遣った訳ではない。

自分でも解らないこの感情に多少の苛立ちを覚えて、俺は自室へと戻った。


[キリト目線終わり]







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