状況が分からないので、とりあえず分からないフリしてみましょう!
顔立ちや、服装は、なんというか、古代エジプト風。
真ん中にクレオパトラみたいな女性が立ってて、右側に若い男性が、左側に神官? っぽいハゲのおっさんが立っている。
『……勇者様、大丈夫ですか?』
真ん中に立つクレオパトラ(仮)から、その声は発せられた。
……日本語ではない、それは間違いない。
だけどなぜか、意味が分かる。
翻訳魔法か……すごすぎ。
だけど……どうする?
まともな返事して、いいものだろうか?
人違いってばれたら殺されるとか……ナイヨネ?
背筋に冷たい汗がタラリと落ちる。
俺が返事が出来ずに固まってると、おっさんがクレオパトラ(仮)に話しかけた。
『……様子がおかしいぞ?
もしや、我らの言葉が分かっておらぬのではないのか?』
『まさか!
きちんと言語理解の魔法をかけております!』
『しかしその割には反応がおかしいではないか!』
むーん。
そんな便利な魔法あるのか。
でも水に包まれたのは絶対治癒の魔法だから、きっと気を失ってた間に掛けられた魔法に違いない。
しかし勇者じゃないことをそれとなく相手に訴え、しかも相手からの追及を逃れるためには……もはやあの手しかないだろう。
しかしやれるか?
俺は幼稚園でドジでのろまな亀を演じた以外、なんら演劇経験がない。
それに実際のところ、死ぬほど恥ずかしい。
いやだが、本当に死ぬわけでない。
背に腹は代えられないだろう。
殺されるよりマシ、殺されるよりマシ。
俺は心の中でその言葉を念仏のように唱えながら、意を決して口を開いた。
「ピグッ……ッテェ、ピブピッヨポケウスルルウーノルーノ、ジャオロジャケロジヒドイゴルオイ!」
痛え!
緊張のあまり舌噛んだわ!
しかも超棒読み。
我ながらひどすぎるが、ここで迂闊なことしたらどうなることか想像できないので、必死に耐えた。
正直心臓はバクバク。
額からチロリと汗がしたたり落ちる。
え? みなさん、何で無反応なの?
……つーか、全部ばれてるとか?
うっわーハズイわ自分!
だよねだよね。
きっと魔法でずるっとまるっとお見通し、だよね?
ごまかせねー!!