1-6 家督相続
愛季はいつもと同じような表情を心掛け、家臣らの詰める一室へと戻る。先ほどより人数は多くなっている。家老の百石を中心に、家臣らをまとめていた。……皆々、愛季の顔を見て安心したようだった。
百石に問う。
「弟への連絡はしたか。」
弟は安東茂季といい、土崎の湊安東氏へ養子に入っていた。百石は少しだけ戸惑う。
「いえ、まだでございます。なにぶん遠方にて。……急を要しますか。」
愛季は首を振った。
「明日になってからでよい。久しぶりに里帰りに来いと伝えよ。父は少し疲れたようだから、この機会にいたわってやるように。」
百石は胸をなでおろした。何も大殿の先が短いというわけではなさそうだと。
「では、朝一に使いを送るよう手配いたします。ちなみに……。」
「なんだ。」
「これからの案件は若に伝えますか。それとも、これまで通り大殿へ伝えますか。」
…………
「私でよい。」
百石は深くうなずき、周りの家臣らもそれに倣って頭を下げた。
真相を知っているのは私と医師ぐらい。父はどうも母にも明かしていないようだ。母は湊安東氏の出である故、湊の家臣らと繋がっているだろう。今でこそ弟の茂季が湊の当主だが、かつて檜山と湊の両家は争ってきた仲だ。父が危ないと知ったが最後、何か企むものが出てくるかもしれぬ。
愛季は簡単な夕餉を家臣らと食し、”このたびは済まなかった。”とそれぞれに伝えてながら酒を注いだ。老臣には耳を傾け、若い者らとは流行りの事など語り合う。そうしているうちに月が高く上がったので、お開きとなった。歩きの者や馬に乗る者、小舟で下るものなど様々(さまざま)だが、ただ一人だけは自分の意志で帰ろうとはしなかった。次郎兵衛である。
門前にて、家臣らの姿が見えなくなった。
「若はさすがですな。」
”顔を操る姿、見事です。”
愛季は少しだけ頷いて見せた。次郎兵衛は小さいころから愛季に付いている傅役。顔表情が変わらなくとも、何を考えているかお見通しだ。
「それで、茂季様には本当のことを伝えますか。」
少し苦い顔をしながら答える。
「数少ない肉親。伝えたい気はやまやまだ。」
弟は、戦国に生きるには優しすぎるし甘すぎる。湊安東氏を監視する意味合いで送られたのに、役目を果たしているとはいえないだろう。家来をまとめ切れていないし、勝手な行動を防ぎきれていない。信用していないわけではないが……。まだ歳も若いし、これからどう成長するかにもかかっている。
愛季というと、一本の大木。檜山の民はヒバの子供をアスナロと呼ぶが、愛季は小さなアスナロから、今にもヒバの木になろうとしている。
そんな彼は、戦国を懸命に生きる。
傅役とは、幼年の者に付く教育係である。




