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沖の舟 -安東愛季伝-  作者: かんから
家督相続 天文ニニ年(1553) 愛季15歳
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1-6 家督相続

 愛季ちかすえはいつもと同じような表情を心掛け、家臣らの詰める一室へと戻る。先ほどより人数は多くなっている。家老の百石ひゃくごくを中心に、家臣らをまとめていた。……皆々、愛季の顔を見て安心したようだった。


 百石に問う。

「弟への連絡はしたか。」


 弟は安東あんどう茂季しげすえといい、土崎のみなと安東氏へ養子に入っていた。百石は少しだけ戸惑う。


「いえ、まだでございます。なにぶん遠方にて。……急を要しますか。」


 愛季は首を振った。

「明日になってからでよい。久しぶりに里帰りに来いと伝えよ。父は少し疲れたようだから、この機会にいたわってやるように。」


 百石は胸をなでおろした。何も大殿の先が短いというわけではなさそうだと。

「では、朝一に使いを送るよう手配いたします。ちなみに……。」


「なんだ。」


「これからの案件は若に伝えますか。それとも、これまで通り大殿へ伝えますか。」



   …………



  「私でよい。」


 百石は深くうなずき、周りの家臣らもそれにならって頭を下げた。






 真相を知っているのは私と医師ぐらい。父はどうも母にも明かしていないようだ。母は湊安東氏の出である故、湊の家臣らと繋がっているだろう。今でこそ弟の茂季が湊の当主だが、かつて檜山と湊の両家は争ってきた仲だ。父が危ないと知ったが最後、何か企むものが出てくるかもしれぬ。


 愛季は簡単な夕餉を家臣らと食し、”このたびは済まなかった。”とそれぞれに伝えてながら酒をいだ。老臣には耳を傾け、若い者らとは流行はやりの事など語り合う。そうしているうちに月が高く上がったので、お開きとなった。歩きの者や馬に乗る者、小舟で下るものなど様々(さまざま)だが、ただ一人だけは自分の意志で帰ろうとはしなかった。次郎兵衛じろべえである。



 門前にて、家臣らの姿が見えなくなった。


「若はさすがですな。」


 ”顔を操る姿、見事です。”


 愛季は少しだけ頷いて見せた。次郎兵衛は小さいころから愛季に付いている傅役もりやく。顔表情が変わらなくとも、何を考えているかお見通しだ。


「それで、茂季様には本当のことを伝えますか。」


 少し苦い顔をしながら答える。

「数少ない肉親。伝えたい気はやまやまだ。」


 弟は、戦国に生きるには優しすぎるし甘すぎる。湊安東氏を監視する意味合いで送られたのに、役目を果たしているとはいえないだろう。家来をまとめ切れていないし、勝手な行動を防ぎきれていない。信用していないわけではないが……。まだ歳も若いし、これからどう成長するかにもかかっている。




 愛季というと、一本の大木。檜山の民はヒバの子供をアスナロと呼ぶが、愛季は小さなアスナロから、今にもヒバの木になろうとしている。



 そんな彼は、戦国を懸命に生きる。

傅役とは、幼年の者に付く教育係である。

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