1-4 急報
船着き場で愛季と次郎兵衛と近太夫の三人が語らっている。日差しも暖かい五月の昼下がり。そんな時に馬に乗った男が、三人めがけ迫ってきた。ドウッドウッと合図し、馬の鼻紐を引く。馬はうなり、その場に止まった。男は下りるなり一目散にこちらへ駆け寄る。次郎兵衛はその男を見知っている。
「鎌田殿ではござらんか。そんなに慌てて、どうなさったのだ。」
蒼白なその顔は、事態の大きさを物語っていた。
「若、そして清水次郎兵衛殿。どうぞこちらへ……。」
近くにある林の茂みへと隠れる。……鎌田はできる限り落ち着いた口調で言い始めた。
”大殿が倒れました。”
愛季の父、安東舜季。もう少しで四十路を迎えようとする壮年の男。これまで調子が悪いところなく、すこぶる健康だったと思うが。愛季は顔を曇らせる。急いで檜山の城へ帰らねば。次郎兵衛へ振り向き、彼も愛季へと頷いて見せた。次郎兵衛はまず苦言を発した。
「……わかった。すぐに城へ戻る。だが、お主に言うことがある。」
次郎兵衛は鎌田の肩を軽くたたく。
「あんな顔で来られては、事を悟られるだろう。重大事ほど、いつもと同じ顔を保て。」
故を語ることなく、次郎兵衛は近太夫に別れを告げに行った。近太夫は心配そうに次郎兵衛を見るが、彼は笑みを浮かべて話し出した。
「近太夫殿、こやつが慌てていた訳がわかりましたぞ。なんでも飼い猫を城へ連れて行ったら、大殿の手をそれはまた大きくガブリついたそうです。」
近太夫は思わず笑ってしまった。
「だからですか。とりなしを求めて、若に助けを求めていらしたので。」
「ああ。困ったものです。」
そのまま近太夫とは別れを告げ、早馬でその場を去る。
近太夫も賢い男。勘づいたかどうかまではわからないが、彼も檜山安東に属する人間。むやみに広げるような真似はしないだろうと信じたい。
米代川の右側を駆け、ひたすら東へと進む。走っているとそのうち目の前に小さな川が分岐する。その小川を伝っていけば、檜山の城へたどり着く。ヒバで山は覆われ、その静まった森の中に御殿がある。一度は周りを堀で囲ったとは聞くが、時が随分と立ったせいでその斜面に笹や小さなアスナロも生える。檜山の一帯ではヒバの子供をアスナロと呼ぶが、そのように木々が所狭しと生い茂っているせいで、敵にはこちら側の兵が見えない。攻められても隠れたまま攻撃できる、天然の要塞だ。
愛季は西門で馬を降り、詰める兵に預けた。そのまま小走りで御殿へ向かう。




