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沖の舟 -安東愛季伝-  作者: かんから
家督相続 天文ニニ年(1553) 愛季15歳
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1-2 湾口の形

 渡り場より、船の上を臨む。縄の梯子はしごが水夫によって投げ出され、船体の横に沿ってつるされた。次郎兵衛は愛季の腰をつかみ、愛季が上りやすいように体を支える。手が体から離されると、ゆっくりとだが着実に、愛季は段に足を掛ける。次郎兵衛は愛季が上りきるまで、ひたすら下で見守る。ハラハラしつつも、かつて少年だった愛季の成長した姿に、大丈夫だろうという安心感も見出していた。


 風もなく足も踏み外すことなく、愛季は船体へ上がった。大船の割には水夫5人しか見えないので、少しがっかりする。だが次に目に入ったのは帆柱。天に伸びる1本の柱はひたすら長く、まるで天を衝くがごとくだ。その頂点に強い日が当たり、輝かしく鋭い光を放っていた。柱を支える縄も、力強く張ってあるように見える。


 ……後ろから呼びかけられた。


「若、お初でございますな。」


 振り向くと、そこには肌が黒く焼けた中年の男がいた。あごと口のひげがつながっており、決して整えているようには見えない。恰幅の良い体に、水に強い麻の衣を着ている。人も衣も味わい深い。


 笑顔で、その男は言った。

「私はかつら近太夫こんだゆうと申し、檜山ひやま安東の水軍大将を務めとります。」


「それはごくろう……そなたも3年前に蝦夷ヶ島へ行ったのか。」


「へい。嵐も難なく乗り越えました。これも金比羅こんぴら様のおかげです。」


 金比羅とは、海の男たちの守り神である。漁船などでは先頭の鼻を尖らせ、その突き出た木の中をくり抜いて”玉”を入れる。その玉は金比羅で祈願したものだ。



 次郎兵衛じろべえも船体へ上がってきた。二人の話しているさまを見て、うんうんと頷きながら話に加わる。

「この近太夫は立派な船頭でして、多くの場数を超えてきた日本一の男です。何なりとお尋ねなされ。」


「では……前々から思っていたのだが。」


 愛季はうなりつつも、なんとか言葉をまとめながら近太夫へ問うた。


「この能代のしろの港も十分にいい港だとは思うが……、なぜ能代よりも土崎つちざきの方が栄えておる。港の形、流れ込む川の形が違うせいで、船が泊まりやすいのか。」


 近太夫は手をたたき、”よき質問だ”と褒めたたえた。


「形は確かに違います。能代の米代よねしろ川は縦に海へ交わるのに対し、土崎の雄物おもの川は斜めに入ります。一部は海岸線に対して横に流れとりますので、船を止めるのにとても向いとります。」


 海波の影響を受けないため、安心して泊めることもできる。加えて河口大きく、川幅がずいぶんと広いまま続く。大きな船も川をさかのぼれることによって、思わぬ好影響をもたらすという。

土崎港は、今の秋田港と同じ。

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