2-9 弟の弱さ
……雨は降りやまぬ。そのうち、湊の城が見えてきた。河川が周りを覆い、天然の要塞と化す。愛季は城へ入るために、屋根付きの十人舟に家臣や豊島らとともに乗り込んだ。……屋根下の狭い空間に、愛季と豊島の二人が座す。簾ごしに外を見るが、辺りは雨しぶきで川へ注ぎ込み、霧がかっているようだ。
……二人は無言。何か言おうとしても雨の音で掻き消えるだろうが、話を一切しないままにいるのも気まずいもので、とうとう豊島は愛季に話題を振った。
「檜山様。この度はよくお迎えに行くことを思いつかれましたな。」
「ああ。それも一興だと思ってな。」
互いに真顔である。わざと聞こえるように大きめな声で話す。
「そろそろ我ら主にも嫁をあてがってくださらぬか。」
「……そうだな。茂季にも嫁がせる時期だ。誰がよいかの。」
中身のない会話であった。そのまま舟より下り、城へと上がる。夕暮れとなり、久しく兄弟は対面。大広間にて愛季と茂季は上座にて横に並び、檜山ならびに湊安東家の家臣らとともに宴が催された。……天井を打つ雨音は、何やら人を静かにさせるのか。そして弟とも深い話をしたかったのだが、なにか言おうとするなりそれを邪魔するかのように、湊の家臣らが割って入る。まるで事前に決めていたかのように。……愛季に鬱憤が溜まる。すると重臣の百石が気づいたようで、上座へ酒を注ぎに来た。愛季の器に注ぎ終えると、次に茂季へと挨拶し、その器へと注ごうとする。
「湊様。檜山様がしんみりと語らいたいと申しております。どうです、別室を移られるのは。」
茂季の顔は急に明るくなった。次に”そうしよう”と返事を言いかけた。だがそれを止めようと湊安東の三人衆が茂季の袂へ集まった。三人とは豊島・寒川・玉虫である。代表して寒川が言う。
「殿、もう夜遅うございます。休まれましょうぞ。」
愛季は三人を睨む。茂季は気落ちする。三人衆は愛季と目を合わせず、茂季を半ば強引に引きはがした。そのまま宴はお開きとなった。
本当は激怒したかった。あやつらの狙いはわかる。だが今は争う頃合いではない。それに茂季もしっかりとすべきなのだ。……百石もこの感情を十分に理解している。……本当はこの場に治郎兵衛がいればいいのだが、残念ながらいない。慰める適任が不在だ。
しかし愛季は大人だ。嫌な気持ちを無理やり抑え込み、布団を被る。……酒田へ向かうことだけ考えることにした。
…………
4月8日、酒田沖へ到達。




