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沖の舟 -安東愛季伝-  作者: かんから
家督相続 天文ニニ年(1553) 愛季15歳
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1-1 渡航経費

第一章は全部で十話あります。

 5月の某日、すがすがしい青空が広がっている。海も荒れることなく、穏やかな姿を表している。向こうに見える陸地なく、浮かぶ帆船はんせんがいくつかわかるのみ。


 安東あんどう愛季ちかすえ能代のしろの港で、かつて父が蝦夷ヶ島へ渡った時の巨船を見上げる。目前に座すは、長さ約60m 幅25m 深さ12mもの壮大なものだ。これだけ大きければ海賊も襲う気はなくなるし、蝦夷の民へたいそうな威圧になっただろう。


 隣の次郎兵衛じろべえは愛季に問う。

「これだけの大船です。何人が乗り込んだと思われますか。」


 愛季はうなる。水面の下には200丁もの櫂があろう。ということは、櫂を操る200人の人足にんそくが必要だ。ほかにも戦闘要員や水夫など含めると300人を超すか。


「具合がよろしいようで。実際はもう少し多いでしょう。さらには大船を守るために周りを10艘の早船はやぶねもついていきました。合わせ400人です。」


 ”そんなにもなるか。”と愛季は感嘆した。次郎兵衛はそんな彼に、不敵な笑みを浮かべる。


「では、それだけの人数です。渡航に伴う兵糧等などあつめる費用はどうなりましょうや。」


 ちなみに渡航にかかった日数は20日間だという。愛季は腕を組んで、ひたすら考える。野戦であれば兵糧を用意して配る必要があり、1人につき1日米5合なので、往きだけならば400人×20日×5合=40000合。他にかさむ諸経費含め60000合。1石が1000合なので、60石かかる計算だ。さらに1石は2俵と半分。150俵もの米が必要だ。


「確かに、野戦と同じように考えるならばそうでしょう。」


 次郎兵衛は説明する。野戦ならばそのくらいで済むが、案外兵ら自身で食べ物を持ち寄っている。農民ならば野菜や粟稗など勝手に食べて、空腹を満たしているらしい。悪いことではあるが、敵領内での略奪で補う場合もある。

 だが海は違う。勝手に下りてほっつき歩くわけにもいかないので、基本的には支給される食糧しかない。(釣りという手もあるが、基本的に火の使用が制限されている。)さらには海には思わぬ事故がつきものなので、水夫を雇うには莫大な金が必要だ。特に彼らは農民と違って流れ者が多いので、銭の過多によって集まらないこともある。


「なので、往きだけでも最低300俵は必要です。」


 ”予想以上に費用がかかるものだな。”とはっとさせられた。こうなので帆船の整備、特に風が寒い北国では進みにくい。南部氏などは特におろそかだ。良港をいくつも持っているのに、全く生かせていない。家々の性格によるところもあるが、初期投資ばかりに目がいくか。”旨み”を知っている者にとって、いじらしい限り。


「……難しい話になりましたが、ここで終わりにします。さっ、船へ乗りましょう。」



 愛季は胸を膨らませ、船着き場を歩く。

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