2-1 檜山からの海路
第二章は全部で十話あります。
安東の生命線は、交易である。檜山と湊の両家はそれぞれの沿岸を守り、商人らの安全を保障する責務がある。その代りに税をとり、分け前のいくらかを貰うのだ。もちろん大名自らが商船を派遣して交易することも可能だが、商人とは別の要因で妨げうる。
すなわち商人らは、それぞれの港の領主に分け前を払いさえすればいい。一方で大名は違う。領土が近い同士ならば特に、利害関係が絡み合う。隙あらば相手の領土を奪わんと企む相手……安東であれば北は南部氏、南は大宝寺氏。南部と安東は宿敵の関係で、かつて安東は津軽の領地を奪われた。険悪な仲なので、南部領の港に決して安東の船が入ることはない。それ故に父が蝦夷ヶ島へ渡った時も、鯵ヶ沢や十三湊に立ち寄らず、一気に渡島を目指したのだ。(それ以前に南部氏は湾港整備をほとんどしていないので、入港しても用が足りたかどうかわからない。)大宝寺とは彼らとの緩衝地帯に由利十二頭という勢力がいる。十二頭は独立独歩の存在で、争いがおこるとそれぞれ大宝寺だったり安東を味方にして引き込むので、安東と大宝寺の代理戦争ともいえる状態になっていた。
大宝寺領には、酒田という大きな港がある。最上川水域の商品を一挙に請け負い、それを目当てに諸国の船がやってくる。ここに安東の船も加わることができるのならば、大変喜ばしいことだ。さらには檜山から敦賀方面へ渡航することを考えても、途中の停泊地としても重要だろう。
”……どうにかして、大宝寺と仲直りできないものか。”
そうすれば、さらなる富が安東へ舞い込む。
雪解けの昼下がり、愛季は書斎にて思案にふける。
そんな時、重臣の百石が襖の奥にて紙束を持ちながら侍る。愛季は浮かび出る人影を見つけると、立ち上がって襖を開けた。百石は一礼をし、愛季は彼を招き入れる。
百石は言う。
「前に窺っていました嫁取りの話、いくつか持ってまいりました。」
本来なら、父の存命中に手配しておくべきことだった。早死にしてくれたおかげで、愛季自らが見定めなければならない。
さてと一枚目は。永井藤右衛門の娘、お初。永井というと、湊安東の家臣か。湊との仲を強化するのもいいが、すでに弟の茂季が抑えてはいるし……目新しさがない。
二枚目は土屋寛弥の娘、お高。土屋というと……蝦夷蠣崎の家臣。これ以上あちらと深めても、得るところあるか。
三枚目は……砂越入道也息軒の娘、お咲。
……ん、砂越。砂越というと…………。




