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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王に立ち向かった無謀な男の最後

作者: 松雨 亀丸

なあ、俺は生きているか?


仰向けで床に横たわりながらそう思った。

力尽きた俺に向って魔王がゆっくりと近づいて来る。

俺はただ魔王が近寄って来るのを眺めた。

既に体の機能はほとんど動いていない。



俺は過去に勇者になろうとして失敗した。

死ぬ気で頑張る実感がどのようなものなのか考えていたら、全ての物事に混乱して情緒が不安定になった。

逃げて、がむしゃらに訓練のようなものをして、また逃げて、発狂しているような状態に至った。

それでもある日、考えることに疲れて何もせずに幾日も過ごした。

そして俺は突然、ふと思いついた考えを実行に移した。


ベットから起き上がって床に足を付け、昔用意した勇者の装備を身につけた。

コップ一杯の水を飲み、それから鍵をして一人で暮らす家を出た。


五体満足な上、自由と平和な環境を与えられた俺は、世間一般常識で言う「幸福なやつ」だろう。

目的も、具体的で明確な理由も無いにもかかわらず、俺は魔王に相対した。

相対出来たことだけでも幸運だったといえた。

身体能力も、思考能力も飛びぬけて素晴らしいわけではないが俺は魔王に戦いを挑んだ。


…何て馬鹿で滑稽だろうか。ふざけるにも程がある。

計画なしの無能者…ああ、可笑しい。


死の間際には過去の事を思い出すというが、どうなのだろう。

俺はただ死ぬのが怖い。

あと暫くしたら俺という存在が、世界上から永遠にデリートされて失なわれてしまう。

使った物は残るだろうが、それは俺ではない。

記録が残ろうと、それはあくまで「記録」であり俺本人には決してなることが出来ない。


ああ、魔王が俺を見降ろしている。

残念な事に顔はもう見えない。


俺は…もう家族に会えないのだろう。

家族はいるが、強く思うほど恋しく思っているわけではないと思う。

憎んでいるわけでも、嫌っているわけでもない。

当たり前だが、かといって誰かと一緒に心中しようという考えもない。

死んだら皆一人で消える。

それが自然の理。

何故なら脳内のデータバンクに住む「意識」は、一人一人の持ち場に着いていて離れることは決してできないからだ。

それに、一人が果てしなく孤独であることも仕方がない。

家族に看取られながら死ぬ場合でも、結局は一人先に旅立たねばならぬことに孤独を感じるかもしれない。


意地を張って一人魔王の根城に忍び込んだ俺は、あっけなく倒された。

床の冷たさをじんわりと感じながら、俺は自由気ままに生きたな~とだけ思った。

見降ろしてくる魔王の瞳を見つめるように目を動かし、熱く零れ落ちる己の涙を感じながら俺は口の淵を歪めた。


魔王に打ち砕かれた俺の身体はもう動かない。


息が上手く吸えない…

体に力が入らない…

視界がはっきりしない…

とても寒い…

怖くて、可笑しくて、怖くて、怖くて、可笑しくて、怖い…

死にたくない、死にたくない、死にたくない、怖い怖い怖い…


…はあ~っ、なんだかなぁ…


俺は一度深く息を吸い込むと、ゆっくりと力を抜くように長く吐き出した。

ここまで読んでいただき、真にありがとうございました。

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