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神のいない世界

作者: 御子柴藍花

神のいない世界



一、プロローグ


世界に鐘の音が鳴り響く。

世界の果てを求めて、風に乗りながらどこまでもどこまでも。

それは人々に終わりと始まりを知らせる鐘。


その日神は死にました。

たった一人の従者である青年に看取られてその役目を終えました。

それを見届けた従者はしばらく何かに耐える姿を見せた後、勢いよく立ち上がりました。

その青い瞳に沢山の涙を溜めながら。

部屋を出て冷静さを失わないように塔の階段をカツカツと一歩一歩踏みしめながら登ります。

最上階に辿り着くとそこには大きな鐘が一つ。

従者はスラリとした腕を伸ばし、紐を掴んで何度も何度も鐘を突きます。

世界の終わりと始まりを告げるために。

鐘をつく従者の深い青色の瞳からは大粒の涙が一つツーっと溢れます。それから従者の涙が止まることはありませんでした。

四万三千二百十九年支えた神から与えられた最後の仕事。泣いてはいけないと思っていても止めることなど出来そうにありません。


四万三千二百十九回目の鐘を叩き終えた時。漸く従者の涙は止まりました。

その時には従者の中で十日の月日が過ぎていました。そう、従者の中では。

実際の世界では百年の時が流れていました。それは従者の中の時間が異なるのではなく、塔の中を流れる時は世間一般よりも随分と短いからです。

また、六代前の神により創り出された従者は歳を取ることも死ぬこともありません。

神使エノム。それが不老不死な彼の名前です。


“どんっ!”

そう音を立てて世界が揺れました。

きっとどこかで戦争でもしているのでしょう。

従者は塔から世界を眺めます。

百年鐘を鳴らしたということはその間の世界は神の不在が続いたということです。

各地では不作や戦争が起こり、貧困や飢えで苦しむ人々が世界中に溢れ返っていました。

荒れ狂う世界は新しい神を求めて居ました。

エノムは眼を閉じます。そうして百年の時が流れた間に生まれた新たな神の器を探しているのです。

エノムの肩が微かに揺れました。きっと神の器を見つけたのでしょう。

すっとエノムが開いた瞳にはもう迷いなどありません。

神使はもう過去の神の為に涙を流すことも、心を痛めることもしてはいけないのです。涙を流して良いのはただ一人、新たな神の為だけです。

エノムは大きく身を翻して塔の中へと消えて行きます。新たな神の器を探しに行く為に。


ニ、神の居ない世界


「はぁっ、はぁっ」

目深にローブを被った旅人は砂漠の中を黙々と歩いていた。感じるのは燦々と降り注がれる太陽の光と喉を掻き毟りたくなるような喉の渇きのみ。もう、自分が歩いているのか、はたまた立ち止まっているのかすらわからない。

水が無くなってもう何日経っただろう。気を紛らわすのにそう考え始めてもいつの間にか思考が停止する。

一向に変わらない景色に不安は募るばかりである。

ここは東の国凌りん

塔を出て神の器の気配を感じる東へと歩いてようやく辿り着いた国。しかし凌にも神の居る様子はない。さらに東に居るとは今回の神を見つけるのは骨が折れそうだ。

ここに来るまでに渡って来た国々の有様は悲惨だった。

不作による上に苦しんだ末に自殺に走る人々、どうにもならない世界に自分を見失い盗みや殺しを行う人々。それだけでなく少しでも長く生き残るため余分な人間を政府が殺している国さえあった。

神の居ない世界。それはどこも酷い有様だった。

前の神が死んだ時もそうだったが、しかし今回はそれを遥かに上回っているかのようにも思える。

これまでの神の死と今回の神の死。その相違点はエネミー(精霊)達の能力低下の時期と重なった事にある。

エノムは元オアシスであったであろう地面に手を付く。

・・・生命の音が聞こえない。

エネミー達は数万年に一度百年の眠りにつく。その時の世界は、神の力を最大限に発揮してでさえ暴れ回る。エネミー達が抑えていた自然の力も暴走し、火山は火を噴き、大地は揺れ、海は波の威力を増す。

その時期が神の死と重なってしまった。

誰もその暴走を抑える事は出来ない。

(早く、早く神の器を探し出さないと)

エノムは再び立ち上がった。

ただ、エノムの中には一つの確信があった。


もう少しで神の器に会える。


三、双子の少年


リトは屋台の影に隠れ息を潜めた。そろりと一番近くにあるリンゴに手を伸ばす。果物屋のおじさんは客に果物の質について話をしているようだ。客が店の奥の方の果物を指す。それを取るのにおっさんが振り返った一瞬に、リンゴの籠をぐっと掴み走り出す。

後はもう隠れ家に帰るだけだ。

「こら!ガキ!待ちやがれ!」

「うっそ、もうバレた!?」

その声を聞いた人々が俺を捕まえようと手を伸ばしてくる。それをひらりひらりと躱しながら、坂道を下る。が、途中で一人の男に腕を掴まれる。

「離せっ!」

そう言いながらリンゴを落とさないように両手で籠をしっかり抱え直した。

「おい!待てクソガキ共!!」

果物屋のおじさんの怒鳴り声が近づいてくる。

直後、俺の腕を掴んでいた男の手が振り払われた。

「ごめんね、お兄さん」

悪気無くそう言った白髪の少年は、先程果物屋のおじさんが相手していた客だ。

「遅ぇよ」

「ごめんごめん」

俺たちは顔を見合わせてニヤリと笑う。

背後から複数の声がするが振り返る事なく坂を駆け下りた。坂の一番下の路地裏へと入り込む、ここには誰も入ってこない。

此処には濃い闇が広がっており、人は皆、不気味だと言うからだ。実際、中に入って戻って来なくなった人も大勢いる。

それもそうだろう、ここには大きな番犬が居て、僕ら以外の人間をみんな食べてしまうのだから。

「ルーク!帰った!」

「おいで!ご飯だよ!」

そう声を掛けると濃い闇の中から一体の犬が大きな体をのそのそと揺らしながら現れた。

「ルークお座り!」

するとゆっくりと腰を屈めて尻を地につけた。

「偉いぞー!」

シアンがよくできましたとばかりにルークの頭を撫でる。

俺はそれを横目に腕の中いっぱいに抱えたリンゴを三つほど彼の前に置く。

すると彼はガツガツとそれを食べ始めた。

それを見た俺はリトに二つリンゴを差し出した。

「ほら、シアンも食え」

「ん、ありがと、リト」

お金も寝床も明日の食べ物も無い俺たちは世に言うストリートチルドレンだ。

それでも僕ら二人と一匹は今日も仲良く暮らしている。


四、嵐は突然に


“ばんっ!”

路地の外で銃声が響き渡った。

咄嗟に立ち上がり、シアンに手を差し出す。

「おい、奥に行くぞ」

「ルーク、ついておいで」

隣国の小兵隊でも攻めて来たのだろう。この世界じゃこんなのは日常だ。それでも慣れるなんてことはなく、その音が聞こえる度にシアンとルークと一緒に入り組んだ路地裏の中心部へと駆ける。

子供二人と犬一匹なんて奴らに見つかれば直ぐに殺されてしまう。

通りの方から若い女性の悲鳴が聞こえた気がするが、きっと気の所為だと信じ、路地裏の入り組んだ道を進んで行く。

「ルーク、人の気配はするか?」

すると彼はフーと鼻息をする。これは大丈夫のサインだ。

シアンと繋いだ手をギュッと握りしめる。

僕らは物心ついた時から、ここに居た。きっと五歳かそこらだったと思う。両親のことは何一つ覚えていない。シアンは何か覚えているようだが、何か話してくれる気配は無いし、別に聞きたいとも思わない。俺には二人さえいればいいのだから。

“ばんっばんっ”

誰も入って来ないはずの路地裏に銃声が響いた。こんなこと、今までなかったのに。

「リトッ!!」

「落ち着け。ルーク、抜け道を探すんだ」

ルークは首を縦に一つ振り、周囲の臭いを嗅ぎながら歩き始めた。俺たちもそれに続く。

ここはとても入り組んでいる。きっとまともに歩けるのは俺たちくらいだろう。そう信じてひたすらにルークの後を追う。

なのに背後から迫る音は離れるどころか一層近づいてくる。四人、いや五人か?捕まったら、奴隷にされるか、殺されるかの二択だ。

歩いていた筈の足はいつの間にかシアンの手を引きながら走っていた。

恐怖に怯えながら暗い路地を駆ける。

後少し、後少しで外だ、そう思って。

そしてようやく路地の出口が見えてきた。その先にあるのは路地に面した隣国の森。本来なら手続きなしに隣国へは行って行けないが、このご時世、国境なんてあって無いようなものだ。

俺たちを見上げてくるルークにうなづき路地の外へ出た。後は森の中に姿をくらますだけ。なのに…。

“ガクン”

シアンと繋いでいた手が突如引っ張られる。

「リトッ、逃げて!」

慌てて振り返るとそこには五人の黒尽くめの男たちがシアンの右手を捕まえていた。

「シアン!?」

ルークがグルルと低く唸る。

男たちは顔を見合わせて話し出す。

『…こんなガキが器か?』

『…司祭様から頂いた水晶はこのガキに反応したぞ』

『…どの道教会に連れ帰ればわかること』

何を言っているのかはよく分からないがどうやらシアンを連れ去ろうとしているようだ。

「シアンを離せっ」

「黙れ、お前に用はない」

男は懐から銃を取り出して俺に向ける。

サッと血の気が引いていく。

(俺は殺す気かよ!)

男が何の迷いも無く引き金を引く。

“ばんっ”

「っ!」

咄嗟に右にズレる左と肩に銃弾が掠った。

そこに手を当ててみると“ぬるり”とした感触がする。その手を肩から離して真っ赤な血が付いていた。

痛い、熱い。悲鳴をあげようと口が無意識に開く。

「リトッ!離せっ!離せよ!」

だが、俺が叫ぶよりも前にシアンが声をあげる。俺は悲鳴を飲み込み、シアンに余計な心配を掛けないようにする。

大丈夫だと言うようにシアンに向けて頷いてみせる。

ルークがリトを捕らえる男の脚に噛み付いた。

『…ぐ、退けろ犬!』

男が脚を振り回してルークを振り落とそうとする。

『退けるのはお前らだ』

何処からともなく、鈴のような声が辺りに響いた。瞬間、

“パキッ”

ガラスの割れるような音がする。

『なっ!?』

それと同時に、男たちが後方に弾け飛んだ。

「お前ら、そのガキを神の器と知った上で触れたな。無礼者め」

俺たちが先程逃げて来た路地から一人の男が現れた。

ボロボロのローブを目深に纏った青年。ローブから溢れた髪の色は透き通るような銀。

『誰だ、貴様!』

黒尽くめの男達は立ち上がり、声をあげる。

シアンは一番奥に控える男に捕らえられたままだ。一方ルークは銀髪の青年の元へと駆けていく。

「あぁ俺?俺はエノム。神の従者さ」

青年はルークの頭を撫でながら言う。

男のこめかみに青筋が立った。

『神の従者だと!?貴様のような奴が従者のわけがない!!聖書にはエノムは五つ程の少年と書かれている!!』

男は「へぇー」と言いながら男たちを品定めするように眺める。

「皆さんは教会の下っ端ってとこかな?」

一人納得のいった表情でエノムと名乗る青年はは打ちうなづいている。

「今世の中に出回っているのは偽物の聖書さ。まあ、行っても信じないんだろうけど。」

エノムは男たちに向かって一つ綺麗に腰を折った。そしてそのまま長い足を振り上げ、振り下ろそうとする。その突然の蹴り、若しくはそのなめらかな礼に見惚れた男たちは動くことができなかった。

“ガッ”

振り上げられた足は綺麗な弧を描きそのままシアンを捕らえていた男の腕に直撃した。

「ぐっ」

男の拘束が緩んだ隙にエノムがシアンを奪い返す。するとエノムは駆け出し、ルークもその後に続いた。

「おい、そっちのガキ!森に向かって死ぬ気で走れ!」

突如掛けられた声に驚くが、戸惑っている暇はない。俺もエノムの後を追って森へと踏み込んだ。


五、旅の始まり


「はあっ、はあっ、はあっ」

誰も手入れをして無いのであろう森の中はとても鬱蒼としていて、道と言える道は無かった。

草や木に引っかかり彼方此方に血が滲んでいたが、それでも追っ手を切り抜ける為に走ることは止められない。

エノムはシアンを抱えてはいるが、それでも俺と同じくらいの速さだ。

「ノア、教会の奴らは撒けたか?」

ノア?誰のことだろうかそう思っていると、ルークが一つ吠えた。

するとエノムが脚を止めた。無我夢中に走っていた俺は突然のことながら彼の背中にぶつかる。

「痛っ〜!」

「あー悪い」

エノムはシアンを地面に下ろした。

すると、シアンはすぐに俺の方に駆け寄ってくる。

「リト!肩が!止血しないと!」

エノムがチラリとこちらを見る。

「おい、ガキ。それほっといたら炎症起こすぞ。これでも塗っとけ」

彼は俺に向けて小さな瓶を放り投げた。それを慌てて掴むと、中身は薬のようだった。

「・・・ありがと」

人から何かを貰うのは初めてのような気がする。

「よし、ここらで一晩明かすか」

そう言われて空を見上げれば随分と空が赤く染まっている。

真っ暗な闇の中を行動するのは危険だし、何より疲れていてこれ以上は走りたくない。

エノムの提案に賛成し、今夜の寝床を探すことにした。



ここは森で偶々見つけた洞穴。いい感じに草木が入り口を覆ってくれていて外からは見えない。

洞穴の中で火焚いた火を中心に皆でそれを囲んでいる。

「さてエノムさん、でしたっけ?これはどういう状況か説明してもらえませんか?」

シアンは綺麗な笑顔でそう口を開いた。

エノムはしばらく考えた後、口を開いた。

「そうだな。担当直入に言うとシアン。お前は神の器なんだよ」

「は?」

俺はこの意味不明な言葉を言うエノムに対し素っ頓狂な声をあげてしまった。しかし、シアンの瞳は真剣な色を宿している。

「何言ってんだよお前、シアンもなんか言え「そうなんですか」・・・ってはあぁ!?何納得しちゃってんのお前!」

「静かに、あんまり大声出すと気付かれる」

俺は慌てて口を抑える。何が何やらもうさっぱりだ。

「順を追って説明してもらえますか?」

「そうだな、いきなり言われてもわかるような物じゃないしな」

男は目深に被っていたローブのフードを下した。

その下から現れたのは、綺麗な銀髪と空のように澄んだ青眼。白い肌にその二色は生えていた。

「俺の名はエノム。神の従者だ。神の器を探して旅をしている」

それに続いてシアンも答える。

「僕はシアンです。こっちの口の悪いのはリト。双子の弟です。で、そっちが愛犬のルーク。俺たちはここ10年近く、あの路地裏で生活していました。なのに、突然奴らが来ましてね。今はこの洞穴で息を潜める事態となっています。エノムさん、貴方が知っていることを包み隠さず、全てお話して頂いてもよろしいですよね。それと、まだ僕ら、貴方が神の従者というのも信用していないんで」

あっ、なんかシアンから苛立ったオーラが流れ出てる。今日は危険な目に遭いすぎてイライラしているのだろう。笑ってるのに目が笑ってない。この状態のシアンに近づいてはいけないのは、長年の経験から学んだ。

「そうだな、何処から話すか・・・。よし、じゃあ神の器についてな」

そう言ってエノムは語り出した。


百年前、神が死んだ。俺はその死を見届けて、世界に終わりと始まりを告げる為に、百年間鐘を鳴らし続けた。

つまり、それは百年間世界に神が世界に居なかったということでもある。

お前らも見てきただろ?異常な人数が戦争や飢えで死ぬを。あれは神がいなくなったことによりバランスを取れなくなった世界が暴れ出したからさ。そう考えるとよくもまあ、お前らもあんな路地で死なずに生きてたよな。

んでまあ、それで荒れていく世界を立て直すには新たな神が必要なんだよ。

でも、神なんて物は本当は存在しないんだ。

そう驚くなって。だから俺が従者として神の器となれる人間を見つけてそいつに神の力を与えるのさ。因みに神の器はどの時代も常に一人しかいない。


「それでこの時期の神の器として産まれたのは

お前、シアンだ」

神の死?神の器?従者?挙句シアンが神の器だって?

俺たちはずっと一緒に居たんだ。なのに、気付けなかった?

「そんなでたらめ信じねーぞ」

シアンが神だなんて嘘に決まっている。

「お前が信じようと信じなかろうとそれが事実だ」

「エノムさん、僕は何をすればいい?」

「シアン!?あんな言葉を間に受けるな!」

「僕、知ってたんだ。死んだ父さんと母さんに聞いたんだよ。僕は神の器となる人間だって」

「え?」

「エノムさん、僕は次に何をすればいいの?」

エノムがニヤリと笑った。

「それは話が早い。神の器は西にある塔に行き、そこの最上階にある鐘を五つ鳴らせばいい。それで正式にお前は神だ」

「そこにはリトも連れて行けますか?」

「ダメだ」

「なら行けません」

エノムのこめかみに青筋が立った。

「こっちはガキの我儘に付き合ってる暇はねぇ。今だって世界の彼方此方で人が死んでる。お前の居た国は神の器が居たからまともなだけなんだよ」

「リトも一緒に連れて行ってください」

「だから!」

“スクッ”と今まで床でじっとしていたルークが立ち上がり、俺の側へ行て、エノムを睨みつけた。リトも一緒に連れて行けとでも言うかのように。

「ノアてめぇ。あーわかったよ!連れてくよ!でも塔の下までだ。いいな」

「ありがとうございます」

その時俺は思った。シアンは絶対塔の下でお別れだなんて考えていない。俺を意地でも塔の中へ入れる気だ。

「ところでエノム、お前なんでルークをノアって呼んでんだ?」

「あぁ、そいつの本名さ。ノアは俺の送り込んだ犬だからな。神の器にもしものことがあったら困ると思って。どうだ?役に立ったか?」

一気に脱力する。

「ルーク、お前、ノアって言うんだね」

シアンはルークの頭を撫でながらそう言った。シアン、適応力高すぎだろ。

「で、さっきの教会の奴らは何なんだよ」

「あれは、多分神の器の力を狙ってたんだろうな。人間で神の器の存在を知っているのは教会のお偉いさんだけだ。大方、神の力を手に入れて世界を思いのままに〜とかなんとか考えてたんだろうよ」

エノムは一つ溜息を吐き「そんなことできるわけねぇのに」と零した。

「おいガキ共そろそろ寝るぞ。明日は早いからな」


翌朝、俺たちは洞穴を出た。相変わらず数メートル先さえまともに見えないほど、生い茂った木々に歩みをはばまれる。

「お前らちゃんと付いてきてるか?」

「なんとか」

まったく、終わりの見えない森で気が滅入りそうだ。

よく考えるとあの路地の外でこんなに長期間行動したのは初めてかもしれない。食べ物を盗む時以外は、ずっとあそこに居たから、なんだか新鮮だ。

「このまま行けばもうすぐ森を抜けられる。はぐれるなよ」

「わかってるって・・・おっと!」

少し気を抜いたら直ぐに足元をすくわれる。

「リト、大丈夫?」

そう言いながらシアンはクスクスと笑う。

「昨日から思ってたんだが、シアン、お前神の力薄くねぇか?」

シアンは首を傾げる。

「僕にはまず、神の力が自分に備わっているのかさえわからないよ」

「だよなぁ・・・っ!?おい!!」

突如、視界に真っ黒な布切れが映った。

「止まれ!」

エノムが俺たちに静止の声を掛ける。


“ざんっ!”

ふと、周囲を見渡すといつの間にかリト達は四方を黒尽くめの男に囲まれていた。

(いつの間に!?)

そうだ、シアン!シアンは!?

「リトッ!」

俺の隣に居たはずのシアンがいない。再び奴らの手の中に捕らえられている。

「おい、そのガキを離せ!そいつは神の器だぞ!」

エノムが手を前に伸ばす。

“パキッ”

昨日同様、ガラスの割れるような音と共に黒尽くめの男達が後方へと飛ばされた。

『ぐっ、昨日の従者か。真の聖書には神の器の血さえあればいいと記されている。せめてガキの腕の一本でも!!』

(・・・なんだって!?シアンの腕を斬り取るつもりか!?)

男は刃物を取り出してシアンに斬りかかる。

「シアン!やめろ!シアンに手を出すなぁぁぁーーーー!!!!」

リトの悲痛な叫びが辺り一帯へと響く。

“どくんっ”

リトの心臓大きく脈を打った。

するとどういうことか、リトの体から黄金色の光が湧き出てくる。そのきらめきはどんどんと増していく。

『これは、神の器の光!?何故だ!神になるのはこのガキのはずじゃ!!』

「黙れ」そう言いながらリトが腕を縦に薙ぎ払う。その動作に合わせて男達が地に平伏した。

『ぐっぐぐ』

騒ぎに紛れて、いつの間にか逃げ出した、シアンがエノムの側へと駆けていく。

「お兄さん達も運が悪かったね。俺たちは双子。二つで一つさ」

エノムは眉根を寄せてシアンに問いかける。

「おい、それはどういうことだ」

「さっき、エノムは言ったよね、僕の神の力が薄いって。それは僕らが二つで一つの神の器だからさ。つまり、リトと僕が揃うことでようやく神の器は完成する」

「でも神になる儀式をしていないのに神の力を使えるなんて異例だ!」

「異例なんて世の中にはいっぱいあるでしょ。リトは産まれた時から既に神の力を使えたんだ。だけど大きくなるに比例してその力も強くなっていった。遂に五歳の時かな、僕らの両親はその命と引き換えにリトの力を封じたんだよ」

「ただの人間が神の奇跡の力を封印出来るなんて・・・」

ありえない事態にエノムは困惑気味だ。

そう話をしている間にリトの怒りも収まったようで、教会の使いを苦しめるのを止め、森へと逃した。あれだけ痛い目を見ればもう襲ってくることも無いだろう。

「神様が死んで百年経ったって言ったよね。その百年の間に神の器は少なくとも一度は世代交代をしているんだよ。そして母さんは元神の器だった。そして父さんはエネミー(精霊)のクウォーター。その二人の命と引き換えなら封印出来ると思わない?」

エノムは新たな事実に目を見開く。

その様子を見ながら屈託のない笑顔でシアンは言う。

「だからさ、リトも塔の中に連れていってよ」

「〜〜っ!しゃあねぇな!」

「ありがと!エノム!」


こうして三人の塔を目指した旅は始まったのだ。

短期決戦だったので内容薄い&間違え多数ありです(泣)


読んでいただきありがとうございました!

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