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第一話 モテない+冴えない+目つき悪い=??

小鳥たちの優雅な演奏会が開催される朝の6時半、俺は目を覚ました。


 ベッドの上から降り、いつも通り洗面台に行って顔を洗った。鏡を見るとたいそう目つきの悪い男がいる……

 何だ俺か。このやり取りは、もはや俺の朝の習慣になりつつあった。



 リビングに行くと既に母親が朝食の準備をしてくれていた。

 今日のメニューは、ハムエッグにソーセージ サラダにコーヒーだ。俺は慣れた手つきで口の中に食材を運んでいく。ちょっとソーセージが塩辛いな……

 そして慣れないブラックコーヒーを飲み干して制服に着替えて再び洗面台へ行き、歯を磨いたら学校に向かう。


 これが俺、牧野遼太郎まきのりょうたろう17歳の一日の始まりである。

今日も爽やかな朝の始まりだ……


---------------------------------------------------------------



ギャンギャン!!ギャンギャン!



「ちょっと! どうしたのココアちゃん……ひいっ!  」



 おばさんの瞳には恐怖の色が伺える。慣れたもんだ。初対面の人はだいたいこういう反応をするからな。

 俺はどうやら、一般の人に比べて目つきが悪いらしい。中学の頃は 『眼力だけで近所の猛犬を失神させた男』や『ライオンが泣きながら命乞いをする男』等と呼ばれていたらしい。


 こんな俺にも男の友達はいるのだが、何故か 女の子と仲良くなることができない。というか、話しかけると基本的に涙目をされてしまう。

 まだ目つきが悪くても 勉強が出来たり スポーツができたり イケメンだったりすれば話が違ってくるのだろうが、残念ながら俺にはコレといった才能もない冴えない高校生なのである。


 ここで一つ問題である。

問1.モテない+冴えない+目つきが悪い=?

 答えは 『青春なんてものは存在しないハードモード』である。つまり、俺が青春を謳歌できる確率はほぼ0%なのである。

 こんな俺でも正直女の子と一緒に遊んだり

 バレンタインデーには「ぎ、義理だからね!」といってチョコをもらったり

 誕生日やクリスマスを可愛い彼女とロマンチックに過ごしたりしてみたいと思っている。


 だが、現実は非情である。

 チョコをもらうどころか、女子とちょこっと会話することすらできないし、遊びに誘った女の子は皆、前日か当日になると親戚が倒れたのでお見舞いに行かなくてはいけなくなったと言って予定はキャンセルされ、クリスマスは一人でサンタさんが来るのを待つだけである。

 そんな俺だが、一時期 女子に好かれようと努力したことがあった。

 荷物を運ぶのを手伝おうとしたり(声を掛けると『 命だけは勘弁してください』と言われた)

 最近の女子が好きな壁ドンも試してみたりした。(その子は失神してしまったが)

 それ以来、俺は女子に優しくすることを諦めてしまった。


 そんなことを考えていると前からメガネをかけた長髪の女性がヒールを鳴らしながら歩いてきた。ハーフだろうか、非常に整った顔をしている。(綺麗だな)なんて思いながら見つめていると、目が合ってしまった。

 ああ、またさっきみたいに怖がられるのか……と思っていたがその予想は外れることとなる。

 女性はニヤリと笑みを浮かべると、俺に近づき話しかけてきた。



「なるほどなるほど 冴えない顔に 恐ろしい目つき これは確かに女子は怖がるわね」

「……は? 」


 思わず口から漏れてしまった。初対面にもかかわらず なんとも失礼な女だ。



「アナタ、牧野遼太郎くんね?女の子にモテたいとか思ってるみたいだけど、正直今のままじゃ確率は0%よ? 」


 女はメガネをクイッと上げながら少し馬鹿にしたように言った。


「あの・・・・・・いきなり何なんですか?? というかなんで俺の名前を知ってるんです? 」

「あら、私の正体が気になるの? じゃあ教えてあげる。私はね、恋のキューピッドのキューちゃんよ。よろしくね」


 この女の人はまずい。俺の第六感がそう叫んだ。恋のキューピッド?キューちゃん?なんとも壊滅的なネーミングセンスである。


「あら、壊滅的とは随分失礼ね。これでも一生懸命悩んだのよ?? 」


……どうして俺の考えていることがわかったのだ??


「どうして俺の考えていることがわかったのかですって? それは私が恋のキューピッドだからよ」

「まさか……本当にキューピッド!?  」


いや待て俺、何を口走ってるんだ。


「だからさっきからそう言ってるじゃないの。まだ信じられないの? 

ならひとつ教えてあげるわ。『壁ドン』っていうものはね、まずやる側の人間がイケメンじゃないと成立しないし、ある程度の好意を抱かれていないとまったくもって無意味なの。

特にアナタのように目つきが大変悪い上に冴えない顔で、これといった才能もあるわけではない人にされたって、キュンともすんとも言わないどころか命の危険すら感じるわ」


 この女、初対面の癖してどうしてこんなにも失礼な事を言えるんだ……?俺の気にしていることを的確に突いてくる。相手ボクサーにボディを延々と殴られている気分とはきっとこんな感じなのだろう。

 だが、俺は少しイラつきを感じながらも この得体の知れない女に少し興味が湧いていた。俺が壁ドンをしたという情報を初対面の人間が知っているのはどう考えてもおかしい。


「確かに目つきは悪いが、どうして俺が壁ドンをした事を知っているんだ? 誰かに聞いたのか??  」


 俺は彼女から「実は君の同級生と知り合いで、その子から聞いたの」や「実は君のお母さんと知り合いで、お母さんから聞いたの」等のありふれた回答が返ってくることを期待していた。

……が、現実はやはり非情である。


「だ〜か〜ら〜何度言えば信じてくれるわけ?? 私は恋のキューピッドだって言ってるでしょ!? 君の同級生に聞いた訳でも君のお母さんに聞いた訳でも無いの!! アナタもう少し人のことを信じたらどうなの??  」


 彼女はふて腐れたようにそう言う。

 いや、まず恋のキューピッドを信じろって方が無理がある気がするんだが。


「じゃあ分かったわよ。アナタしか知らない秘密を言ってあげるから耳を貸しなさい。」


俺は恐る恐る彼女に近づき、そして耳を貸した。そして耳を貸した事をすぐ後悔した。


「んなっ……! な、ななな何でその事を!? 」 


 俺は彼女から飛び退き驚愕した様子で尋ねた。馬鹿な、この事は誰にも話していないはずなのに……

 冷や汗が止まらず心臓の鼓動はリズムを崩し始める。……本当に、この人はキューピットなのかもしれない。

 最初は頭のおかしい人だと思っていた。だが、俺しか知らない秘密を言われた以上、彼女を否定する事が出来なくなってしまったのだ。


「やっと信じてくれたかな? じゃあ、私の話を聞いてもらうけどいい? まあ拒否権は無いけど! 」


彼女はそう言うと再びメガネをクイッとあげた。この動作が好きらしい。


「私達キューピッドは自分の担当になった人間の恋愛を応援するのが仕事なのだけれど担当した人間が恋愛を成就させる事で任期を終えるの。そしてまた新しい人間の恋愛を担当するのよ。

今回私の担当になったのがアナタだったってわけ」


 俺は未だに彼女がキューピッドだと信じ切れないものの、ここはどうしようもないので話を合わせる事にした。


「はぁ……キューピッドってことは魔法か何か使って、男女をくっつけるんですか?」 

「ちなみに思ってる事全部聞こえてるからね?少しは気を付けなさい?」


もはやプライバシーもクソもあったもんではない。


「あのねぇ……アナタ自分の恋愛を他人がどうにかしてくれると思ってる訳? 恋愛舐めてんじゃ無いわよ! 私達はあくまで担当者のサポートをするだけ。頑張るか頑張らないかはアナタ次第よ。

でもアナタがしっかりしてくれないと私の任期が終わらないから、とことん恋愛してもらうわ! いいわね!?  」


 何故か俺は彼女に怒られた。コレが最近話題のキレやすい若者という奴なのか。 いや、多分違う。


「ただねぇ……アナタのFLRを調べたけど とてつもない結果だったわ。」

「FLR??なんですかそれ」

「《 Female Likability Rating 》 女性があなたに抱く好感度のことよ。

こんなこと滅多にないんだけど、あなたはその値がほぼ0%だったわ。……アナタ女性に今まで何かした? 」

「いや……悪いことなんて何もしてません……! 」


俺は今までの行為を思い出してみた。


―――荷物運びを手伝おうとしたこと―――

―――その結果、命乞いをされたこと―――


―――喜ばせようと思って壁ドンをしたこと―――

―――その結果、失神させたこと―――


―――髪を切った女の子を褒めたこと―――

―――その結果、号泣されたこと―――


「……」

「……」


二人の間に、気まずい沈黙が続いた。


「まあ、いい事をしようとした結果 裏目に出てしまったのね……でも、気にしなくていいわ。私が来たからにはもう大丈夫! アナタが女の子を落とせるように手伝ってあげるわ」

「ホントですか……!?  」

「ええ、楽勝間違いなしよ。もし、やりたいのなら私と契約をすることが条件よ。方法は簡単、私のメガネを触れば契約が完了して晴れて私がパートナーとなるわ。このまま目つきが悪いと女子から避けられる道を選ぶか、困難ではあるけど自分を変えられるかもしれない道を選ぶか、決めるのはアナタよ」


 正直、キューピッドなんて信じられないし、変なことに巻き込まれるのは間違いない。

 だが、若干の興味とこんな自分にもチャンスがあるかもしれないという僅かな期待があった。


「やります。俺、女の子にモテまくりたいです!! 」


 俺は彼女の言う通り、メガネに触れる。一瞬、電流の様な物が全身を駆け巡った気がした。


「よく言ったわ。牧野遼太郎。これからはパートナーとしてよろしくね」


 正直、女子とはいい思い出はない。でも、今目の前に青春を謳歌出来るかもしれないチャンスが転がってきたんだ!俺はやってみせる。どんな困難な道でも進んでやる……!


 女の子にモテまくる為に!



「そういえば、FLMの目標って何%なんですか?」

「そんなの100%に決まってるじゃない」

「えっ」

「あ、言い忘れてたけど100%以外は告白しても失敗するから」



こうして俺の青春をかけた戦いが 今 幕を切って落とした。


――――牧野遼太郎 ただいまの  FLR ほぼ0%――――

前回の作品とは少し変わってコメディ風な作品を書いてみました!!

頑張っていきたいと思うので ぜひ見ていってください(´∀`)

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