表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
木元円の場合
95/308

-15-

翌日も明音は研修の最終日で事務所にはいなかった。

藤代も会議が続いており、一日ほとんど事務所でみかけなかった。

帰ろうとした定時近くに新しいプロジェクトのキックオフミーティングの案内が届き、円もざっと目を通す。

年間計画にない、女性をターゲットにした新プロジェクトが突如発足することとなり、藤代がプロジェクトリーダーで円も明音もそのメンバーに入っていた。

2つのチームに分かれての仕事となるが、全体のキックオフということで設計と図面作成にグループ会社のチームも招集され、かなりな人数が参加することになっていた。

リストに何人か面識のある人の名前をみつけ、円は翌週月曜のキックオフが少し楽しみになった。

定時を回ったところで仕事を終え、円が荷物を持ってエレベーターホールに行くと、会議を終えた藤代たちが通りがかった。

「お、木元さん、お疲れ。」

藤代のセリフに円が少し強張った笑顔で会釈する。

「あ、会議お疲れ様でした。」

「お、円、もう帰んの? お疲れ!」

少し遅れて筒井も資料を抱えて戻ってくる。

「飲みに行くんだろ。」

藤代は筒井が来たのを見て足を止めかけてそのまま過ぎようとし、筒井は笑って足を緩めた。

円は筒井を見て笑った。

「金曜だもんね、泥酔してくるよ。」

「バカか、お前!」

そこでエレベーターが来た。

「しんどくなったら連絡してくれば!」

「あはは、大丈夫! お疲れ、よい週末を!」

筒井が右手を上げて合図してくれた。

エレベータ―を降りたところでもう一度化粧室に入り、化粧を確認した。

・・・落ち着いて話をする!

青ざめた自分の顔に苦笑いしながら、円は待ち合わせの居酒屋へ急いだ。


「あ、来た。 お疲れ!」

店に着くと明音はもう座っていた。

「ごめん、遅くなって。」

「いいよ、私もさっき来た。」

二人は生ビールを頼むとつまみもいくつか頼んでとりあえず乾杯した。

「どうだった、研修?」

「うーん、これまでのと似てないこともないけど、使いにくそう。 誰なの、あれ導入したの?」

届いたジョッキをぶつけた後、明音がいきなり愚痴りだす。

「改悪」だとぼやいていた藤代を思い出して円が吹きだすと、明音がまたジョッキを手に取った。

「入替のためにITは残業続きだって。 入替作業も土日だし大変よね。」

しばらくは二人で研修や来週のキックオフのことを話した。

二杯目のジョッキが届いた時、明音が円に笑った。

「ね、藤代さん忙しくしてたみたい? 飲みましょう、の返事がのらりくらりなんだよね。」

・・・きた。

円は藤代の話題にびくっとしながらビールを飲むと、ジョッキを置いて目を伏せた。

大きく深呼吸をする。

「そのことで・・・私、明音に話があって。」

円は覚悟を決めて俯いたままそう言うと、明音の動きがピタッと止まった。

「え、なに?」

急に不安そうな声が聞こえて円は息が苦しくなる。

小さく深呼吸すると少しだけ目線を上げて机の上で軽く握っている明音の手を見つめた。

「この間から言わなきゃ、って思ってて・・・遅くなってごめん・・・でも、あの・・・私も藤代さんのこと、好きで・・・。」

「え?」

明音の手がぴくっと動いた。

それ以上視線を上げることができず、それでも一度開いた口から言葉がどんどん出てきた。

「あの・・・最初は何とも思わなかったけど、飲み会でコウちゃんの話聞いてもらって・・・藤代さんもバツイチで、なんかヘンに意気投合して・・・。 酔って送ってもらってお詫びに晩御飯つきあえ、って言われてご飯食べに行ったり・・・した・・・。」

かなり端折ったけれど、円はそう言うと明音を見た。

明音は真っ青な顔で固まっている。

円はもう一度言った。

「この間から隠していてごめん・・・応援してるような言い方して・・・ごめん・・・。」

明音がやっと動いてビールを一口飲んだ。

「・・・藤代さんから好きとか言われたの?」

青い顔のまま明音が言うのであわてて否定する。

「ううん・・・それはない。」

「そのお詫びの食事以外でも、私が藤代さんのこと好き、って言ってから・・・二人で出かけたことあるの?」

明音は視線を円の心臓あたりに視線を定め、鼻で笑いながら聞いてきた。

「うん・・・。」

円の返事に明音が息を飲んだのがわかった。

「・・・円のこと友達と思ってたのに、こんなの、ヒドイ。 面白がってたの、私が熱くなって? それとも上から見てた? 私と藤代さんほぼできてんのにやってるなあ、って?」

「そんなことない! ・・・ごめんなさい、すぐに言えばよかった。 でも・・・言えなくて・・・。」

言葉につまる円と反対に、明音はすぐに返してきた。

「面白かった?」

「違う、明音!」

顔をあげたら明音の目が潤んでいた。

「・・・ごめん、帰るわ。 お代置いてく。」

明音が財布から2000円抜き出すとテーブルに投げつけて立ち上がる。

そして、一度も振り向かないで店を出て行った。

ジョッキにはまだまだビールが残っている。

円はとりあえず心臓を落ち着かせようとしばらく胸を押さえてから、ビールを一口飲んだ。

・・・言ってしまった・・・。

後悔はしていないが、もっとうまく言えなかったのかと反省する。

もっと柔らかくできなかったか、と思いながら時間をみたらまだ7時を少し過ぎたところだった。

・・・帰ろう。

円は料理も残して伝票を握りしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ