-13-
亮一と陽菜に悩みを相談した週末、仕事で遅くなったのと、出版社で校閲の仕事をする母親の帰りが遅くなると連絡があったことからソレイユで軽く食事をすることにした。
好物のミートソースのパスタと赤ワインを頼んで窓際の席で食べていたら、また藤代から電話があった。
少し雑談をした後、藤代が小声で言った。
「もう一度前と同じこと聞くけど、この間の四人での飲み会は単なる飲み会だったのか、他意があったのかどっち?」
円は一気に胸が苦しくなる。
「なんでそんなこと聞くの?」
円のセリフに藤代が電話の向こうで苦笑いする。
「伊藤さんが・・・オレともっと仲良くなりたいからまた飲み会しましょう、って毎日社内メール来るんだけど。 そういう意味での飲み会だったか。」
積極的な明音のアプローチに円は思わず息を飲む。
・・・昔から明音は行動が早かった。
「そこは明音に関わることだから言えません。」
・・・私、卑怯だ。
円は自分で思う。
こんな言い方したら、明音が藤代さんのこと好きだってバラしてるようなもんなのに。
藤代は一瞬黙ってから言った。
「木元はそれに協力体制なわけ?」
円の一番痛いところを突かれて思わず声が尖った。
「何が言いたいんですか? ・・・色々あるから少し待って、って言ってるじゃない・・・。 今、そういうこと言えません・・・。」
藤代が大きなため息をついた。
「待つって・・・お前、待たされる身になったことあんの? 軽く言うな。」
「軽くなんて!」
声を荒げたら近くの女性がちらりとこちらを見たので声を落とす。
・・・もっと声聞いてたいけど・・・電話切ろう・・・。
円が電話を切ろうとすると巧みに藤代が引き伸ばす。
中途半端な関係が続いているな、と自覚しながらやっと藤代の電話を切ってさっきからにぎやかだったカウンターを見たら、章穂、隆臣、奏、陽一郎が騒いでいた。
よく聴くと奥から恭子の声もする。
・・・あんたたちの声聴いてるとホッとするけど、今日は会いたくなかったような気もするなあ・・・。
円はワインを飲みながら窓の外を見た。
聞くともなくカウンターの会話を聞いていると、隆臣が鍵を忘れたため章穂は隆臣を待っていたらしい。
円の会社のある駅前に隆臣の職場であるパティスリーがあるため、よく店に寄ってはケーキや焼き菓子を買っていた。
隆臣は基本的に表に出なかったが、店員がたまに呼びに行ってくれることもあり頑張っている隆臣の姿はよくみていた。
隆臣が恭子に心を寄せていることも気づいていたが、当の恭子は圭輔への好意を垂れ流しており、なんとなく自分たちを重ねそうになり頭を振る。
カウンターから聡美の声が聞こえたので円は混んできた店内を見渡すと荷物をまとめてカウンターへ向かった。
声をかけたら奏に至ってはスツールから落ちそうになるくらい驚いており、その姿に吹きだしそうになる。
聡美がニコッと笑って円の横に飛んできた。
・・・あんたも圭輔が好きなんだよね・・・?
自分の感情をあまり出さない一番下の聡美のことが、今夜はとても愛しく感じた。
結局、圭輔と恭子と聡美の席に合流して一緒に飲む。
悩みがあるのか、と聞いてきた圭輔に答える形で少し弱音を吐いたけれど、仲間たちは流すでもなく茶化すわけでもなく聞いてくれて重いものが少し落ちた気がした。
「あ、きた、明太子のピザ。 マーちゃん、これ美味しいよ! 圭輔が大好きだからここきたらいっつも食べてる!」
酔った恭子がピザを進めてくれるので手をのばす。
・・・恭子が圭輔のことを「ケイくん」って呼んでたくせに呼び捨てにし始めたのはいつだったっけ・・・。
二人はつき合い始めたかと思ったんだったな。
そんなことを想いながらピザを一切れとると続いて恭子が取る。
聡美は一応控えているのか、二人の様子をみていた。
圭輔が手を伸ばしてピザを取ると、向かいの聡美の口元に持っていく。
「お前が遠慮してるから、ちゃんと一番大きいの取ってやったからな。 ほら、口開けろ。」
突然のことで聡美が慌てて手を振る。
「や、自分で食べれる・・・わっ・・・。 あつっ・・・。」
口があいた瞬間圭輔が強引にピザをねじ込み、聡美が騒ぎながらかじるとチーズが伸びた。
圭輔が満足そうにそれを見ると残りを自分が食べる。
「ケイ、大きいの取ってやっても残り自分が食べたら意味ないじゃない。」
「あ、やべ。」
四人はドッと笑った。
・・・なんか、久しぶりにのんびり仲間と飲んでる。
圭輔の作ったサイドカーは遜色なく美味しくて、円は一気に酔いが回るのを覚えた。
お開きの頃には疲れも手伝って少し酔ってしまい、泊まりに来るという陽一郎に抱えられてタクシーに乗った。
隆臣も一緒に乗り、もう一台に章穂、圭輔、恭子、聡美が乗り込んだ。
奏が軽く頭を叩く。
「最近変な飲み方ばっかしてんなよ。」
「ごめん・・・。 ヨウ、泊まってく?」
体が一番大きいので助手席に座った陽一郎が振り返った。
「うん、泊めてもらっていい?」
「いいよ。」
ため息をつくと隆臣が笑った。
「なんか悩んでんの、マーちゃん? 今度ケーキ差し入れるから甘いの食べて元気だしてよ。」
隆臣の無邪気な声に円が声を上げて笑った。
「待ってるよ。 チーズケーキがいい。」
「了解!」
「厚かましいな・・・。」
奏がそう言ったが声は優しく響いた。




