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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
木元円の場合
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-11-

「木元? また酔ってんのか?」

一瞬黙った円の沈黙を酔いに因るものと思った藤代が不安そうな声を出すので円は泣きそうになった。

「酔ってない・・・。 ねえ、藤代さん。 明音や白井くんが一緒に飲みたいって。 飲み会設定するから予定あわせてね。」

「え? 伊藤さんと白井さん? ああ、いいよ。 木元も来るなら行くよ。 今週は厳しいけど来週後半なら。」

いちいちそんなセリフが嬉しいのに、円は静かに言う。

「そしたらまた連絡します。 ・・・おやすみなさい。」

「うん・・・おやすみ。」

最後の他人行儀な声を不審に思ったのか、藤代のトーンは少し低かったけれど、円は自分から電話を切った。


翌日の夕方、明音に飲み会OKを伝えると顔を真っ赤にして喜んだ。

「予定あわせてくれるみたい。 いつにする?」

円のセリフに明音が飛びつく。

「来週水曜!」

「え、中途半端じゃない?」

急な話に思わずそう言うと明音が笑う。

「来週後半ならいいんでしょ? 木曜英会話だし、水曜がいい。ワインのお店にしようよ。 円が探す?」

「明音探しなよ。 連絡も明音から入れたら?」

円のセリフに明音が大げさに照れた。

「いや、いいよ。 急に私からって変でしょ。 白井くんには話つけといたからね。」

・・・好きな人との飲み会だもん、一日も早く設定したいよね。

円は後ろめたい気持ちで明音の予約した店と時間を藤代に伝えると、短い返信がきた。

「来週水曜19時開始、了解。 今週予定よめないけど一度は食事つきあって。」

円はまた胸が痛んだ。


明音からの告白のあと、極力合わないようにしていたのにエレベーターホールでつかまって、それでもやはり嬉しいのでビストロで食事をした。

後ろめたいのにうれしいと思う自分がとても嫌で、帰りに亮一のバーに寄り変なお酒の飲み方をしたら陽菜に心配されたけれど、藤代のことは言わなかった。

あっという間に来た飲み会で、店はイタリアンバル、というカテゴリーで、ワインも豊富だった。

「伊藤さんのチョイス? いい店知ってるね!」

屈託なく笑う藤代に明音が頬を染めたのが店内の暗い照明の中でもわかった。

円の隣に座ろうとした藤代を明音の隣に座らせ、円は極力藤代と目を合わせないようにして悪いと思いつつ白井にからむ。

「木元さん、これまでワイン飲んでるイメージないのに、急に色々知りたがってどうしたの? あ、この間藤代さんとずっと飲んでた時にはまっちゃった?」

「別にずっと飲んでないし!」

白井の悪気ないセリフに思わず過剰に反応して自分でもハッとする。

ますます藤代の顔を見れなくなって、明音は円があまり藤代としゃべらないことをいい方に解釈して喜んで話しかけていた。

飲んだか飲まないかわからないまま一次会が終わり、もう少し飲みなおそうという流れになる。

円は一緒に店の前まで行くと、スマホを取り出してびっくりした顔をした。

「あ、ちょっと家族が体調悪いみたいで、私ここで抜けます。 楽しんできてね、明日に響かないように!」

円のセリフに藤代の顔色が変わる。

「え、弟さん? どうした、大丈夫?」

ウソをつくのが苦手な円は俯いて首を横に振る。

「大丈夫、風邪薬買って帰るだけです。 お疲れさまでした。 明音、明日研修がんばってね!」

「奏くん、大丈夫? お大事にね!」

円は急いで帰宅した。

その夜は藤代からの電話には出なかった。

翌日、明音は研修で会えなかったので円はホッとする。

藤代から3度着信があったが放置しておいたので後ろめたかったが、会議の続く藤代と会わずに過ごしたのでこっそり帰ろうとしてエレベーターホールで捕まった。

「木元さん、ちょっと。」

人目があるので邪険にもできず、そのまま自販機のコーナーへ歩いていく藤代の後ろを円は黙ってついていく。

誰もいないベンダーの前で藤代が苦笑いした。

「オレ、なんかした?」

円はまた泣きそうになりながら首を傾げる。

「別に、なにも。」

藤代がため息をついた。

「・・・弟さん、大丈夫?」

藤代の質問に円はまた俯いて、ごまかそうかと思ったけれど思わず言葉が出た。

「藤代さん、私、どうしても片付けないといけないことができました。 それが落ち着くまで食事とかなしでいいですか。」

突然の小声の宣言に藤代が息を飲む。

「どういう意味?」

会社だというのにしつこく聞いてくる藤代に円は困惑した。

「片付くまで藤代さんに会う資格ないんです、私・・・。 ちゃんと決着したら、あらためて藤代さんに言いたいことあるので・・・。」

そこまで言ったところで笑い声が近づいてきた。

「あ、木元・・・さん!」

藤代に会釈すると円はベンダーと藤代に背を向けて歩き出した。

そのまま亮一の店に行くと、藤代から電話がかかってきた。

「まだ外?」

藤代の声に応える。

「幼なじみがバーやってるので・・・。」

藤代はそうか、と答えると円に言った。

「木元、もう少し詳しく聞きたい。 しばらく会わないって、オレは何かしでかしたかな?」

不安そうな声に円が返す。

「何もしてない。 私の問題です。」

亮一がチラチラこちらを見るのがわかったが小声で続けた。

「解決するまで会えない・・・です。」

「・・・嫌われてないと思ってていいか。 少しは自惚れたままでも?」

藤代のセリフが愛しくて泣きそうになる。

「解決したら電話していいですか。」

「・・・わかった。」

藤代が数秒して電話を切った。

円はため息をついて赤ワインを一気にあおった。

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