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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
木元円の場合
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-4-

円のお代わりを待つ間、藤代が苦笑いして円に話しかけてきた。

「ごめん、木元さん。 なんか、余計な話題振った・・・かな。」

感情をストレートに出す円は思わずさっきはカッときたものの、大人げなかったと瞬時に反省していたのでミックスナッツを手にとってこちらも苦笑いした。

「いえ・・・私もすみません・・・。 あまりにピンポイントで地雷踏んでこられたので思わずムッとしちゃいました。」

どこまでも正直な円のセリフに藤代はまた慌てた。

「わ、ほんとごめん・・。」

・・・今日の主役を謝らせてばかりで、何やってんの、私。

さすがに冷静になった円がお代わりが運ばれてきたのを機に自分からグラスを軽くぶつけた。

「でも今日は藤代さんのおかげで美味しいワイン覚えました。 二次会こっち来てよかった!」

「なんか微妙な褒められ方!」

二人でまた飲み始めた。

最初はワインの話だったのに、グラスが残り少なくなるころにはなぜか地雷とまで言った恋愛の話になっていた。

円は一次会から数えるとかなり盃を重ねているので少し酔っぱらっている。

あまり顔色の変わらない藤代がため息交じりに言った。

「木元さん、『一生こいつと、って思って結婚したくせになんで離婚したのか』って聞いたよな?」

先ほどの話を蒸し返されて円はまた苦笑いする。

「あ、さっきのなし! うちも親が離婚してて、私は父親大好きだったから10年以上経つのにまだ自分の中で折り合いついてなくて、つい・・・やつあたり、ごめんなさい。」

藤代は痛い顔をした。

「子供には本当に悪いと思ってる・・・木元さんのお父さんも苦渋の決断だったと思う・・・なんて偉そうに言えないけどね。 でも、一生添い遂げようと思うほど強く好きだった人だからこれ以上お互いキライになりたくない、っていう感情も本当に存在したんだよ。」

円はじっと藤代を見た。

「意味わかんない・・・。」

ストレートに呟く円のことを藤代はムッとすることなく見つめ返した。

「別れる時には、これまでの強い感情が本当に恋愛感情だったのか、実は憧れとかいう部類だったのかわからなくなった・・・でも、それでもオレは彼女を『好き』、だったよ。 ・・・って、ごめん、オレ木元さん相手になに語ってんの?」

藤代のセリフが酔った頭にすごくストレートに届いた。

また一気に孝誠の婚約を知った時のことを思い出す。


5歳年上のヒーロー、コウちゃん。

三兄弟の真ん中で、兄弟の仲では口数の少ない方だったけど円にはいつも優しかった。

勉強もよくできてバレーボールのレギュラー選手。

背も高くて顔もよくて、まるでマンガから抜け出てきたような完璧な年上のお兄ちゃん。

コウちゃんのことを好きになったのはいつからだろう・・・。

少なくとも、円の初恋は孝誠だと言いきれた。

でも、好きだとはっきり自覚した時にはもう孝誠には一葉がいた。

家にもよく連れてきていたので、円は一葉ともかなり前から知り合いだ。

それでも、孝誠が社会人になった頃一年ちょっと一葉と別れていた頃があった。

その頃は何度かドライブに連れて行ってもらったけれど、別れていても一葉の存在が孝誠の中に居座っているのがわかって告白などできなかった。

・・・一葉ちゃんと復縁しそうだな。

円の予感は的中し、それからしばらくしたらまた一葉を連れて歩く孝誠と出会った。

「あれ? コウちゃん・・・。」

『別れたんじゃないの』というセリフをさすがに飲みこんだら少し照れた孝誠が苦笑いした。

「ああ、なんか復活した。 またコイツのことよろしくな?」

孝誠と一葉がそろって苦笑いして、円は胸が痛んだけれどニコッと笑い返した。

それから何年経っても孝誠は結婚しなかったが、いつも隣には一葉がいた。

孝誠への失恋は乗り越えたつもりだったが、円は数人と付き合っても今一つ本気になれずどれも長続きせずに終わっていた。

・・・何かとコウちゃんと比べちゃう。

コウちゃんみたいなハイスペックそういるわけないのに!

恋を終えるたび、円はそう思って孝誠に思いを馳せた。

そんな孝誠と一葉が婚約した、と聞いた時は予想以上にショックで会社を三日も休んで部屋に閉じこもった。

さすがに心配した奏が圭輔に相談し、圭輔からそれとなく孝誠に様子が伝えられて円の長年の片思いが孝誠にばれた。

それでも孝誠はお見舞いに隆臣の店のケーキを買って円を訪ねてきて、ちゃんと対応してくれた。

「マーの気持ち、すっごいうれしいよ。 ずっと大事にしてた円から好きだって言ってもらって、こんなにうれしいことって、ない。 恋人として円の気持ちに応えられなくてごめんな。 でも、今までもこれからも、マーはオレの大事な大事な人だからな。 それは変わらない。」

円のことを『マー』と呼ぶのは孝誠だけで、円はそう呼ばれるのが好きだった。

「ありがとうコウちゃん。 婚約おめでとう。 お幸せにね。」

恥ずかしかったけれど自分の気持ちが孝誠に伝わったことがある意味嬉しかった。

円は泣くのを我慢して孝誠に手を振り、孝誠が帰るのを待ってもう一度泣いた。


・・・リアルに思い出しちゃったよ・・・。

円はまたグイッとワインを含むと、藤代が優しく笑った。

「木元さん、何思い出したの?」

「大好きだった人のこと。 5つ上の幼なじみでね・・・。」

なぜか円は素直に孝誠への長年の片思いについて藤代に話始めていた。

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