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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
北嶋章穂の場合
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-19-

「隆臣から聞いたよ、ケイの職場の人も入会したんだな。」

章穂がまたウィスキーを一口含むと圭輔が軽く舌打ちをしたように聞こえた。

「ミスったんだ・・・。 この間定時で上がろうとしたら先輩から飲もうぜ、って声かけられて、これからバド行くんだ、って言ったんだよ。 そしたらそれを島谷さんが聞きつけて、大学でやってたから自分もしたいって着いて来たんだ。 バドは気兼ねなくやりたかった。」

状況をなんとなく聞いた陽菜がナッツを出しながら首を傾げる。

「気兼ねする相手なの、その人?」

最もな質問にみんなで圭輔を見ると、一瞬黙った後で怒ったように吐き捨てた。

「・・・同期の子なんだけどね。 冗談めかして普段からつきあってよ、とか言われてる。 ことごとく断ってるけど・・・つきあう気なんてさらさらないしな。」

ため息をついた圭輔を見た亮一が、自分にも作ったラムコークを一口飲んで呟いた。

「お前けっこうその手の話多いな。 スパッと断れよ、曖昧にするから付きまとわれるんだろ。」

亮一に圭輔が噛みついた。

「スパッと断ってる、って! ・・・あ、そう言えば島谷さんが聡美にちょっと意地悪言っちゃったけど怒ってないか、って気にしてたけど。 サト、あいつに何言われた?」

しまいには島谷のことをあいつ呼ばわりする圭輔に亮一たちは思わず笑ったが、聡美は心当たりがあるのかハッと顔をあげた後、慌ててすぐにいつもの笑顔になった。

「意地悪ってなんだろう? 心当たりないけど?」

・・・何か隠してるな・・・。

圭輔も章穂も、そして亮一も聡美の表情からそれは分かったが、こうなったら聡美は絶対にカミングアウトしないこともわかっていたので圭輔は一言だけ返した。

「ほんとかよ? 何かあったら隠さずオレに言って。 とりあえず、オレはバドであまり島谷さんにからみたくないから! 今日は練習行ってストレスたまった。 あー、アキの顔見て和むなんて、オレも終わってんな!」

「なんつー失礼な発言だ、圭輔!」

圭輔の台詞に章穂が即座に叱りつけ、圭輔も自分の台詞にウケて大笑いした。

「な、アキたち来週どうするよ? 試合は1月末だってな? 聡美も試合までは来れるだけ来いよ、一緒に打とう?」

圭輔の話からまたバドミントンの話になって、そのまま聡美のことは流された。


「陽菜さん、ごちそうさま。 リョウくん、また来るね!」

「ごちそうさまでした!」

気付けば12時近くなったので、四人で退散した。

「ナッちゃん、またおいでね!」

陽菜が言って隣で亮一が右手を上げて見送ってくれる。

「リョウ兄、またね!」

「リョウくん、カクテル美味しかったよ!」

圭輔と聡美も店を出て、章穂たちは二人に声をかけた。

「じゃ、来週は土曜にそっちに行く。 その島谷さん、ってのにも会えるな。」

あの後、練習の予定をすり合わせて、出来るだけ一緒に行こうということで話がまとまっていた。

次回は章穂たちが圭輔側へ練習に来ることになり、章穂向かって圭輔が眉間に皺を寄せた。

「じゃあ来週はアキが島谷さんの面倒みて。 オレ、サトとミックス入りたいし。 やった、解放感!」

「何都合のいいこと言ってんの!」

章穂に肩を組んで嫌がられる圭輔の姿を見て聡美が吹きだした。

すぐに駅に着くので、聡美が圭輔の隣へ並んだ。

「じゃあな、おやすみ。」

「ナッちゃん、また来週ね!」

「お疲れ!」

「また来週ね!」

四人は二手に別れる。

圭輔と聡美は歩くかタクシーかで賑やかにもめているが、どうやら圭輔が歩きたがっていて、ちょっとでも長く一緒にいたいんだな、と思うと章穂は吹きだした。

「歩いて帰ろうよ、だなんて下心見え見え。 圭輔くん可愛い!」

夏実も同じことを思っていたようで、章穂はくすっと笑うと駅に向かいながら夏実の手を握った。

「オレたちは駅からタクシー乗るか。 オレも見え見えなんだけど?」

章穂のセリフに夏実が大げさに吹いて笑う。

「たかが5分でしょ、歩くよ!」

二人は電車に乗って夏実の家へ移動した。

最寄りの駅で降りてまた手をからめると、章穂がふと思う。

夏実と一緒に夜を過ごしたいと思っただけで、今日はどれだけ労力使ったことだか。

ケイやサトと飲めて楽しかったけど、もし一緒に住んでいたらもうとっくに二人でまったり部屋にいるんだろうな。

急につないだ左手が意識される。

気付けばセリフが滑り出ていた。

「なあ、来週は日曜とか暇?」

突然のセリフに夏実が一瞬目線を宙に浮かせて頷く。

「用事は特にないね。 なんで?」

章穂が一瞬黙って、そして言った。

「ちょっと部屋でも観に行くか。 ナツの部屋にオレが転がり込んだら狭すぎだもんな?」

「え?」

章穂のセリフは酔った頭には厳しかったらしく数歩黙った後、夏実がハッと息を飲んだ。

「なん・・・て?」

章穂が穏やかに笑って続ける。

「オレは一人暮らししたことないから部屋物色するのも初めて。 すぐに一緒に住むってのじゃなくて、まずはどんなとこがいいとかブラブラ見ながら話あってみようよ。」

章穂のセリフに夏実が足を止めて潤んだ目で章穂を見上げたので章穂が慌てた。

「その・・・プロポーズはもうちょっと待って・・・きちんとさせて・・・。 でも、その・・・一緒に遊んで帰りたくないと思った時に、今日みたいにお前を待たせて実家に荷物取りに帰って・・・っての、もういいかな、って。 できればずっと帰りたくないかな、って。 お前と一緒に時間過ごしたいな、って。」

夏実の目から涙がこぼれてあまりの出来事に声も出ない。

「あの、そ・・・の・・・。 帰るぞ、ほら!」

一気に照れた章穂は涙を流す夏実の手を引いて早足で夏実の部屋に向かった。

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