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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
北嶋章穂の場合
77/308

-17-

週末は練習が日曜だったので、章穂と夏実は土曜の4時という中途半端な時間に待ち合わせた。

来月夏実が地元の親友の結婚式に出席するため帰省することになっており、服に合わせるネックレスを見たいというのでデパートのアクセサリー売り場をうろうろする夏実につきあう。

・・・結婚、ねえ・・・。

26歳男性の章穂の周囲はまだあまり結婚の声を聞かないが、夏実の周囲はそろそろ結婚する友人が出てきた感じだった。

今回式を挙げるのは高校時代の仲良し四人組の1人らしく、もう一人も来年初夏の結婚が決まっているそうだ。

夏実との相性は文句なしでいいし、この先夏実と別れてまで別の女性と関係を築く気もさらさらない。

一人暮らしの夏実の家賃を考えたりすると、そろそろ一緒に住んでもいいかな、と思うことも増えてきたが、実家ならではの生ぬるい生活が心地よすぎて一歩が踏み出せないことにも気づいていた。

ぼんやりしていたら、夏実に呼ばれて振り返る。

「ねえアキ、これ派手すぎかな?」

夏実はシルバーのチェーンと大ぶりのフェイクパールのネックレスをして少し胸元をはだけており、一瞬ドキッとする。

「似合うけど・・・派手だな、えらい。」

似あっているが首の細い夏実に大ぶりのパールが少しイヤミに見えたので正直に言うと夏実も笑った。

「あ、やっぱし? 主役じゃないもんね、目立ち過ぎか。 じゃ、こっちかな・・・。」

夏実の一言をいちいち拾って苦笑いしてしまう自分に章穂は少し呆れる。

・・・そのうち主役にしてやるから、もう少し待って、夏実・・・。

晴海も先月美冬にプロポーズしたと報告があった。

・・・浮ついた気持ちをちゃんと整理して、きちんと考えて決心してからプロポーズするから、待ってて。

そう思った瞬間、恥ずかしくなって章穂は咳払いをして一人で慌てる。

夏実はブツブツ言いながら次のネックレスを手に取り、付替えたネックレスはさっきより小ぶりのパールをラインストーンが花の形に包み込んだもので、ラインストーンが光ってとてもキレイだった。

「あ、これ可愛いじゃない。 大き目だけど、二次会だけじゃなく今日の服にも合ってんじゃない?」

章穂の声に夏実が嬉しそうな顔をする。

「ほんと? 可愛いよね、これ。 じゃあ買って来ようかな、アキ、適当にその辺見てていいよ。」

店員としゃべりながら会計をしに場を離れた夏実を見送ってふとディスプレイを見たら、お揃いのピアスが飾ってあった。

・・・誕生日とか以外にプレゼントなんてここ数年買ったことないな。

ネックレスのモチーフと同じで小ぶりの花をかたどったピアスから目が離せず、迷うことなく章穂は別の店員に声をかけた。

戻ってきた夏実は章穂までが紙袋を受け取っている姿を怪訝そうに見る。

「ありがとうございました。」

店員に会釈すると夏実の手を握って少し歩いてからグイッと紙袋を押し付けた。

「え? 何?」

「お揃いのピアスが可愛かったかな、と思ったら買ってた。 あげる。」

頬を赤らめて一瞬だけ目を見た章穂に歩きながら驚いた夏実は、ギュッと手を握り返した。

「え、いいの? 誕生日でもないのに・・・。」

同じことを考えていた夏実に章穂が返す。

「あげたいな、って思ったからいいんだよ。」

「・・・ありがとう。 すっごい嬉しい・・・。」

夏実が腕にすがるように歩く。

「・・・今日、うち泊まっていかない? アキが荷物取りに行って、ソレイユ寄って、うち行こうよ。」

なんとなく気分が盛り上がって章穂も泊まりたいと思っていたので、その提案に乗る。

「じゃ、ちょっと軽く食事してソレイユ行くか。 リョウくんとこなら一人でも待てるだろ、ナツが飲んでる間に荷物持って来る。」

「うん。」

・・・一緒に住んだらこんな盛り上がった気分なら惣菜でも買って二人で家に帰ってビールとか飲んだりするんだろうな。

なぜか急に夏実との将来の姿が具体的に頭に浮かび、章穂は焦りながらも温かい気持ちになった。


「あれ、いらっしゃい。 夏実ちゃん、お久しぶり!」

「リョウくん、陽菜さん、こんばんは。」

生パスタを出す店で食事を済ませた後、8時前にソレイユに入ると他に二組客がいた。

「リョウくん、オレちょっと家に荷物取りに戻るから夏実一人でしばらく待たせてよ。」

「なんだよ、お泊りセットくらいナッちゃんちに置いとけよ。」

笑いながら亮一が言うので章穂が反論する。

「違う、バドの用意、明日練習行くんだよ。 お泊りセットどころか服もたくさん置いてる、っつーの!」

幼い章穂のセリフに陽菜も夏実も笑った。

「お前の悪口つまみに飲むわ。 早く取ってこい。」

亮一が笑って言うので章穂は急いでバスに乗り、両親にこのまま飲みに行って明日帰ると告げるとソレイユにとって返したが小一時間が経過していた。

「ただいま!」

バーに入るにはそぐわないセリフでドアを開けるとみんなが振り向いた。

「あ、アキくん! お邪魔しちゃった。」

「サト!」

夏実の隣には、カクテルを持った聡美が笑って座っていた。

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