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「美幸ちゃんと聡美ちゃんペアもなかなか息が合ってたんじゃない?」
志緒のセリフに美幸が聡美を振り返って笑う。
「聡美ちゃん上手だね! いつからバドしてたの?」
聡美はコートの外に出ると圭輔の隣に座りながら答えた。
「高校から。 アキくんとケイちゃんも一緒に部活してたよ。」
「へえ、高校どこ? 大学も北嶋さんたちと一緒?」
「N高で、大学は三人バラバラ。 私はD大で、ケイちゃんがK大で・・・。」
「K? うそ、私もK大!」
美幸が勢いよく圭輔を振り返り、圭輔は思わずのけぞったが言った。
「もしかして、ミスショだった? オレ、サークルっていうかバド同の方で。 ミスショなら住吉とか知ってる?」
圭輔は『K大バドミントン同好会』に所属し、美幸は『ミスショット』というバドミントンサークルに入っていたことがわかった。
「あ、住吉さん知ってる! でも、私が1年の時の4年だから・・・あ、私、浪人して入ったので。 天野さん、現役? あったまいいんだねえ!」
志緒もうなった。
「浪人してK大入った美幸ちゃんもすごいけど、天野くん現役? すごいね。」
章穂が笑った。
「ケイめっちゃ成績よかったもん。 奏も運動ダメだけど勉強はできたしなあ。」
微妙に凹む章穂の姿に今度は聡美が大笑いした。
「アキくんだってY大じゃない、十分頭いいくせに!」
「お前もD大だろ。」
圭輔がそう言って軽く聡美を叩くと聡美がくすくす笑った。
「・・・なに、この難関大の羅列・・・だいたいそろってN高って! どうせ私は名もない短大卒よぉ、オベンキョできるヤツラはあっち行け!」
なぜか志緒が暴れ出し、みんな大笑いした。
「ケイ、ミックスで勝負!」
練習も後半になった頃、章穂に誘われて圭輔と聡美ペアでミックスダブルス勝負をすることになった。
すっかり懐いてきた美幸がコートの後ろに座る。
「この間は逆転負けしたもんな、今日は負けない。」
章穂がニヤッと笑う。
「喉渇いたから飲んで帰ろう。 飲み代持てとは言わない、ジョッキ一杯な。」
「何、その勝利宣言めいた誘い!」
圭輔がそんなことを言って章穂も誘いに乗る。
「・・・ってことでガンガン行くぞ。 自分のプレーしろよ? オレらならスムーズにまわるから!」
圭輔は聡美と組むと必ず試合前にラケットで頭を抱えるようにして一言声をかける。
それは他の人と組んだ時にはしない、ということに章穂も夏実も気づいていた。
「うん。 ビールって聞いたらやる気出た。」
「お前は酒の話となると目が輝く!」
試合形式が始まった。
聡美と圭輔はまだ数回組んだだけだが、幼なじみのなせる業か息の合ったプレーを見せる。
大学時代からよくペアを組んでいた章穂と夏実も当然プレーに無駄がない。
「お、北嶋と天野くんかよ。」
三戸部が来て美幸の隣に立つと美幸もため息をつく。
「みんな上手。 ・・・わ、聡美ちゃんのスマッシュすごい!」
「夏実ちゃんはネット際強いねえ。」
予想以上にレベルの高いゲームに皆が注目した。
「ケイちゃん!」
「任せろ!」
「ナツ!」
「はいっ!」
まるで本当の試合のように四人の眼差しも真剣だった。
圭輔は自分より聡美に決めさせたいらしく、取りにくいコースにシャトルを打ち込んでは甘いロブを上げさせお膳立てをする。
最初はぎこちなかった聡美も圭輔の思惑に気づいたのか果敢にスマッシュで攻めた。
「くそっ・・・おい、サト! たかがビールで本気出し過ぎじゃねえの?」
バックに打ち込まれた章穂が苦笑いして言うと聡美が返した。
「されどビール!」
・・・聡美、遠慮しないで本気出せてる、さすが圭輔だな。
章穂は試合中なのにそんなことを思った。
スマッシュの応酬に四人とも汗を光らせている。
「ケイちゃん、お願い!」
「任せろ・・・・っ!」
最後は圭輔が前方から強烈なスマッシュを決めて、また圭輔と聡美が勝利した。
決まった瞬間聡美が手を上げると、ガッツポーズをしたまま圭輔が軽く聡美に抱きついて聡美が固まった。
「やったね、ビール! 動けてたな、聡美。」
「ケイちゃんも! お疲れ。」
章穂は苦笑いしながら試合後の握手をしながら言った。
「いい動きになってきてるな。 悔しい。」
夏実も笑った。
「悔しいけど私もその飲み会寄せてくれる? 喉渇いた。」
コートの外の美幸が耳聡く会話を拾う。
「わー、私も行きたい! 三戸部さんも飲んで帰らない? あ、志緒さーん・・・。」
美幸を目で見送りながら三戸部が笑った。
「お疲れ。 こじんまり飲みたかったかもしれないけど、今日はさくっと飲んでから解散にするか。 ・・・あいつ、全員声かけてんぞ。」
「・・・今すぐ飲みたいです・・・。」
圭輔が汗を拭って笑うとまた聡美を軽くラケットで叩いた。
「隆臣とのコンビにはまだ負けるけど・・・どうだった、オレと?」
聡美は思いがけないセリフにドキッとした。
「・・・すごくやりやすかった。」
圭輔はホッとした顔で笑った。
「よかった!」
圭輔の笑顔があまりにまぶしくて聡美は思わず目を逸らした。




