表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
北嶋章穂の場合
74/308

-14-

木曜日にコートに到着すると、もう夏実も圭輔も聡美も到着してアップも終えていた。

「アキ、遅かったな!」

圭輔が夏実をからかいながらこっちを見て手を振る。

「お疲れ様です。 っと、お疲れ。」

「遅かったね、章穂。 私もうサトちゃんと基礎入ったよ。」

夏実が笑いながら言う。

「・・・仕事が終わらない・・・。 ケイは忙しくないの? お前も大きいの受注した、って言ってたろ?」

圭輔は章穂と業界は違うもののプラント関係の機械設計をしており、先日大型案件を受注したことから忙しくなった、とこぼしていた。

「え? ああ、忙しいよ。 この間は営業と一緒に客とのキックオフにも連れて行かれたし。 マレーシア向けの海外案件なんだよ、現地の取り合い見て来いとか言われて、下手したらマレーシアの現地行かされそうで怖い。」

「マレーシア」のセリフに聡美が食いついた。

「そしたらお父さんに晩御飯ご馳走してもらったらいいよ! 今はクアラに近い現場らしくてクアラに広いマンション借りてもらってるし。」

年のほとんどを海外の現場で過ごす聡美の父親は、今はマレーシアに滞在していた。

「クアラ・・・って、クアラルンプールか、おじちゃん、忙しいなあ。 サトは遊びに行ったりしないの? いや、たまに行ってたな、そう言えば。」

聡美と母親は少なくとも年に一度は父親のいる現地へ遊びに行っていた。

聡美が苦笑いを浮かべた。

「そう言えばお母さん亡くなってから一度も行ってないわ。 お父さん、拗ねてたりして、まずいね! そろそろ様子見に行ってこよう。」

圭輔が床からラケットでシャトルを拾って言った。

「あ、ならオレの出張決まったらそれにあわせろよ、一緒に行こう!」

「あー、ヒトを通訳に使おうっての、バレバレ!」

「バレたか!」

圭輔と聡美がかけあって章穂と夏実が笑ったけれど、圭輔はどこまで本気で言ったかな、と、章穂はふと思った。


宣言通り圭輔と聡美が世話役に挨拶をし、また試合が近づくとスポットで参加させてもらえるよう頼むと、世話役も律儀な二人にとても喜んでくれた。

その後、圭輔は章穂とダブルスを組み、三戸部と野崎郁生のざきいくおという3つ上の先輩とのペアと試合をして接戦を下した。

「天野くんと組んだら3割増し腕が上がってる、北嶋。」

汗を拭きながら言う三戸部のセリフに章穂が複雑な表情を浮かべた。

「えー、それってオレ喜ぶところ、落ち込むところ?」

「思いっきり落ち込むとこだろ。」

「うるさい、ケイ!」

圭輔がつっこんでみんなが笑った。

夏実は聡美と組んで、志緒と聡美と同い年の大場美幸おおばみゆきペアと対戦し、こちらはあっさり勝利した。

聡美は相手に合わせるのが上手いようで、夏実のクセをすぐにつかんで動いたこともあり、夏実は章穂に言った。

「めちゃくちゃサトちゃんと組みやすい。」

夏実のセリフに聡美が笑った。

「えー、本当? うれしいな。 ねえ、そしたら一緒に試合出てもらえる?」

控え目な聡美に夏実が笑う。

「こちらこそお願いします。 美幸ちゃんと志緒さん最近組むこと多いし、ちょうどよかったかも。」

志緒と美幸が床から二人を見上げた。

「ナッちゃんも聡美ちゃんと幼なじみって言った?」

志緒のセリフに夏実が首を横に振る。

「ううん、幼なじみはアキと聡美ちゃんと圭輔くん。 サトちゃんとは5年前?くらいからの付き合いよね。 一緒にバドするのは今回初めてよ。」

美幸がほおっとため息をついた。

「そうなの? ずっとペア組んでたみたいだった! 後でもう一回勝負できるかな? 志緒さん、今度は頑張ろう!」

小柄で人懐っこい美幸は、同い年ということで聡美としばらく話し込んでいた。

圭輔はタオルを顔に押し当てて聡美の表情を見ている。

「・・・じゃあ、次空いたら一緒に組もう、聡美ちゃん! 今日けっこう少なくてよかった! あ、私のことも美幸でいいから! こちらは志緒ちゃんでいいし!」

「あはは! 私も呼び捨てでいいよ? ナッちゃんも私のこと呼び捨てでいいからね!」

聡美は笑うとそのまま美幸と話を続けてコートに入った。

「明るいよねえ、サトちゃん。」

章穂の隣に座った夏実が言うと、章穂が小さく笑って言った。

「そうだなあ。 相手に合わせるのとか相手をのせるのが上手いんだよ、アイツ。」

・・・自分を抑えてでも相手を立てるとこあるからな・・・。

余計なことを考えながら、章穂は美幸と組んだ夏実のプレーを見た。

ネット際が弱い美幸に気づいたのか、いつの間にか聡美が前に構えるフォーメーションを組んでいる。

「・・・サトが後ろでスマッシュの方が破壊力ある、っつーの。 ・・・あ、ほらっ!」

圭輔がボソッと呟いて、夏実と圭輔は顔を見合わせて笑いをこらえた。

「圭輔くん、コーチみたい。」

「過保護な親にも見える。」

くすくす笑うと圭輔がちらりと二人を見た。

「何か言った?」

「いいや、何も?」

じろっと一瞥すると、圭輔はまたコートに・・・聡美に視線を戻した。

志緒と40歳手前の先輩とのペアに圧勝して二人が笑って出てきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ