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「あ、ケイくんが車買ったの、聞いた?」
隆臣が顔をあげて聞いたので章穂も興奮した。
「聞いた、日曜電話かかってきて夕方運転させてもらったんだ、お前に言うの忘れてた。 外車、一括だとよ、あいつ金持ちだなあ!」
驚く隆臣の顔を見ながら、先日の日曜の夜帰宅したら圭輔から電話がかかってきて久しぶりに章穂と奏と三人でドライブをしたことを思い出した。
奏は誘いに乗らないかと思ったが出てきたので章穂と奏が行きと帰りを交代で運転した。
赤い車に二人は目を見張ったけれど、今の圭輔にはあってるな、と章穂が思ったら奏もそう言って笑った。
「3年前の圭輔がこの色買ったら似合わない、って言ったかもしれないけど、今のケイにはぴったりじゃない?」
「あ、オレも思った。 今のお前にあってる。」
圭輔はとても嬉しそうに笑った。
「マジで? 嬉しいわ、そのセリフ!」
納車には『暇にしていた』聡美を誘ったことも教えてくれたが、わざわざ聡美を誘ったあたりが可愛いな、と思った。
「ケイ、タバコ吸っていい?」
立ち寄ったファミレスからの帰りに助手席に座った喫煙者の奏がわざとそんなことを言ってタバコを取り出すと、圭輔が青い顔で箱を取り上げた。
「シャレになんねえ、っての、カナ! 走って帰れ、お前!」
真剣な圭輔に奏も章穂も大笑いした。
「冷たいなあ! オレが運動苦手なの知ってるくせに!」
「ならおとなしく乗ってろ、バカ!」
円のことで少しトーンの低かった奏が、気の置けない二人とドライブすることで気分が上がっているようだった。
「陽一郎も誘ってやればよかったか。」
圭輔のセリフに奏が笑った。
「なんで? たまには同い年トリオでのんびりもいいじゃない。」
メガネを押し上げながら笑う奏の姿に章穂も圭輔も少しホッとする。
陽一郎とは相変わらず仲よくしているようだが、絶対に一緒という関係でもなく、濃いけれども近すぎない距離は壊さないようにしているようにみえた。
「今度また駅前かリョウくんのとこで飲まない? 奏、忙しい?」
章穂が聞くと奏が笑った。
「オレは時間合わせるからケイとアキで時間決めて。 のんびり飲みたい。」
出不精の奏が乗ってきたことが嬉しかった。
そんなことを思い出していたら隆臣が目を見開いた。
「わ、いいな! オレも乗りたい。 今度車出して、ってお願いしとこ!」
隆臣はビールを飲み干すとニヤッと笑った。
「先、風呂行っていい? この季節なのに汗かいた!」
「はいはい、どうぞ。」
章穂が笑うとキッチンを出る直前に隆臣が振り返った。
「あ、そう言えば、聡美がキョウちゃんにみんなでバド復活したこと言ったんだって。 昨日キョウちゃんから電話あってさあ。 私もバドやっとけばよかった、とか。 初心者でもいいからおいで、って誘ったけど、聡美のフィールドで相撲とるのイヤだ、だってさ。 可愛いこと言うよね、キョウちゃん!」
圭輔と聡美がバドを再開することで恭子がイヤな思いをしないか、と気にかけていた隆臣はホッとしたようだった。
恭子は圭輔とも仲がよいが隆臣ともよく連絡を取っている。
それは隆臣の努力もあるのだが、奔放な二人はぶつかることなくうまくいっていた。
「恭子の言いたいこともわかる。 まあ、別に毎日の話じゃないしな。」
「そうだね。 じゃ、風呂行ってくる。」
隆臣の姿を見送って、章穂は小さくため息をつくとビールを一気に空けた。
週末は夏実とドライブをし、郊外のパン屋に寄ったりしてのんびり過ごした。
翌週は平日も時間が取れそうなので木曜の練習に行くことにして、もう一度練習に来たがっていた圭輔と聡美を誘った。
圭輔が、もう一つのサークルに決めたという報告と、試合が近づいたらまたお邪魔しますという挨拶もしておきたいから、と言い、見かけよりずっと律儀な親友に感心した。
バドの話が落ち着いた後、圭輔がご機嫌で続けた。
「リョウ兄がとうとう陽菜さんの両親に挨拶行ったんだ! 長かった、一年間! で、次の日は陽菜さんがうちに挨拶来てくれて、たまたまコウ兄もヒトちゃんが旅行だとかでうちに泊りで帰ってきてて。 うちの家族と陽菜さんで食事したんだ。 なんか、すっげえ感動した!」
「え! マジで!」
色々あって陽菜の両親とこじれていることは章穂も知っていたので、圭輔の報告はとても嬉しかった。
「頑張ったなあ、リョウくん!」
「あはは、それがさ・・・!」
圭輔は結局ほぼ陽菜の母親のお膳立てのおかげだったことを笑いながらバラした。
「兄ちゃん、ああ見えてヘタレなとこあるからさ。 あれでもすっごい勇気出したんだよ! 今度カナと三人で飲みながらからかおう!」
圭輔も同い年の飲み会を楽しみにしているようだった。
「なら、明日現地でな。」
電話を切ると章穂は夏実にメールで二人のバド参加を伝える。
すぐに夏実から返信がきた。
「明日は大人の余裕をみせるから、サトちゃんとダブルス入っていいからね!」
・・・なんだ、そりゃ!
章穂が聡美を可愛がる度にやきもちを妬く夏実を思い出して章穂は一人で吹きだした。




