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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
北嶋章穂の場合
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-12-

夏実と付き合い始めた頃のことを一気に思い出して小さく息をついた後で顔を上げたら夏実がニヤニヤ笑ってこっちを見ていたので驚いた。

「なんだよ?」

「いったいどこからどこまで思い出してた?」

心の中を見透かしたようなセリフにドキッとするが、章穂はわざとこう返す。

「ああ? 金城と遊びに行き始めた辺りからお前の部屋で告るあたりまで。」

赤裸々な返答に夏実がサワーを噴き出しそうになる。

「言うね!」

章穂は肩をすくめたあと、ぼそっと呟いた。

「・・・オレ、自分とケイは同じだと・・・輪を崩したくないから聡美に対して動けないってとこ一緒だな、とか思ってたけど・・・。 オレは『サークルの輪が崩れたら』なんていう大きな事は考えたことなんてなかったな。 オレが壊したくなかったのはお前との関係だけだったかも。 強いて言うなら「春夏秋冬」の4人の仲、くらい。 ケイは・・・あいつは違うんだよ。 オレら10人ほどの小さい頃から続く濃くて近い輪を崩してはいけない、って、なんだかもう呪いみたいにそう思ってるみたいで・・・。 あんなに聡美のこと大事にしてんのにな。 サトも明らかにケイのこと好きなのに・・・でも、外野がどうこう言うことじゃないしな。」

そこまで言ってジョッキを空けると、まっすぐ自分を見る夏実の視線に出会った。

「・・・けっこう、嬉しいこと言ってくれたんだけど、気づいてる?」

「え?」

夏実のセリフに今自分が言ったことを反芻して、そして笑うと箸を握る夏実の手を軽く撫でた。

「ま、あいつらのことはマジで大きなお世話だから首突っ込まないで見守っておく。 ・・・今夜は久しぶりにナッちゃんとのんびりできるんだから余計なこと考えるのよそう。 な、明日何しようか。 遠出しないなら朝寝坊していい?」

少し甘えた章穂の声に途端に夏実が照れた顔で俯いた。

「・・・今朝、お布団干しといたからね。」

「・・・額面通りの露骨な誘いととっていいんだよな?」

章穂も露骨に返してきたので夏実が吹き出して、章穂が今来たばかりのジョッキに口をつけながら言った。

「・・・でも、もうちょい飲んでいい? やっぱ、生はうまくって。」

「今すぐなんて言ってない、私!」

慌てた夏実を笑った章穂はその後もう一杯生ビールをお代わりし、2時間弱居酒屋で飲んだあと夏実の部屋へ帰り、二人は時間を気にせず温かい布団に包まれた。

・・・最近仕事やバドで忙しいから夏実となかなか会えなかったけど、時間ちゃんと作ろう・・・。

久しぶりに体を重ねた二人はずいぶんと乱れたが、甘えてくる夏実が可愛くて、初心を思い出したこともあり、章穂はそう思った。


翌週の平日は互いに忙しく、週末は土日とも年に一度の大きなバレーボールの大会で全日貸切のため練習がないので夏実と遊ぶ予定にした。

水曜に三人で練習してきた隆臣が、帰宅後キッチンでビールを立って飲みながら章穂を見て言った。

「今日からケイくんの職場の人も入会してさあ。 その人・・・島谷さんって言うんだけど、ケイくんのこと好きみたいで聡美が微妙に絡まれてる感あるんだよね。 美人さんなんだけどちょっとオレは苦手・・・。」

苦笑いする隆臣に章穂が質問する。

「え、マジで? ケイはどうしてんの?」

章穂の質問が曖昧だったので一瞬首を傾げた隆臣が答えた。

「ケイくんはプライベートまで会社の人がいるのはイヤだって言ってたけど来るなとか言えないしさ。 兄ちゃんたちの方斡旋しようとしてたけど、やっぱ会社帰りにはうちの方が近いし家からでも断然こっちなんだ。 もう、ケイくんがオレに島谷さんを押し付けようとして・・・面倒。」

一気にビールを空けると足りなかったのかもう一本出すので章穂ももらって二人で軽く缶をぶつけた。

母親が見ると行儀が悪いと怒るが缶からの直飲みのビールは美味しいと思う。

「聡美が絡まれる、って何?」

「ケイくんと聡美が接触するのを必死で阻んでる感じ。 聡美もとまどってたっていうか、なんか微妙な感じだったわ。 あ、でも、今日はオレとサトでダブルス組んだし、ケイくんとサトでも入ったよ。 久しぶりだったなあ、聡美とのペア。 意外に相手の動きとか覚えてるもんだね、動きやすかった。」

高校時代、伝統として月に一度ミックスダブルスの試合形式を行っていた。

この日ばかりは男女が一つの輪になって競い合う。

相手をころころ変えるペアもあれば、不動のペアもいる。

隆臣と聡美は強豪の不動ペアとして有名だった。

「一回だけ北嶋くんと組ませて!」という依頼を断りきれない二人はたまに相手を変えたがそれはやはり一度きりで、二人は「夫婦」と言われるほど見事な相性だった。

「不動のペアだったもんな。 ケイとサトは久しぶりだったんじゃない?」

章穂がケラケラと笑った。

「聡美のうれしそうなこと。 緊張したのかちょっとカタかったけどね、よく動いてた。」

・・・聡美、だいじょうぶかな・・・。

苦笑いする隆臣を見て、モテる圭輔や隆臣の幼なじみということでいじめられていたことを知る章穂は聡美が心配になった。

「・・・なんだよその子・・・。」

まだ見ぬ理子に恨みを飛ばし、章穂もビールをグイッと飲んだ。

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