表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
北嶋章穂の場合
68/308

-8-

茉莉恵からの連絡に適当な返事を続けていたが、明日会って話したい、というメールを送るとさすがに慌てた声で茉莉恵が電話をしてきた。

「何の話? 楽しい話じゃないと嫌なんだけど。」

・・・金城にもわかってるんだ、オレの本心。

自分にちゃんとぶつかってくれた茉莉恵に罪悪感を感じたが、章穂は言葉を濁した。

「ここで言ったら会う意味ないって。 明日、空いてる? 俺は家庭教師あって、8時半くらいから空いてるんだ。」

茉莉恵が一瞬黙ってから答えた。

「私の部屋でなら話聞くよ。 居酒屋とかでは聞きたくないな。」

「わかった、終わったら訪ねて行く。」

お互いにもう話の内容がわかっているような会話だった。


家庭教師が終わって電車で茉莉恵の駅に移動しながら、今さらに章穂は史朗と晴海のセリフを思い出す。

『 ・・・恋愛って、楽かよ?』

『・・・オレは相当しんどかったけど・・・。』

・・・お前ら、いいこと言ってるよ。

恋愛ってしんどいもんだな。

オレ、沢のこと考えるとめちゃくちゃしんどいわ・・・。

二日前に夏実と口論になったことを思い出し、章穂は俯いて自分の靴を睨む。

・・・きちんと金城と向き合って、それから今度はちゃんと沢に向き合う。

律儀な章穂は順番を誤ることはなかった。


ドアを開けた茉莉恵は章穂の顔を見ると苦しそうな表情を浮かべた。

「上がって。」

「ああ・・・うん。」

玄関で立ち話でもいいかと思っていた章穂だったが、とりあえず部屋に上げてもらう。

あまり広くないワンルームに大きなドレッサーが置いてあり、やたらピンクの小物が目についた。

「ビール飲む?」

キッチンから茉莉恵が声をかけてくれたが、章穂は一瞬口ごもってから言った。

「あ・・・金城。 オレ、今日は長居するつもりなくて・・・。 その・・・ごめん。 オレ、金城とはその・・・恋人同士、っつーのにはなれない。」

察しがついていたのか想像していたほど取り乱さなかったけれど、茉莉恵はキッチンで固まったまま涙を浮かべ、それを手の甲でぬぐった後章穂を睨んだ。

「・・・ナッちゃんでしょ? もう両想いになったの!」

いきなりストレートに攻められて言葉を失ったが、辛うじて答える。

「沢かどうかなんて自分でもわからないし、両想いだなんて・・・なってない。」

茉莉恵はまだ章穂を睨んだままで続けた。

「・・・ナッちゃんのことが好きかどうかはわかんないのに、私のことは好きじゃないってわかったんだ?」

意地悪なセリフだったけれど、章穂は逃げずに答えた。

「ごめんな。 金城のことは可愛いと思うし、一緒に歩いて、食事して、楽しかった。 でも・・・恋人か、って聞かれたら、オレ、答えにつまるんだ・・・。 大事な同級生だ、って・・・。」

茉莉恵が大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼした。

「あーあ、なーんだ。 せっかくナッちゃんに先手打って釘さしたのに! ・・・ナッちゃんが北嶋くんのこと避けてるのは、多分私がナッちゃんに相談したから。 北嶋くんのこと好きだから応援してね、って。 ・・・だって、北嶋くんのこと好きになったのに、全然こっち見てくれなくて。 いつも視線の先にはナッちゃんがいて。 なんだか、腹立ったの。」

茉莉恵はティッシュで鼻を噛むと、涙を拭いながら俯いて言った。

「別にナッちゃんに意地悪して北嶋くんのこと好きになったんじゃないよ・・・本当に好きだった・・・。 話、それだけだったら悪いけどもう帰って。 見込みない男性をこんな時間に部屋に入れておきたくないのよね。」

泣き笑いの茉莉恵を心底可愛いと思い、そしてきちんと気持ちを伝えてくれたことに感謝した。

「オレのこと、好きだって言ってくれてありがとう・・・じゃ、おやすみ。」

律儀な章穂のセリフにたまらず茉莉恵は泣きながら吹きだした。

「どこまで優等生なの!」

章穂は目を閉じて色々考えながら家に戻った。


茉莉恵が章穂を好きだったけれどどうやらフラれたらしい、というウワサは秘かにサークルメンバーに知れ渡ったけれど、誰も茶化してくることはなかった。

誰も触れてこないことが余計に不気味ではあったけれど、夏実との距離は相変わらず遠いままだった。

「フリーになったら行けばいいじゃねえの。 なにぐずぐずしてんの。」

例のごとく史朗に呼び出されて晴海と三人で飲んでいたら史朗が焼酎をロックで空けながら顎を突き出して言い捨てる。

章穂は押されて一瞬黙ったが、ぽつりと言った。

「金城とはダメだったんで、じゃ、沢、よろしく、っての、オレには無理。」

「誰もそんなこと思ってないだろ!」

晴海に突っ込まれたけれど、相変わらずよそよそしい夏実に正面から向き合う勇気はまだなかった。

そうこうするうちに四人で手配をした卒業試合と宴会も終わり、4月が目の前に迫っている。

春休み中夏実は四国の実家に帰っているので、3月31日にメッセージを送った。

「帰省から戻るのはいつですか。 どうしても伝えたいことがあるので都合のいい日教えてください。

カタいメッセに返信が来たのは翌日だった。

「今年は実家でのんびりしていて5日に帰る予定です。 それ以降で。」

・・・エイプリルフールとかじゃないよな?

章穂はメッセを睨みながらふとそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ