-7-
翌朝喉の渇きで目覚めたら6時半で、見事に酒が残っていた。
驚いたことに圭輔のベッドで寝ており、本人の圭輔は部屋にいなかった。
テーブルの上にミネラルウォーターとお茶のペットボトルが並んで置かれており、気の利く圭輔に感謝して水を一気に流し込んだ。
気配を感じたのか、軽くドアをノックして眠たそうな圭輔が入ってくる。
「気分大丈夫かよ。 心配したわ、最後。」
そう言えば最後の方の記憶が全くない。
章穂は軽く頭を振りながら、入り口であくびをする圭輔を見上げた。
「最後記憶ない。 ヘンなことしなかったか、オレ?」
章穂のセリフに圭輔があくびの途中で吹き出すとそのまま笑った。
「なんだよ・・・。」
「覚えてないの、お前? 真実知ったらまた酔って記憶飛ばしたくなるぞ。」
圭輔のセリフに血の気が引いたが、知らない方が嫌だったので圭輔を促すと苦しそうに笑いながら圭輔が言った。
「もう、アキが沢さんのこと好きなのはよーくわかったから! 沢、ごめんな、オレちゃんと言うから! とか。 沢のことばっか考えてるんだ、とか。 ケイ、今度沢と一緒に飲もうな、とか。 オレ、名前はさんざん聞いてるけど面識ない、っつーの。」
章穂はますます青い顔で枕に倒れ込んだ。
「軽く・・・死ねる。」
圭輔はますます笑った。
「あー、苦し。 ・・・オレ、コウ兄の部屋で寝てるからな。 まだ朝早いしもう一眠りしようよ。」
「ありがと、圭輔・・・。」
圭輔が言った「お前が勇気出す相手はその子じゃないんだろ」というセリフと、その時の圭輔のまっすぐな視線が甦る。
・・・ごめんな、金城・・・。
章穂はもう一度目を閉じた。
晴海から連絡が来て、水曜日の8時から「春夏秋冬」で集まって卒業試合と宴会の手配について打ち合わせをすることになった。
その日は夏実が隣に座ったが明らかに章穂を意識して避けており、章穂は自分が原因と思いつつも腹が立ってきた。
もともと自分の感情を隠すのが下手な夏実は、自分ではさりげなく接してるつもりだろうが、言葉遣いも慇懃無礼だし、まず、視線が合わない。
それでも四人で二次会までの予約を済ませ、先輩たちへ送る小さなプレゼントについても決定したので店を出る。
晴海と美冬が会計をしてくれたので、章穂は黙って夏実の腕をつかむとレジの後ろを大股で通り過ぎた。
「ハル、吉原、お疲れ! 今度の練習でオレと沢の分払うわ!」
「え・・・? ちょっと、北嶋くん?」
驚いた美冬の声がしたが、章穂は手を緩めることなく夏実の手を引いて店を出る。
あまりの展開に驚いてなされるがままだった夏実が、ハッと息を飲んで思いきり手を引っ込めた。
「何するの!」
「話がある。 ・・・なんでオレのこと避けんの!」
店を出て少し行ったところの有名ブランドの旗艦店の前で二人は向かい合った。
「なんで? なんで、って、マリちゃんの彼氏さんにあまり親しくして誤解されたらまずいじゃない! あんたも自覚したら?」
夏実の声が震えたので目を見たら夏実の目には涙が浮かんでいた。
「彼氏じゃないよ、つき合ってなんか、ない!」
通りがかる人の視線を感じながらも、章穂はそう答えると、夏実が泣きながら怒鳴り返した。
「はあっ? つきあってないって? 北嶋くん、つきあってもない子とキスなんてすんの! 激しかったよ、って、マリちゃんからメッセきたよ! そんな態度、マリちゃんに失礼だよ、マリちゃんに・・・悪い・・・よ。」
語尾は震えて消えた。
章穂は夏実から視線を外すと、呟いた。
「・・・そうだな、金城に悪い。 ・・・でもなんでかな。 何しても沢のことが気になった。 パスタ食べた時もあさりがたくさん入ってて・・・あ、これ、沢が好きそうだな、とか。 映画観た時も、この俳優のこと好きだって沢が言ってたな、とか。」
夏実がまだ荒い息をしながら鼻で笑う。
「・・・そんなあちこち行ったの。 それ、自慢?」
「バカ、違うよ! どれだけ沢のこと思い出したのか・・・伝えたかっただけ・・・。」
また夏実が何かを言おうとした時に会計を終えた晴海と美冬が飛んできた。
「ちょっと、ナツ!」
「アキも、落ち着けよ・・・。」
美冬が夏実を正面から抱きしめると夏実が美冬の服をぐっと握ってしのび泣いた。
「今日は帰れ、アキ。 フユ、沢のこと送って。」
晴海の声に美冬が黙って夏実を抱えて歩き出す。
「・・・飲みなおすか?」
晴海の声が少し優しく響いたが章穂は顔をしかめて断った。
「いや、帰るよ・・・今日、ごめんな、ハル。」
晴海は止めようとはしなかった。
「・・・どうすんの、金城?」
数回デートをしたことは晴海と史朗に報告していたのでそう聞かれると、章穂は足を止めて振り返った。
「ちゃんと伝える。 ・・・金城はちゃんと自分にもオレにも向き合ってくれたのに、オレはバカだったよ。」
晴海が笑顔を見せた。
「アキがバカだってことは史朗も知ってるから驚かない。」
「うるさいなあ!」
章穂は晴海を睨むと小さく笑って駅へ向かった。




