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「もしもし、アキ?」
「ケイ・・・あの・・・こんばんは。」
すぐに電話に出た圭輔に、自分から電話をしておきながら言葉に詰まった章穂は少し抜けた挨拶をする。
「へ・・・ああ、こんばん・・・は? どうした、あらたまって挨拶とか?」
案の定圭輔が微妙な反応を示し、章穂は一人で焦った。
「・・・ちょっと飲みの相手してほしいんだけど・・・今、どこにいる?」
仲のいい二人だったが、こういう呼び出し方は初めてだったので言った章穂が動揺したが、圭輔は動じないで言った。
「家にいるけど・・・もう遅いし、出て行くの面倒だ。 アルコール買って来てくれない? オレの部屋で飲もう。」
圭輔の家は母親が賑やかなのが好きなので、幼なじみたちもよく家に呼んでもらっており、章穂も頻繁に家に遊びに行っていたが11時近い今行くことに一瞬躊躇した。
そのためらいを察したのか、圭輔が続ける。
「リョウ兄も一人暮らしでいないし、コウ兄は今日は帰らないらしくってさ。 夜に友達来るの、親も慣れてるし大丈夫。 あ、唐揚げ買って来てよ。 カギ開けとくし、親には声かけとくから勝手に上がってきて。」
「・・・うん、ごめん・・・。」
章穂は電話を切るとコンビニで買い物をしてタクシーで圭輔の家に着いた。
気を遣ったのか圭輔が外で待っていてくれて、章穂は小走りに坂を上がった。
「よ、お疲れ。 どれだけ買ったんだよ、酔いつぶれる気かよ!」
大量のドリンクを見て圭輔が吹きだした。
そのまま部屋に上がると、小さなテーブルにスナック菓子が用意されていたので早速二人で乾杯する。
さっき茉莉恵と飲んだというのに、酔いはすっかり醒めていた。
「何があった?」
お互いビールを一缶空ける頃、ベッドに座った圭輔がそう聞いてくる。
たった一本のビールが一気にまわった気がして章穂はため息をつくと、ぽつぽつしゃべり始めた。
サークルで二人から明らかに好意を寄せられたこと。
最近夏実はかまってこなくなり、茉莉恵といい雰囲気になってきたのでつきあおうかと思ったこと。
デートをして茉莉恵から告白されたが、なぜか即答できなかったこと。
デートの最中、なんだか夏実のことを思い出したこと。
今日はキスをしたけれど、あまり心が動かなかったこと。
圭輔はひたすら聞き役に回ってくれて、章穂は何度も話が行ったり来たりしながらも、30分弱かけてやっとそこまで話した。
口にすることで章穂自身も気持ちに整理がついた気がする。
圭輔が笑った。
「・・・答え、出てんじゃないの。」
「そう・・・だな・・・。 でも、沢は最近全くオレに寄ってこないし・・・っつーか、むしろ避けられてる。 金城とつきあってるみたいなの、ばれてるし・・・嫌われたか、な。」
苦笑いしてまたビールをぐいぐい飲むと、圭輔が少し苦笑いした。
「友達と同じヒト好きになったってわかったんだろ、きっと。 身を引いてんじゃないの、その子。 ・・・ま、それか、本当にお前に興味なくなったか、だな!」
「・・・イヤなこというな・・・。」
頭を抱える章穂に、圭輔がぽつりと言った。
「・・・好きなヤツに好きって言うのってすごい難しいよ。 その、金城さん? その子すごい勇気あるよな。 だから余計に、その気がないならお前もきちんと断らなきゃならないと思う。 お前が勇気出す相手はその子じゃないんだろ。」
圭輔のセリフは全く自分の心を映していた。
「・・・うん・・・。」
章穂が口ごもる。
圭輔がまた言った。
「・・・輪の中で好きな子がいたりすると色々躊躇うよな。 わかるよ・・・。 もしダメだったらどうしよう、って・・・輪を崩すかも、って、一歩が出ないっての、わかる。」
・・・聡美のことだろう?
高校くらいから、圭輔は聡美のことが好きなんだろうな、ということに気づいていた章穂だったが、何度かつついてみたけれど圭輔は決してそれを認めなかった。
でも、必ず言うセリフがあった。
「・・・聡美は特別大事だよ。」
いつもの幼なじみ軍団は男子の方が多く、女子は円、恭子、聡美しかいなかったが、「特別」という言葉は聡美にしか使わないことに章穂も気づいていた。
「はしっこ軍団」でつるんで遊ぶことが圭輔は大好きだった。
・・・輪を崩したくないから聡美に告白しないどころか、ちょこちょこ彼女作っても長続きしないのか・・・。
「・・・お前も悩んでんの?」
章穂が酔いのまわった顔で圭輔を見ると、圭輔が婉曲に答えた。
「何も考えず、好きなヤツに好きって言いたい時はあるよ。」
「そうか・・・。」
章穂はまたビールを空けた。
「・・・ありがとう、ケイ。 頭がすっきりした。」
「・・・どうみてもすっきりしたような顔に見えないけどな、酔っ払い! 明日バイトとかあんのかよ?」
酔った章穂にそう言うと、圭輔もぐいっと缶を空ける。
「いや、さっき頼んでシフト代わってもらって、明日は夕方まで予定ない。」
「泊まっていけよ。 言いたいことあれば、まだ聞くから。」
章穂は胸に漂っていたイヤな空気はどこかへ飛んでいたことに気づいた。




