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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
北嶋章穂の場合
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-2-

この近辺には3か所ほど企業が集中している駅がある。

圭輔、聡美、孝誠、陽一郎の会社が同じ駅にあり、3つの中でも一番大きな駅だった。

その会社を通り越して2つ目の駅が、これから圭輔たちがメインとする体育館のある駅だった。

恭子と章穂は聡美たちとは途中から支線に分かれる形となり、乗り換えて5つ目の駅で降りる。

月の半分は在宅だが、一応奏が所属しているデザイン会社も恭子と章穂の会社のある同じ駅にあった。

支線に分かれて4つ目が章穂たちの通う体育館のある駅で、章穂は断然こちらの方が練習しやすかった。

円と隆臣は同じ駅だが、みんなとは反対方向だった。

バス停では円や陽一郎と会うことがあったが、今日は誰もいなかった。

始発なので席に座ってスマホを触りながら混雑した電車に乗り換え、出社した途端4歳年上の先輩につかまった。

「北嶋、まだ始業には早いけど仕事だよ。 あいつら、あれだけ待たせておいてまさかの大量の仕様変更。 まずは承認図の再提出だ。 とりあえず返却図に目通して変更箇所ざっとつかんで。 9時半から会議。 納期変わらずだから早く承認図再提出しないと今度は工場がパニックだよ。」

「・・・えー・・・。」

抱えている案件の一つに大量の変更が発生したようで、慌ただしい一日が始まった。


「ナツ? 電話もらってたのにごめん。 今帰った、これからごはん。」

結局終日会議や客先との仕様確認などでバタバタし、帰宅したら10時半だった。

それでもまだ隆臣は帰っていなかったので、自分の分の夕食を温めながらキッチンで夏実に電話をかけた。

「お疲れだね、もう11時になるよ。 ごめん、別に用事なかったんだけど。」

信用金庫に勤める夏実はこの間の春から融資担当となり、傍で見ていたよりずっとシビアな融資の仕事に落ち込んだこともあったが最近慣れて自信もついてきたのか、また楽しく仕事をしているようだった。

喜怒哀楽の激しい方で、またそれを隠すのが下手なので夏に落ち込んだ時はかなり心配したが、今は落ち着いたようで最近は帰宅も早いようだった。

「いや、いいよ。 昨日、桜井んとこ行って来た。 結局隆臣も入会するから一気に三人増える感じでさ。」

夏実が楽しそうに笑う。

「隆臣くん、ずっとやりたそうだったもんね。 昨日一緒に練習したんでしょ?」

「いや、昨日は店は休みだったけど製菓学校時代の先輩が実家のケーキ屋継いでリニューアルしたから、ってお祝いに行ってたみたいでさ。 飲んでる席から合流したよ。」

武士の情けで、またカギがあるだのないだの騒いだことは伏せておいた。

「そっかあ。 アキも隆臣くんとか圭輔くんとかいたらあっち行きたいでしょ?」

夏実が明るく言うので章穂も笑いながら返す。

「うん、でも遠いからな。 1月末だか試合あるって言ってたろ? あれ、桜井じゃなくケイと組もうと思って、だからまたあっちやこっちでケイたちとは一緒に打てるしね。 夏実は聡美と組んで女ダブ出ろ、な? 聡美、上手いぞ。」

「あー、また聡美ちゃん褒める、もう! ・・・あれ、でも桜井くんはどうすんの、アキと組むつもりだったんじゃない?」

「うん、そうかもしれないけど・・・。 まあ、隆臣やケイや桜井とそのへんはまた話すよ。」

レンジが音を立てたので、夏実が話を畳んだ。

「今週土曜練習よね、行く?」

章穂がちらりとカレンダーをみた。

「行きたいな。 ナツも行くなら夜そっち泊めて。」

ここのところ忙しくて夏実の部屋も久しぶりだな、と思うと夏実が嬉しそうに笑った。

「うん。 じゃ、飲んで帰ろうね。」

「酒弱いくせに、居酒屋好きが!」

「天然しめじの炭火焼が期間限定らしいよ!」

週末は練習のあと夏実の部屋に泊まることにして電話を切った。

「ただいま! あ、兄ちゃん。 あれ、ご飯まだ?」

そこへ隆臣が帰ってきた。

「おう。 さっき帰って今電話してたとこ。 お前のも温めとくから着替えてくれば?」

二人はビールを注いで、仕事の話やバドミントンの話をしながら食事をした。

途中、母親が様子を見に来たが、ドラマが気になるようですぐにキッチンから姿を消した。

食事が終わったところで、隆臣がふと聞いてきた。

「ケイくんや聡美ってさあ、バド入会すること、キョウちゃんに言ったかどうか知らない?」

突然の質問に章穂が固まっていると、隆臣が少し頬を赤く染めたのがわかった。

「いや、あの三人、よくつるんでるじゃん。 ケイくんと聡美がまたバド始めたらキョウちゃんむくれちゃいそうだな、って。 サト、まだ言ってない、って言ってたからさ・・・あまり空いたらなんか意味深だったりするから・・・早めに言ったらって・・・おせっかいなこと言ったかな、オレ。」

要は、二人が仲よくバドをすることで恭子が傷つかないかが心配なんだな。

章穂は隆臣を見た。

「どうだろう、また聞いておくけど。」

話はそれでおしまいになった。

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