-1-
バドミントンの練習のあと圭輔たちと飲んで最終バスで帰ってきた章穂は、翌日早いと言った弟に先に風呂を譲った後でのんびりと湯船に浸かり、部屋に戻るともう1時近かった。
入浴中に彼女の夏実からメールが届いていたが、さすがに返信は遠慮する。
「今日、練習どうだった? 今度私も一緒に混ぜてね。 おやすみ」
短いメールだったが、章穂は小さく笑って明日の朝に返信することにした。
電気を消して目を閉じると、バスの中で動揺した後にぽろぽろと静かな涙をこぼした聡美の顔を思い出し、大きなため息 をついた。
「聡美も・・・ケイもなあ・・・。」
居酒屋でも当然のように聡美の隣に座って何かと聡美を気にかける圭輔と、圭輔が自分をかまってくれる度に本当にうれしそうな、それでもそれを押し隠そうとしている微妙な笑顔を浮かべる聡美の姿を正面から見ていた章穂は、もどかしく思って寝返りを打つ。
酔いに任せてぽろりと聡美にかけてしまった微妙な言葉は、自分が思ったより聡美に与えた衝撃は大きかったのだな、と、今更に思う。
・・・そりゃ、恭子も圭輔に対する恋愛感情を最近隠してもいないからな、聡美が遠慮するのもわからなくもないけど・・・。
「いつまでも全員仲良しの幼なじみ、ってのも、いいかどうかなんてわかるかよ。」
小声でつぶやくと章穂はもう一度目を閉じて眠りについた。
翌朝いつも通りに起きると隆臣はもう出かけるところだった。
「これ、隆臣! カギ持ったの? 晩御飯は?」
「持った、持った! 今日も遅くなるけどご飯はうちで食べるから! いってきます! あ、兄ちゃんおはよう、もう行くわ!」
相変わらずにぎやかな隆臣の姿に章穂はなんだか笑いがこみあげてきた。
「おう。 財布に札足しとけよ!」
昨日お金がないと騒いだ隆臣の姿を思い出してそう言うと、母親がキッと隆臣を睨んだ。
「またアキにお金借りたの! 10倍にして返しなさいよ!」
「い、いってきます!」
隆臣は返事もしないで大慌てでドアを開けて出ていった。
章穂はまだ怒っている母をみて笑いながら席について用意された朝食を食べ始めた。
一人暮らしの会社の同期が毎朝席で菓子パンをかじっている姿を見ているので、甘えているとは思いつつも実家生活は最高だと思う。
男だからか急な泊まりや夏実との旅行もあまり詮索されることもなく、心地よく放置してくれる両親にも感謝していた。
「アキ、隆臣が卵焼き残してったのよ、温めなおす? 食べてくれない?」
保育園の事務所で働いている母親が隆臣の残り物を持ってくる。
「このままでいいよ、いただきます。」
ご飯を食べていたら、起きたら常に持ち歩いているスマホが 震えた。
「あ・・・。」
聡美からのメッセージと知り、章穂は右手をぬぐってから目を通す。
「章くん、昨日はバスで取り乱してごめんね。 来週から、圭ちゃんと臣とで楽しくやってきます!」
また、困惑しながら涙を流した聡美の顔が浮かんで、章穂は苦笑いしながら短い返事を返した。
「昨日はいらないこと言ってごめんな。 またじっくり飲もう!」
そう返信しながら、昨日の練習を思い出した。
久しぶりに試合形式で入った圭輔とのコンビネーションは、高校時代となんら変わらずスムーズだった。
圭輔が左、章穂が右に並んだフォーメーションの時が一番強い、ということも変わっていなかった。
ぶつかることもなく、お見合いすることもほとんどなく、「アキ!」「ケイ!」「任せた!」「取れる!」という短い言葉でもお互い分かり合って、本当に楽しくできたことが純粋に嬉しかった。
昨日は一緒に打てなかったが聡美のプレイも懐かしかったし、ちらちらと聡美のプレイを横目で見る圭輔の姿に至っては高校時代と全く一緒で吹き出しそうになった。
大学時代の桜井とのダブルスもやりやすかったが、やはり幼なじみで親友の圭輔には叶わないな、と実感した。
隆臣も入るようだし、三人でまた楽しくやってくれたら、そしてオレと夏実もたまには一緒にできたら最高に楽しいよな!
そう思い出して、そういえばまだ夏実に返信していなかったことを思い出し、通勤中にのんびり返信しようと決めた。
8時過ぎに家を出てバスに並び、夏実に返信する。
「おはよう。 昨日は結局三人で飲んで帰るつもりが隆臣も来たので四人で飲んで帰った。 隆臣も入会決定。 今度の試合には聡美とペアで出たらどう? 俺は圭輔と組むからまた一緒に練習する。 夏実も一緒に行こう。 じゃ、今夜電話する。」
夏実からはすぐに返信があった。
「聡美ちゃんとダブルス、出たいです。 また今夜しゃべろうね。」
バスに座って窓の外を見ると、隆臣と笑う聡美の顔を思い出した。
隆臣とは同い年ということもあり、互いに恋愛対象でないことも明らかで、だからか一番自然体でいられるようだった。
・・・二人とも、お互いの前では素直になれるんだろうな。
叶わないと知りつつも恭子への気持ちが募っている隆臣のことが、急に愛しく思えた。




