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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
横山陽菜の場合
57/308

-17-

夜が明けるといつもの朝がやってきた。

会社で働いていた頃より遅めに起きだすと、朝食はしっかり取る。

店の混み具合によっては昼食や夜食を満足に取れないこともあるので、朝だけはしっかり取ることにしている。

和食党の亮一にあわせ、週のほとんどが白いご飯とお味噌汁が並んだ。

「お、今日はなに、この魚?」

顔を洗ってさっぱりした亮一がキッチンに入ってくる。

「西京漬け、ってやつ。 あまり食べたことなかったけど、お母さんに持たされた。」

白みその焦げた香りが香ばしい魚を見ながら亮一はテーブルにつく。

「いただきます。」

二人は食事をしながらカレンダーを睨んで今後の予定を確認した。

「カナちゃんのDM、ドラフトは見せてもらってたけど、こうやって刷り上がってきたら何倍もステキだね。」

キッチン横のキャビネに乗せてある一周年記念のDMを見ながら陽菜が笑うと、亮一も同意する。

「ああ、オレも思った。 こうやってハガキになるとずっと見栄えするな。 データの整理もう一度して、今週中には宛名印刷して、来週早々投函、かな。」

「もうすぐ一周年だもんね。 あ、配るお菓子の打ち合わせ、オミくんとうまくいった?」

陽菜もきれいな箸さばきで魚をほぐすと口に運びながら亮一を見る。

「ああ。 昼が100で夜が150。 余ると思うけど、余ったら親とかケイとかいくらでも引き受け先はあるだろうし、余裕持って手配しとかないと気が気じゃないし。」

陽菜は笑って頷いた。

「・・・今週の日曜は私も美容院行く。 で、来週はうちに来てね。」

「・・・スーツ、みといて。 スーツ着て行くから。」

亮一のセリフに思わず陽菜が固まった。

「え・・・そんな、いいよ・・・普段着で・・・。」

陽菜のセリフに亮一が少し照れた顔で笑う。

「きちんとしときたいんだ。」

亮一の表情に、陽菜は小さく頷いた。

「・・・今日のケーキはチーズケーキにしようと思ったけど、ヨーグルト水切りすんの忘れたの。 シフォンケーキ焼くね。」

「あ、今日はコーヒー届けてもらう日だな、早めに行かないと。」

二人は仕事のモードに切り替えると、急いで食事を済ませた。


ランチが終わろうとする頃、スーツを着た孝誠がひょっこり顔を出した。

「こんにちは・・・まだなんか食べれる?」

カウンターでライムを切っていた陽菜が顔を上げると、孝誠が笑って会釈する。

「孝誠。 こんな時間にこんなとこでどうした?」

「あ、リョウ兄。 S駅で仕事あったから来てみた。 お腹空いた、まだいい?」

硬い髪質の亮一と違って柔らかい黒髪をさらりとかき上げると、孝誠は店内に入ってきてカウンターに座った。

「S駅で? クライアントのとこ行ってたのか?」

水を出してやりながら亮一が孝誠の隣に立つと、孝誠が小さく頷く。

「いや、今日は合同プレゼンで、初めてオレ一人で行かされたんだけど・・・緊張した・・・思ったようにはできなかったよ。」

珍しく亮一の前で泣き言を言う弟を亮一は意外な顔で見つめる。

歳が近いからか、なんとなくお互いを意識し合って弱みを見せないようにしていたが、ネクタイを緩めながらメニューを睨む孝誠はいつもより素直で幼く見えた。

「お前は理想が高いから。 できなかった、って思っても十分こなしてんじゃねえの。」

亮一のセリフに少し頬を赤くして孝誠が顔を上げる。

「・・・あー、マジで気疲れして頭回らない。 なんでもいいから山盛り持ってきて!」

メニューを投げて返す弟の姿にクスクス笑いながらカウンターの中へ戻ると、陽菜がさっそく孝誠に声をかけた。

「コウちゃんのスーツ、久しぶりに見たかも。 ここで会うのも久しぶりね、忙しかった?」

「ここんとこ今日のプレゼンの準備でずっと忙しかったよ。 帰ったらヒトは寝てるし朝もバタバタだし、なんかここしばらく一葉とまともに会話もしてない。」

一気に水を飲み干した孝誠のグラスに水を継ぎ足しながら陽菜が笑う。

「お疲れだったね。 亮一、何作るの?」

「コウ、ビーフシチューとベーコンときのこのパスタ、どっちがいい?」

「あ、シチュー! パン厚めに切ってよ。」

パンを厚くというセリフはこの間隆臣の口から聞いたばかりだ。

「隆臣か、お前は。 同じセリフ言うなよ。」

突然隆臣の名前が出てきょとんとした孝誠が、吹きだした。

「オミと同列かよ。 なんか、落ちた気分。」

「わ、コウちゃん、失礼だね!」

陽菜が笑った。

「あー、この店落ち着く・・・。」

ボソッと呟いた孝誠のセリフは素直に陽菜と亮一の耳に届いた。

温めたシチューを孝誠の前に出しながら、亮一が静かに口を開ける。

「孝誠、オレ、来週陽菜の実家に行ってくる。」

「え?」

孝誠がスプーンをシチューにつっこんだまま勢いよく顔をあげた。

「まだ、親とかケイにもナイショにしてて。 ヒトちゃんにもナイショ、お前だけ。」

照れくさそうな亮一と泣きそうな顔の陽菜を交互にみて、孝誠が屈託のない笑顔を見せた。

「そっか、よかったな。 ・・・その頭はNG、ちゃんとカットしろよ?」

「うるさいな、この日曜行くよ!」

孝誠はまたさらりと髪をかき上げて笑った。

「頑張れ、兄ちゃん。」

・・・ケイも同じようなセリフ吐いたな。

亮一はしっかり頷いた。

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