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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
横山陽菜の場合
54/308

-14-

流れ的にこのままベッドに直行かと亮一は秘かに思いながら、二人は無口なままで家路を急いだ。

家に着くと意外に陽菜は落ち着いた様子で服を脱いだり手を洗ったりした後、様子をうかがう亮一の気配をしっかり感じて亮一に声をかける。

「お茶入れるね。 ケーキ食べよう。」

亮一は自宅用に2個のケーキを買っており、いったん荷物を持って上がった時に冷蔵庫に入れておいた。

「え、今から?」

ビールを一気飲みしたばかりの亮一が目を丸くすると、陽菜が首を傾げて笑った。

「ケーキ無理? 美味しいのいれるから、お茶だけでも飲もうよ。」

何か意図があると酌んだ亮一は小さく頷くと自分もラフな格好へと着替えてキッチンの椅子に腰かけた。

「ミルクティでいいかな 。 ホット? アイス?」

振り向かないで陽菜が聞いてくる。

「陽菜と一緒でいいよ。」

「じゃあ、アイスね。」

しばらく陽菜の後姿をじっと見つめていると、視線を感じたのか陽菜が険しい顔で振り向いた。

「ぼーっとしてない、お風呂用意してきてね! ティータイム終わったらすぐお風呂、熱めのお湯で疲れを癒す!」

「なんだよ、人使い荒い・・・。」

亮一は苦笑いしながら風呂を軽く流し、いつでもお湯を張れる状態にして戻ってきた。

「・・・ハニーミルクティ。 ケーキ開けていい?」

すでにミルクティが用意されており、陽菜がケーキの箱を開ける。

陽菜の好きな和栗のモンブランと、亮一の好きなピラミッド、というチョコレートケーキが並んでいた。

「いつも思うの、私たちの選ぶケーキって、ビジュアルで華がないよね。 茶色と茶色、っていうか。 この間オミくんが残り物くれた時はフルーツタルトが入ってて、なんだか感動した。 ああ、ケーキってこんな感じよね、って。」

確かに地味なケーキが二つ並んでいる姿に亮一も吹きだした。

「でも、これがいいんだもんな。 ・・・はい、フォーク。」

「ありがと。 いただきます。」

二人は行儀よく手を合わせてからひと口紅茶を含んでからケーキを食べた。

「・・・相変わらずここのチョコはくどくないよなあ。 お、アイスティはハチミツ入ってんのか、おいし。」

亮一のセリフに陽菜のフォークが伸びてきて、亮一もお返し、とばかりに和栗のモンブランをかすめとる。

和栗のモンブランも栗の風味がしっかりしているのに甘さがくどくなく 、さすがだと感心しながら味わった。

亮一がアイスミルクティをまた飲むと、陽菜がフォークを置いて、小さく笑った。

「・・・お父さんにもいれてあげたの、このハチミツのミルクティ。 私ね、家族と美味しい紅茶が飲みたくて、資格を取ったんだよ。 なのに、お父さんに紅茶入れてあげたのなんて、何年ぶりだったかな。」

途端に陽菜の目に涙が浮かぶ。

亮一もストローで氷をぐるぐる回しながら陽菜を黙ってみつめた。

「・・・あのね、私、会社に入って最初に亮一のこと知ったのは、同期の雅恵まさえちゃんが同じ部署にイケメンの先輩がいる、って言って見に行った時だったんだ。 亮一は私にとっては、最初は単なる顔のいい会社の先輩、ってだけだった。」

突然の陽菜のセリフにおとなしく座っていた亮一が目を丸くした。

「 ・・・何の話だよ・・・。」

不思議そうな顔の亮一を見て吹きだしながら、陽菜は涙を拭いて続ける。

「・・・それだけだったの。 雅恵ちゃんからたまに『アマノさんがねえ』、って聞くけど、ふーんって、その程度。 でもプロジェクトで一緒になった時、一緒に仕事するようになった時、気付けば亮一のこと好きになってた。 単なるイケメンの先輩から、頼れるイケメンの先輩になって。 プロジェクトが進むに連れて、全幅の信用を置くイケメンの先輩になって・・・2つ目のプロジェクトする頃には、もう顔なんてどうでもよくって、毎日会うのが楽しみな『私の大好きな人』になってた。」

イケメンを連呼された亮一は顔を赤くしながら最後のセリフに軽くこけた。

それでも黙って陽菜を見る。

「まさか、そんな憧れの先輩とつきあうなんて思ってもみなかった。 あの日・・・亮一としたキスのこと、忘れない。 ・・・うれしかった。 一緒にいられるってことが、大好きな人が向こうも私といたい、って言ってくれることが、うれしかったの。」

陽菜はまた大粒の涙を流す。

亮一は声をかけるのもはばかられて、ひと口アイスティを飲んで、涙をぬぐう陽菜を見つめ続ける。

「デスマが続くこともあったし、亮一はクライアントに張りつくことも多かったから会えない日が続くこともあった。 でも、会って話して一緒に寝ると、本当に元気が出たんだ。 ・・・だから、亮一がお店したいから仕事辞める、って言った時、自然に自分がお店に立つ姿が浮かんだの。 カフェで紅茶入れてる自分が浮かんだの。 それまでOL以外の職業考えたこともなかったのに、本当に普通に・・・亮一の隣で笑う自分の姿が鮮明に浮かんだの。」

まだ静かな涙を流しながら、陽菜ははにかんだ笑顔を見せた。

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