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到着したという電話が入ったので、荷物を持って母親と一緒にマンションの下に降りた。
「遅くなってすみません。 ナガセのケーキ買ってきたのでまた食べてください。」
亮一はケーキの箱を渡すと笑った。
「いつもお迎えありがとうね。 差し入れまでもらっちゃって、お父さんといただくわ。 太っちゃう。」
スリムな母親のセリフに陽菜も笑った。
「いくつ買ったの?」
箱の大きさに陽菜が聞くと亮一が少し首を傾げて言った。
「悩んだんだけど、二個じゃ寂しいし、四って数字は嫌う人もいるし、結局五個。」
「まあ、陽菜ちゃん、持って帰りなさいよ。 ・・・いや、今から上でお茶しよう? 五個もそんな、もらいすぎよ。」
母親が慌てて言うが、陽菜の予想通り亮一が首を横に振った。
「まだ、お邪魔はできません。 ・・・実は先日、実家で弟とちょっと話し込んで、自分がいかに臆病で逃げていたかを思い知って、お父さんにもう一度会ってもらえるようにお願いしようと思っていました。 ・・・一年間怖がって逃げてましたが、本当に大事なものを見極めることができた貴重な一年間だったと思っています。 来週、お父さんのご都合よろしければ改めてご挨拶に来させていただきます。 ・・・長い間、ご心配おかけしてすみませんでした。」
亮一がまっすぐに母親を見て頭を下げた。
母親は一瞬固まった後で胸元に掲げていたケーキのボックスを下げて持ち直すと 、わざとらしいため息をついた。
「ほんと、長かった。」
「お母さん!」
陽菜もわざとらしく母親に言うと、母親はケラケラ笑った。
「そう・・・そうだったの。 亮一さんも色々考えていたの。 ・・・一年経とうとしてるもんね。 そういう時期だったのね。」
母親のセリフに亮一が俯いた。
「長い間・・・本当にすみませんでした・・・。」
亮一が頭を下げる姿に陽菜が泣きそうになると、母親が陽菜を見て言った。
「亮一さん来てくれる日は、ちらしずし作るね!」
「・・・うん。」
陽菜は小さく頷くと、母親と手を振って別れた。
いつも手を振る母親は、いつかのあの日と同じようにずっと頭を下げて見送ってくれた。
「・・・いい買い物できた?」
少し車を走らせたところで亮一が無難な質問をしてくる。
昨日のことを思い出して無口になっていた陽菜は一瞬肩を震わせるとちらりと横目で亮一を見た。
「お母さんの手袋、買ってあげた。」
「そうか。」
またしばらく沈黙が続くと、陽菜が続ける。
「車置いたら駅前の居酒屋行こうよ。 ご飯作る元気ないや。」
「疲れてるならなんか買って家で食べる?」
「いや、生中飲みたくて。」
「・・・店、行くか?」
「居酒屋がいい。」
会話はそれで終わり、亮一は目を閉じてシートに身を投げている陽菜の姿を見ながら静かに車を走らせた。
荷物を置いて駅前の居酒屋にとって返す。
はしっこ軍団も、空腹の時はこの居酒屋に寄ってからソレイユに来ることもある。
値段の割につまみが美味しいので恭子や聡美もよく使っている店だった。
しばらく飲んだり食べたりした後、向かい合わせに座った亮一の目を見て陽菜が言った。
「・・・昨日、お母さんがお膳立てしてくれてお父さんと話した。 親子ってこわいよね、私やっぱりお父さんの子だわ。」
突然の展開に話が読めない亮一が戸惑った顔をする。
「ん? お父さんの子って?」
亮一が3杯目のジョッキを空にすると、陽菜が明太だし巻をつつきながら笑う。
「お母さんに怒られちゃった。 お父さんだけが分からず屋じゃないって。 正面から向き合わない私が悪いって。 陽菜の言う事聞いて待ってる亮一も悪いって言われたから、それは私がお父さんをこじらせないでって頼んでるの、って言っておいた・・・。 私が悪かった、待たせてごめん、亮一。」
陽菜が2杯目のジョッキを空にした。
「・・・生?」
「悪酔いしそうだから、梅酒ソーダにする。」
亮一が店員にオーダーするのを待って、もう一度陽菜が言った。
「待たせてごめん。 お父さんと亮一が言い合うとことか見たくなくて、逃げてたのは私。 人のせいばかりにしてたの・・・。 来週、うちの親に会ってもらえるかな・・・カレシ紹介から始めろ、だって!」
目に涙をためて陽菜がそう言って笑うと、亮一はおしぼりのきれいな面を出してそっと陽菜の目にあてた。
陽菜はそのままおしぼりを押し当てて涙をこらえた。
「そうか。 オレもごめん、オレも逃げてた。 いつか陽菜がうまくやってくれるかな、って。 違うよな、大事な一人娘の陽菜と、一緒に住んで、一緒に店やって、これからもずっと一緒にいたいんだ。 わかってもらえるまで何度もぶつかるべきだった。」
『これからもずっと一緒にいたいんだ』
亮一のセリフがストレートに響いた。
「・・・ドリンクきたら一気飲みね。 帰ろう。」
「頼んだとこだっつーの・・・。」
少し潤んだ目の陽菜が言うと亮一が笑った。
二人は本当にあっという間にお代わりを飲み干すと店を出た。




