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森野塚四丁目恋愛事情  作者: mayuki
横山陽菜の場合
44/308

-4-

ぽろぽろと涙をこぼした円の姿を思い出していたら、円本人が空いたグラスを持って自分でカウンターへ向かってきた。

カウンターの四人組は全く円に気付いていなかったので、円が声をかけたら弟の奏に至ってはスツールから落ちそうなくらいびっくりしていて、その姿に亮一も陽菜も思わず笑った。

「あ、マーちゃん、久しぶり!」

聡美は驚いた様子も見せずニコッと円に声をかけて、円がやっとニコッと笑った。

円の笑顔に思わずホッとした自分がいる。

円と恭子は少し似ているところがあり、自分の感情を表に出すことが多いが、聡美はあまり表に出さない。

空気を読むのが痛いほどにウマい、はしっこ軍団一番末っ子の聡美は静かなムードメーカーであることに陽菜も気づいている。

・・・マーちゃんの表情が柔らかくなった・・・よかった。

円がグラスを返しながら笑った。

「陽菜さん、混んできたし席移るね。 サト、久しぶりだね。 圭輔たちと来たんでしょ、そっち行っていい? あ、私、サイドカー、下さい。」

さっきまでの暗い顔とは打って変わって明るくそういう円は、赤ワインをグラスで空けたあと、けっこうキツイサイドカーを頼んだので亮一が苦笑いしたように見えたが、ミックスナッツを準備している亮一に促されて圭輔のテーブルを見た。

聡美が隆臣が食べているシチューをねだると、隆臣が牛肉をほぐしてスプーンに乗せてやり、聡美は隆臣の手を握って自分の口にシチューを運んだ。

隆臣と聡美は部活も同じだったこともあり、とても仲が良かった。

二人はお互いに恋愛感情を持っていないことは明らかで、この二人を見ていると「男女間で友情は成り立つ」と思ってしまう。

「・・・いつも聡美と隆臣が恋人同士に見えちゃうんだよね。 仲いいよな、こいつら。」

亮一も同じことを思っていたらしく、ぼそっと呟く姿に陽菜も同意した。

「気が置けない仲、ってのもいいよね。」

「そうだな。 聡美もオミとヨウの前では割と気を遣ってないからな。 同い年の幼なじみは貴重だよ。」

聡美は円と一緒に圭輔たちに合流した。

奏が心配そうに姉の後姿を見送っていた。

先日酔って好きな人に自宅まで送ってもらい、引き渡しに奏が出てきた話は円から聞いたが、奏もポツリとそのことを話題にした。

カウンターの三人も神妙な顔で円の話を聞く。

それでも、特に茶化すでもない不思議な間が存在し、三人は奏の言うことを黙って聞いた。

奏のドリンクが空いたのを機に陽一郎が追加を注文し、一気にまた雰囲気が変わった。

幼なじみ特有の黙っていても共有する空気のようなものを感じとって、陽菜は少しうらやましいと思った。

途中で圭輔がカウンターに来て、亮一を見ていて覚えたというカクテルを作ってカウンターの皆から驚かれていた。

亮一のことが大好きなこの三男坊は、上手にみんなから愛情をもらってまっすぐに育ってきたのだな、ということがとてもよくわかる。

顔もいい方がだと思うが、マイルドな性格が陽菜はとても好きだった。

そんな圭輔ももう2年間ほど特定の彼女がいないのだが、理由は明らかだった。

・・・いつ動くのかなあ・・・頑張れ、ケイくん!

他人事のように陽菜は思って、圭輔を見る。

しばらくカウンターで騒いでいたがピザが焼けると一度テーブルに戻り、聡美たちとピザをつつく。

じゃれてるふりをして聡美にピザを食べさせてやる圭輔の姿と、それを見てなんだか文句を言う恭子の顔と、三人を見てクスクス笑う円の姿を見て、陽菜は圭輔のことがとても可愛く思えて仕方なかった。


賑やかな軍団が一気に支払いを始めて、陽菜は伝票を片手に各グループから代金をもらう。

他の客の手前、一応代金を徴収するが、いつも少しおまけしていることはメンバー全員が知っている。

「リョウくん、いつもごめんな。」

章穂が財布をポケットに直しながら笑う。

「リョウ兄、ごちそうさま!」

圭輔も手刀を切ってお釣りの札を受け取ると陽菜を見て笑った。

「リョウくん、姉ちゃんの分。」

奏は酔った姉に代わって支払いをすませた。

全員がわらわらと店を出て行く姿に亮一が大きなため息を吐いた後クスクス笑った。

陽菜も並んで全員の姿を見る。

酔った円を陽一郎が抱えるようにして歩かせ、うとうとしていた恭子は両方から圭輔と聡美に腕を組んでもらっている。

隆臣と奏が並んで、章穂は電話で何かをしゃべっていた。

「あ、圭輔! 明後日の日曜、そっち帰るから母さんに言っておいて。」

亮一が弟にそう言うと、陽菜が少しビクッとした。

「え、連休なのに陽菜さんと・・・ああ、陽菜さん、実家に帰る日か。 うん、言っておくよ! お疲れー!」

圭輔が首だけめぐらせて振り返ったので、陽菜も手を振った。

・・・お父さんとそろそろ話きちんとしなきゃ・・・。

陽菜は実家のことを考えて少し気持ちが落ちる。

それに気付いたのか亮一は少し大きな息をつくと、ポンッと陽菜の頭を叩くと先に店内に入って行った。

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