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恭子と聡美を連れて入ってきた圭輔が、カウンターに仲間たちを見つけて一気に顔がほころぶ。
「あれ、なんだよ、今日は勢ぞろいだな。 あ、リョウ兄、席空いてる? サトと恭子もいるんだけど?」
亮一に似た涼しい目元と孝誠に似た黒くて柔らかい髪を持つ三男坊は、幼なじみの恭子と聡美と一緒に飲んでいたようだった。
「圭輔!」
嬉しそうに章穂が圭輔を呼ぶ。
章穂と圭輔と奏は同い年で三人はとても仲がよかったけれど、この二人は同じバドミントン部で主将と副将を務めたこともあり特に仲が良かった。
名前を呼ばれた圭輔も、章穂や奏の姿を見ると白い歯を見せて笑った。
「おう、アキ。 カナとヨウと一緒に飲んでんのかよ。 オレ、こっちに合流したいなあ。」
圭輔のセリフと同時に後ろから恭子、聡美の順番に入ってきて賑やかに店内を見回している。
圭輔が、すがる恭子をそのままにさせながら聡美の世話ばかり焼いている姿を陽菜は懐かしくみつめた。
・・・あったよね、ああいう駆け引きの時期、私と亮一にも。
すっごく短かったけどね。
陽菜は昔を思い出して小さく笑うと、圭輔と恭子の後ろに立つ聡美を見た。
聡美は圭輔が自分を見て何かをしてくれた後、必ずと言っていいほど恭子の顔色を伺う。
恭子が横暴とか、そういうわけではないのだが聡美はどうも恭子の前では素直になれていない気がして、陽菜はそこがとても気になっていた。
一方の恭子は奔放にふるまっていて、圭輔への好意も隠さないし、聡美に遠慮する様子も見せない。
聡美は圭輔と恭子が仲よくしゃべっているときが一番穏やかな笑顔を浮かべており、その姿がなんだか陽菜にはとても痛々しく思えて仕方なかった。
・・・ケイくんは最近聡美ちゃんのことが幼なじみ以上の存在になってきている。
でも、恭子ちゃんもケイくんにアタックし始めた。
きっとケイくんが聡美ちゃんのことを意識し始めたことに恭子ちゃんも気づいたんだろうな。
そして、聡美ちゃんはずっと前からケイくんのことが好きだけれど、あの子が一番自分の気持ちを押し隠している・・・。
それでも、仲良し三人組は危ういバランスを保ちながらこうやって集まって仲よく飲んでいる。
輪を崩すのはイヤだけれどいい加減自分の気持ちが抑えられない三人の姿が、今の陽菜にはとても痛く、そして、眩しく思えた。
先日、亮一に三人の関係が危ういよね、と声をかけたら亮一が一瞬ぽかん、とした顔をしたことを思い出した。
亮一にとって9歳年下のこの弟は、背格好こそ大きいがいつまで経っても小さな弟、という感覚が抜けないようで、圭輔と恋愛ごとが結びつかなかったようだったが、さすがに三人の動向については気付いているようだった。
「幼なじみ、って、けっこうやっかいな時、あるもんだな。」
小声で漏れた亮一のセリフに、陽菜は思わずうなずいた。
「そうだね。 私は亮一と幼なじみじゃなくってよかった、って思うもん。」
「なんか、わかる、そのニュアンス・・・。」
素直に同意して、亮一は陽菜から受け取ったボトルで聡美のカクテルを作っていた。
・・・大切な輪があるのはとってもステキだけど、時にはその輪が自分の心を苦しめるんだね・・・。
陽菜はもう一度圭輔を見て、そして少し苦い顔をしている亮一を見た。
そうこうしているうちに、はしっこ軍団最後のメンバー、隆臣がお腹を空かせて飛び込んできた。
亮一得意のビーフシチューを温めてやりながら、陽一郎以上に元気印のこの新米パティシェのことを陽菜は見つめる。
無邪気、という言葉が一番当てはまる隆臣は、一応隠しているつもりらしいが恭子のことが好きだった。
しかし、恭子は圭輔のことを好きだという態度を隠さないので、隆臣は全く動く素振も見せないが、恭子に何かとかまっていく姿は、兄の章穂を始め、奏と陽一郎には見透かされているようだった。
そこへ、同い年の聡美が来てカウンターの連中としゃべる。
「聡美ちゃんはヨウくんとオミくんとしゃべってる時が一番素顔だよね。」
陽菜が亮一に呟くと、亮一も大きく頷いた。
「あれくらい素直にケイとしゃべったらいいのにな。 サトもいつまでキョウに遠慮してるのやら。」
もう隠そうとしない亮一の呟きに思わず陽菜も同意する。
「・・・サトちゃんが一番何考えてるかわからないよ。」
陽菜のセリフに亮一が思わず吹いた。
「なんか、不穏な響きだよ、陽菜。」
「や、悪い意味じゃないけど・・・サトちゃんが一番色々我慢しておさえてるように見えちゃうよね。」
「・・・だな。」
「・・・あ、リョウくん、ケイちゃんがだし巻きといつものピザと明太きゅうり欲しいって。 あと、ミックスナッツ。 ナッツ持ってくよ。」
隆臣をみんなでバカにしながら大声で笑っていた聡美がそう言ってカウンターをのぞいてきた。
亮一と陽菜は、屈託なく笑っている聡美の顔を見て、ホッとして頷いた。




