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次々と亮一の幼なじみが店にやってきて、一気に賑やかになった店内を軽く見渡すと、陽菜は満足そうに大きな息をつく。
亮一はブツブツ言いながらも幼なじみたちがこの店に来てくれることがうれしくて仕方ないらしい。
かくいう陽菜も、亮一と付き合うようになりこの少し年下の幼なじみたちと知り合うにつれて、彼らことが大好きになっていた。
陽菜はもう一度亮一の横顔を見る。
・・・ほんと、うれしそうな顔しちゃって。
ブルーの照明に照らされた恋人の顔が今夜はやけに艶めいて見えて、陽菜は思わず握り拳を作って、慌てて視線を逸らした。
・・・いつまでも亮一にベタ惚れだなあ、私も・・・。
隣に立つ恋人の横顔に見とれて一人で赤くなっていたら、いつもと変わらずテンションの高い陽一郎の笑い声が耳を直撃して、陽菜は小さく笑った。
陽菜が亮一の言うところの「はしっこ軍団」と仲よくなり始めたのは、亮一と付き合い始めて半年くらい経った頃からなので、もう5年以上前になる。
激務に自宅に帰る余裕がなくなった、と一人暮らしをしていた亮一は、月に一度実家に帰るように自分で決めており、つきあって半年経つ頃に初めて実家に連れて行ってもらったのだった。
孝誠と圭輔がいるのは当然として、なぜかその日の天野家には孝誠の恋人の一葉に加え、章穂、聡美、陽一郎、隆臣までがいた。
章穂が車を買ったので、圭輔、聡美、隆臣、陽一郎でドライブをした後、亮一の母に誘われてご飯を食べに来たとのことだった。
いきなり家族だけでなく亮一の幼なじみが大量にいることに陽菜は卒倒しそうになったが、人懐っこいみんなに救われて緊張することなくすんなりと天野家と幼なじみたちに受け入れられた気がした。
弟である孝誠の彼女、一葉は孝誠の同級生とのことで陽菜より3つ上だったが、高校時代からしょっちゅう遊びに来ているようで、幼なじみたちともとても仲が良かった。
・・・ヒトちゃんが妙にみんなと仲よくて、なんだかすっごい焦った覚えがあるなあ・・・。
陽菜はなぜか昔のことを一気に思い出すと、あらためてカウンターに座る三人組と亮一を見る。
・・・この子たち、私のこと仲間って思ってくれてるかな。
一葉のことを思い出すと、今でもなぜか焦燥感のようなものを感じてしまうことに、陽菜は気づいていた。
昔のことを思い出しているところに亮一が声をかけてきたので、コロナビールを冷蔵庫から出して、切っておいたライムを取り出してビンに挿すと、注文をした奏と陽一郎の前に置いてやる。
そのビンを陽一郎がわざわざ取り上げて奏に渡してやる姿を、陽菜はこそっと見て笑った。
・・・ヨウくん、カナちゃんのお兄さんみたい。
ま、きっと、それでバランス取ってるんだろうな・・・。
この店をオープンして少しした頃、変に酔った状態で一人でここに来て亮一相手に愚痴って帰った陽一郎の姿を少し懐かしく思い出す。
「・・・オレ、あいつらの兄ちゃんじゃない? でも、レンとソノの二人を見てたら、ああ、あいつらホントにキョウダイだな、って思うんだ。 ・・・オレは、あいつらとは違う血が半分入ってる。 血は関係ないって、思うけどさ、思うけど・・・ダメなんだよ、リョウくん・・・。」
陽一郎は腹違いの弟と妹をとても可愛がっていたけれど、他人がどう言ってもぬぐえない孤独感を抱えているようだった。
奏も心に傷を負っていて人を寄せ付けない時期があったらしいが、孤独な二人はいつしか一緒に時間を過ごすようになり、お互いの足りない部分を補い合っているように見えた。
いつも陽一郎が甲斐甲斐しく奏の世話を焼くが、あまり酔わない陽一郎がたまに酔うと一気に「年下キャラ」になる。
内緒だが、その「年下キャラ」の陽一郎の姿と、奏が優しく陽一郎の相手をするのを見るのが陽菜の秘かな楽しみだった。
・・・今日はアキくんたちもいるし、酔っ払いヨウくんの出番はなさそうかな、つまんないの。
奏に遠慮なく体をぶつけながら笑っている陽一郎と、久しぶりに奏と並んで嬉しそうに飲んでいる章穂と、二人の間で穏やかに笑う奏の三人三様のお酒の飲み方を、陽菜はフードを作りながらずっと眺めていた。
ふと外をみると、亮一の弟の圭輔が立っていた。
「あ、ケイまで来た。」
亮一が照れ隠しで低い声でそう言う姿を見て小さく笑うと、今度は窓際の席でずっと電話でしゃべっている円を見る。
何やら難しそうな顔をしてもう30分以上電話をしている円のことが気になっているが、それでもここで飲んでいるということに少し安堵していた。
・・・何かあってもうちにいたらちゃんと見守ってあげられる・・・って、母親か、私!
陽菜もいつの間にか思考が保護者化しているようで、一人で突っ込んだ。
圭輔と恭子と聡美が入ってきたので、陽菜は笑顔で迎えた。




