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しばらく聡美と隆臣が雑談している間に圭輔は本当に寝てしまい隆臣が笑った。
「ケイくん、マジ寝してる。 疲れてたんだな。」
隆臣のセリフに、昨夜自分の部屋で一緒に寝てくれていたことを思い出し、聡美は少し胸が痛んだ。
「お前も寝てたら? あと30分はかかると思うよ。」
隆臣が言うので聡美が笑う。
「私、基本、車じゃ寝ないよ?」
「ああ、そうだった。 すぐ寝るのはマーちゃんだ。」
聡美はまた圭輔の寝顔を見つめていたら隆臣が話しかけてきた。
「島谷さんから何言われた? オレとケイくんのダブル終わったとき、お前泣きそうな顔してたけど。」
隆臣のセリフに思わず体を震わせると隆臣が続けた。
「悪気なく相手傷つける人もいるからさ、軽く流しておきなよ。 なんかあったら・・・まあオレは土曜はほとんど行けないけど・・・オレやケイくんや桜井さんに相談したら? サトは限界まで自分でためちゃうから心配。」
高校時代に圭輔と章穂の幼なじみというだけの理由で先輩たちから何かときつく当たられていた時も、隆臣が色々フォローしてくれたことを思い出す。
・・・そしたら、今度は隆臣目当ての同期の子たちから嫌味言われたっけな。
いらない情報まで思い出した聡美は、それでも笑って答えた。
「うん、ありがとね。 ・・・島谷さん、ケイちゃんのこと好きみたいだ・・・。」
圭輔は本格的に寝ているようなので、隆臣相手に思わずこぼすと隆臣が苦笑いした。
「ケイくんは別に相手にしてないみたいだから。 お前もうまく交わせ。」
「うん・・・。」
聡美はため息をつくと座席に身を投げた。
「ありがとな。」
「おやすみ!」
圭輔たちの家はエリアの一番奥にあり、そこまで車で行くと方向転換が面倒なので車に乗せてもらった時は運転手の自宅で下してもらうことになっている。
隆臣の家の前で二人が降りると、車庫入れ前の隆臣が運転席から笑った。
「よく寝てたね!」
圭輔が遠慮なくあくびをしながら笑った。
「もう少し寝たかったな。 どこか遠回りするとか気を利かせろよ。」
「わかるかよ、そんなこと!」
二人の掛け合いに聡美が笑うと隆臣が聡美を見た。
「明日、右腕筋肉痛かもよ、オミ。 仕事に支障・・・。」
「支障でまくりだよ、どうしよう・・・。」
聡美のセリフを横取りして隆臣が言って圭輔も聡美も笑った。
「じゃあね。」
二人は隆臣に手を振ると家に向かって歩き出した。
「疲れた?」
聡美が圭輔の左に並んで圭輔を見上げると圭輔が苦笑いした。
「たかが30分だけどよく寝たわ。 サトも今日はよく動いてたな、よく寝れるんじゃない?」
聡美が小さく頷く。
少し坂になっている道を二人で歩いていたら自宅が見えてきた。
「うち、ちょっと寄っていけば? 一杯飲まない?」
急に圭輔がそういうので聡美はぽかんと口を開けて圭輔を見上げると圭輔が吹き出した。
「さっき母さんからメール来て、昼にリョウ兄が赤ワインくれて今から開けるから聡美も来れば、って。」
母親からの誘いと知り、平日の10時前という時間にも関わらず聡美は笑ってうなずいた。
「赤ワイン飲みたい! おばちゃんがいいっていうなら、じゃあ行く。」
「よし。 まずはビールな。」
圭輔が笑って聡美の背中を軽く押して自分の家の方に向かせた。
「あ、圭輔、聡美! バドの帰り?」
二人で圭輔の家の門を開けようとしたら上から声が降ってきて恭子が自分の部屋から顔を出した。
「びっくりした。 そうだよ、オミに乗せてもらってな。」
二人でびくっとして不自然な体勢で振り向くと恭子が手を振った。
「そうなんだ、遅くまでやってんのね。 ・・・あれ、サト、圭輔んち行くの?」
恭子の当然といえば当然の疑問に圭輔が答えた。
「母さんが赤ワイン開けるっつーからサト誘ったんだ。 ・・・お前も来る?」
圭輔のセリフに恭子が笑った。
「行く!」
恭子はすぐに窓を閉めて部屋に消えた。
「あー・・・サトとまったり飲みたかったのに、賑やかなのが来るな!」
圭輔が今度は遠慮なく聡美の肩を抱いて玄関へ連れて行く。
聡美が肩に置かれた圭輔の手にドキドキしていたら、圭輔がドアを開けた。
「あ、オミも呼ぼうっと。 ただいま、聡美連れてきた!」
いいことを思いついた、とでもいうようにニヤッと笑った圭輔はまた聡美の背中を押した。
「聡美ちゃん、来てくれたの! リョウがくれたワイン飲もう!」
明るい声で圭輔の母親が玄関まで来てくれた。
「遅くにごめんね、お邪魔します。」
聡美が笑うと母親が圭輔を見上げながら答える。
「ケイと三人で飲むよりサトちゃんいてくれた方が楽しいもん。」
「なんか失礼だなあ、それ。 あ、恭子も来る。 オミと章穂にも声かけるわ。」
圭輔のセリフに母親が笑った。
「賑やかね、明日仕事よ?」
「わかってるよ。」
結局恭子と隆臣が遅れてきて賑やかにワインを開けた。
「まさかワイン飲むぞって呼び出されるとは思わなかった!」
隆臣がグラスを揺らせると向かいに座る恭子が笑った。
「オミもバドミントンするんだってね。 楽しそうだなあ、あんたたち!」
恭子が言うと圭輔が笑う。
「楽しいぞ。 恭子も来れば? 初心者大歓迎みたいだけど。」
恭子はぐいっとグラスを空けると聡美を見た。
「やだ。私、モノ使ってやるスポーツ苦手なの! テニスとかゴルフとか!」
今はしていないがダンスに夢中だった恭子が叫んだ。
「賑やかでいいわね。 もう一本持ってくるわ。」
圭輔の母親がほぼ空のワインを掲げて笑った。
「圭輔が買ってきたのがあるだろ。」
父親が言うと圭輔が吹いた。
「隠してたのに!」
子供のようなセリフにみんながどっと笑った。
結局12時過ぎに解散となり、後片付けもそこそこに圭輔の母親に追い出されみんな帰宅した。
恭子はまた酔ってご機嫌だった。
聡美は風呂に入るのもおっくうでしばらく部屋でくつろいでいたら圭輔からラインが入った。
「おやすみ」
圭輔の部屋はまだ電気が点いていた。
「おやすみ・・・。」
聡美は今日のことを思い出し、そっと目を閉じた。




