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「天野くん、上手いんだね。 オドロキ。」
圭輔と聡美がアップを終えてコートを出ると、待ち構えていた理子が圭輔に話しかけた。
「そうか? そりゃ、どうも。」
圭輔がタオルで顔を撫でると理子にそっけなく返して、それでも理子の近くに腰を下ろした。
「お、オミだ、あいつのプレー観るの久しぶり。 なあ、サト、こっち来たら?」
どこに座ろうか躊躇していた聡美に圭輔が声をかけてくれたので、聡美は黙って圭輔の隣に座って隣のコートで隆臣と桜井がアップを始める姿をみつめた。
「あは、懐かしいね。 オミの打ち方だわ。」
「サトはずっと練習一緒だったもんな。 あー、マジ高校思い出す。」
隆臣とは高校三年間隣のコートでプレーしてきたので、アクションの大きい隆臣の打ち方を聡美は懐かしく眺める。
「聡美ちゃん、天野くんと一緒にバドミントンやってたの?」
理子が背後から聞いてきたので、聡美は振り返った。
「はい、高校の部活が一緒でした。」
圭輔も振り返る。
「あと、オミとオミの兄ちゃんもな。 サトとは大学の交流試合でもよく顔合わせたな。 花井くんとのダブルス、結局一回も勝てなかったし・・・くそ、思いだした。」
大学時代の交流戦の時に何度かミックスダブルスで圭輔と対戦したことのある聡美だったが、聡美と同期の花井輝義とのダブルスはとても強かったので圭輔は毎回敗北していた。
「へえ。 ほんと、仲いいんだね。」
理子が呟くと圭輔が小さく笑った。
しばらくしてアップを終えた隆臣と桜井も圭輔の近くに寄ってきた。
「あっつい! 桜井さん、ずっとやってたから元気だね。 オレ、もう右腕痛い・・・。」
隆臣がラケットを床に置くと圭輔の隣に座り込んだ。
「お前、打つ時無駄に動きが大きいからな。 今からでも直せば? ・・・つーか、タオルないのかよ、汗すごいぞ?」
圭輔のセリフに隆臣がカバンをあさる姿を見て聡美が予備のタオルをカバンから出すと嬉しそうに隆臣が奪い取った。
「お、サトは気が利くねえ?」
「隆臣、絶対忘れてくると思った・・・。 高いよ!」
「お前、ほんと忘れ物多すぎだろ! ちゃんと仕事できてんのか、オレが心配だわ・・・。」
三人のやり取りを見ていた斉藤がくすくす笑った。
「聡美ちゃんたちは本当に仲いいのね。」
斉藤のセリフに圭輔が斉藤を見上げて笑った。
「まあね、付き合い長いんで!」
桜井もくすくす笑いながら理子を振り返った。
「で、今度は天野くんの友達が入りたいんだって? ここんとこ仲間が増えてうれしい。」
無邪気な桜井がそう言ったので圭輔が苦笑いした。
「会社の同期。」
「し・・・島谷さん、っていうの。 島谷理子さん。」
圭輔のそっけない返答に逆に聡美が気を遣ってフォローしてしまう。
「そうなんだ。 よろしく、えと、島谷さん?」
「島谷です。 よろしくお願いします。」
桜井が挨拶するのに合わせて、理子が笑って周りのメンバーに会釈した。
コートが空いたままなのを見て桜井がざっとメンバーを見渡すと一人で頷いた。
「さて、と。 隆臣くんと天野くんでオレたちと対戦しない? 聡美ちゃんは斉藤さんとこっちで女ダブで入ればいい。 コート空いててもったいない!」
「お、お願いします。」
圭輔がもう一度タオルで自分の顔を拭くと、聡美の肩に手をかけて立ち上がった。
「いたっ・・・重いよ!」
文句を言って圭輔を見上げると、最近よく見せる穏やかな笑顔を浮かべていたので聡美は律儀にドキッとしてしまった。
「うー、立つのも面倒になってきた。 ケイくん、引っ張って。」
「なんで野郎の手なんて引いてやんなきゃなんないんだ! もうへたるなんて軟弱だなあ。」
そういいながら右手で隆臣を引き上げてやると、隆臣が大げさに振りをつけて立ち上がり、みんなが笑った。
「ほら、聡美。」
圭輔は次に当然のように聡美に手を差し伸べてきたので、ちらりと理子をみたら理子はじっと聡美をみつめていて気が引けたけれど、おとなしく手を差し出して立たせてもらった。
ラケットをくるくる回していた隆臣がポンッと聡美の頭を叩いて笑った。
「あ、そうだ、聡美、あとで久しぶりにミックス入ろうよ。」
「うん、いいよ。 久しぶりだね、最近コート借りて集まったりもなかったもんね。」
不動のダブルス時代を思い出して笑いながら聡美が返事をすると、途端に圭輔が噛みついてきた。
「何言ってんだよ、オレがサトと組むんだっつーの! オミは適当にやれば。」
「えー、オレもサトと組みたいよ! オレらのダブルス、有名だったんだからな、な、サト?」
「うるさい、オレが先だ!」
二人が遠慮なく聡美の取り合いを始めたのを見て桜井や斉藤が大笑いした。
「大人気だね、聡美ちゃん。」
「モテモテ、ってこういうこと言うんじゃないの?」
「・・・なんかすみません・・・大人げない。」
理子の視線が痛い気がして、聡美は騒いでいる二人を置いて斉藤とコートに入った。
「天野くん、聡美ちゃんにはベタ甘だね! 私には冷たいのに。」
コートの外から理子の声がした。
「そりゃそうだよ。 サトは特別だもん。」
圭輔の声が耳に心地よかった。
「隆臣、入るぞ!」
聡美がサーブをしようとしたら隣でもゲームが始まった。
・・・懐かしい・・・。
聡美は昔を思い出しながらとてもうれしくなって力を入れてサーブを打った。




