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体育館までの短い道のりを島谷はずっと圭輔の隣にいた。
聡美はその後ろをぼんやりと着いて歩くが、何度も圭輔が振り返ってくれて妙に気を遣われているようで苦笑した。
体育館に着いたので圭輔と更衣室前で別れると、島谷はそのまま聡美について更衣室に入ってきた。
「聡美ちゃん、って言うの?」
セーターを脱ぎかけたところに突然話しかけられてビクッとしたが、聡美はセーターを畳みながら笑った。
「はい、城戸聡美です。 島谷さんはお名前なんて言うんですか?」
島谷は更衣室内のベンチに座って聡美をみた。
「私はサトコ。 一字違いだね、聡美ちゃんはどんな字書くの?」
名前が一文字違いと聞き、なんとなく親近感を覚える。
「私は聡明の聡です。」
「へえ。 私は理科の理。 さっき天野くんが聡美ちゃんのこと『サト』って呼ぶからドキッとしちゃった。 自分が呼ばれたかと思って。」
理子が頬を染めてそんなことを言うので、思わず聡美は身構えた。
「天野くんがね、いつも『地元のツレが』『地元のツレが』って話してんの。 どんな子か興味あったんだ、会えてよかった。」
無邪気に見える笑顔にやはり聡美が身構えると、理子は今気づいたかのように辺りを見渡した。
「あれ、ラケットは?」
「あ、ラケットはオミが・・・もう一人近所の子が来るんですけど、私とケイちゃんのラケットを預かってくれて。 車で来るから。」
理子はうなずいた。
「へえ、仲いいんだね。 もう一人の子って、男の子?」
「はい。 私と同い年です。」
理子が自分の髪をもてあそびながら笑った。
「そっか。 よかった。」
・・・よかった、って、何が?
思わずつっこみたくなったけれど、聡美は気づかないフリをして着替えを済ませた。
「私も入会しよう。 仲よくしてね、聡美ちゃん。」
・・・私、今、きっとヒドイ顔してる・・・。
聡美は理子に笑い返したつもりだったが、笑顔に全く自信がなかった。
「来たな、サト。 ほい、ラケットとシューズ。」
更衣室を出たところで隆臣が待っていて、シューズとラケットを渡してくれた。
「あー、もう一人の近所の子って、彼?」
理子が笑顔で隆臣に近寄ると、隆臣が訳もわからないまま会釈した。
「えっと?」
隆臣が露骨に聡美にSOSを投げかけたので、聡美は靴をはき替えながら吹きだしそうになる。
「ケイちゃんの会社の同期の方、島谷さん。 入会したいんだって。」
隆臣が理子を見てもう一度会釈する。
「へえ、ケイくんの! あ、どうも、北嶋です。」
「島谷です。 天野くんと仲良しさん?」
『仲良しさん』という理子の言葉がおかしかったのか、隆臣が吹きだした。
「仲良しさん! うーん、仲良しさん、っていうか、幼なじみってやつなんだけど・・・。 なあ、サト、オレらってなんていえばいいの? あ、腐れ縁! 高校まで一緒だったしなあ?」
いいことを想いついたとでもいうように隆臣が聡美を指さし、聡美もその言葉が妙に気にいった。
「そうだね、腐れ縁かな。」
「誰が腐ってんだ、こら!」
「きゃっ!」
そこへ背後から圭輔がやってきて聡美の頭を叩いたので、聡美が驚いて悲鳴を上げた。
「びっくりした!」
「ほら、着替えたならさっさと上がるぞ。 オミ、オレはサトとアップするからお前は誰かに打ってもらえば。」
圭輔が理子の存在を気にしないでそう言うと、途端に隆臣が拗ねた。
「えー、オレは今日が初日なのに、ケイくん冷たいなあ! ケイくんこそ誰かと・・・あ、桜井さん今上がったとこだよね、捕まえよ。 先行くよ!」
隆臣が軽快に走って行き、三人はぞろぞろと二階の体育館へ向かう。
「ねえ、天野くん。 私、やっぱ入会したいから世話役の人に話通してね。」
圭輔は返事をしないで苦笑いした。
二回目の練習参加ということで、何人か顔見知りになった聡美と圭輔は挨拶をしながらコート周りに荷物を置いてアップを始めた。
隆臣は章穂の友人の桜井と話をしながらストレッチをしている。
理子は圭輔の隣にちょこんと座ると露骨に圭輔を見つめた。
圭輔は気づかないフリをして聡美の方ばかり見るので、聡美は居心地が悪くて困った。
「あ、聡美ちゃんに圭輔くん! こんばんは!」
「斉藤さん、お疲れ様です!」
先日、聡美とダブルスを組んで章穂と圭輔にやられた斉藤聖子が奥から手を振ってきた。
「聡美ちゃん、アップは圭輔くんと入るでしょう? 終わったら入ろう!」
中学生の男の子がいるという斉藤はそんな年には見えなくて、とても明るい人だった。
「うん、一応・・・。」
ちらりと目の端で理子を気にしたが、理子は圭輔を見つめていた。
「あ、コート空いたよ、入りなよ。 で、こちらは見学の方?」
「あ、はい、入会しますけど! 島谷です。」
斉藤が理子に話かけてくれた姿に露骨にホッとして圭輔が立ち上がると当然のように聡美の手を引いてくれた。
視界の端で理子がムッとしたように見えたが、無視してコートに入る。
「あー、監視されてるみたいでやだ。」
ボソッと圭輔が呟く声に思わず吹きだすと、圭輔も一緒にクスクス笑った。
「さ、基礎打ちから、な。」
白いシャトルがまっすぐに飛んできた。




